恋を演じる-2
椿がスタジオ入ると、スタッフから、先にスタジオに入っていた共演者を紹介された。
「こちら、女優の乃上さん。」
「お世話になります、乃上 葵です。よろしくお願い致します。」
そう言って、葵は綺麗な御辞儀をした。
葵が頭を上げると、椿と目が合った。
少し目尻が垂れた、大きくて真面目そうな瞳と、黒のワンレングスのロングヘア、そして鈴のような涼やかな声からは、品の良さが滲み出ていた。
そして撮影が始まった。
撮影のコンセプトは『甘い朝』
二人は恋人で、男性がプロポーズをした翌朝、甘い時間を過ごすというシチュエーションだ。
照明とカーテンで作られた朝の日差しの中、二人はベッドの上に座った。
椿は後ろから葵を抱きしめながら、指輪とブレスレットがきちんと映るように、撮影をリードしていく。
撮影とはいえ、たくさんの人前で、このようなシチュエーションを演じるのに全く羞恥心が無い人はいないだろう。葵の体から緊張が伝わってきた。
椿はこっそりと耳打ちした。
「ねえ、緊張してるでしょ」
「は、はい…」
「可愛いね」
「へ…?」
「彼女のことが可愛いのは当然でしょ?」
「あ…」
彼女。
緊張でぎこちなかった葵だが、椿の言葉で芝居のスイッチが入った。
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