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人魚の雫  作者: 麻婆豆子


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逃亡者-3

 一方の椿つばきは、渚を連れ帰って一夜が明けた。


 目が覚めると、椿の隣で、ラムネがお腹を出してスピスピと眠っていた。


「(怠い。怠いけど、あの人と話をしなきゃ)」



 椿がくぐもった声を出して、気怠そうにベッドから降りると、ラムネが起きてしまい、置いていかないで〜!と言いたげに、ミーと鳴いた。




 椿は片腕でラムネを抱っこしながら、客間をノックした。


「起きてる? 入ってもいい?」

「いーよぉー…」


 ドアを開けると、白い猫脚のベッドの上で、掛け布団にくるまっている渚の姿があった。


「まだ眠い…」

「じゃあ、そのままでいいし、急には追い出さないから答えて」

「なぁに…?」

「犯罪に巻き込まれて逃げてきた?」

「違うよ。家が嫌になって逃げてきた」

「成人してる?」

「そもそも戸籍が無いから、私は存在していないことになっているし、正確な年齢は分からない」

「は…?」

「戸籍も住民票も無い」

「いや…待って待って…。え、何で?」

「何で? と言われても…。ずっとそうして生きてきたから。だから、身分を証明するものは何もない」

「えっと…」

「心配しなくても、椿くんのイメージを損なうようなことはしないよ。椿くんが心配しているのは、そこでしょ?」

「……」


 図星を突かれた椿だが、上手い返し言葉が見つからなかった。


 得体の知れない人とは関わりたくはない反面、自分のことしか考えていない、冷たいヤツだとは思われたくないという気持ちがあった。



「もしも私を匿っていることが世間にバレたとしても、椿くんがヒーローになるように仕向けるから、安心して」

「……」


 椿は、反応に困って黙ることしかできなかった。



 椿の困惑を察したのか、空気を変えたかったのか、菖蒲はガバッと起き上がって元気に言い放った。


「ねえ!お腹空いた!」




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