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響き合う心と初めての共闘

旅が始まり、言葉を交わせない二人は少しずつ互いを理解しようと試みる。ノクトは魔法で光の蝶を飛ばして感情を伝え、リラは歌で応える。そんな中、森の魔物に襲われた二人は、初めてリラの歌とノクトの魔法を連携させ、見事な共闘を見せる。

リラとノクト、そして小さな竜のフレア。奇妙な三人組の旅が始まって、数日が経った。言葉を話せないノクトとの旅は、初めこそ戸惑うことばかりだったが、リラはすぐにその状況を楽しむようになっていた。


「ノクト、見て見て!綺麗な色のキノコ!」


リラが指差すと、ノクトは無言で頷き、懐から小さな羊皮紙を取り出して『それは毒キノコだ』と書いて見せる。


「えー、そうなの?じゃあこっちのお花は?」


『それも毒草。触れるとかぶれる』


「もー、この森、毒だらけじゃない!」


ぷう、と頬を膨らませるリラを見て、ノクトが少しだけ困ったように眉を下げた。そして、すっと指を振るうと、彼の指先から生まれた小さな光の粒が、ふわふわと宙を舞う青い蝶の形になった。光の蝶はリラの周りをくるくると回り、やがて彼女の鼻先にちょこんと止まった。


「わぁ…綺麗…」


それは、言葉の代わりに彼が紡いだ、ささやかな謝罪と慰めの魔法。リラは、彼の無表情の裏にある優しい心を感じ取り、にこりと笑った。


『リラ、この人、魔法で会話する気なのかな』


フレアが、リラの頭の中で呆れたように呟く。


「いいじゃない、素敵だよ!ね、フレア!」


リラがそう言って歌い始めると、今度はノクとの番だった。彼は足を止め、リラの歌声に静かに耳を傾ける。彼女の歌には、歌詞はない。けれど、喜びや悲しみ、旅の期待といった感情が、旋律となって直接心に響いてくる。言葉を失った彼にとって、それはどんな雄弁な会話よりも深く、心を揺さぶるコミュニケーションだった。

お互いのことを少しずつ理解し始めた、そんなある日のこと。

彼らが森の奥深く、苔むした遺跡のような場所で休息をとっていると、突如として地面が揺れ、周囲の木々がなぎ倒された。


「な、なに!?」


地中から現れたのは、巨大な甲殻を持つ魔物、フォレスト・センチピード。百足ムカデのような体に無数の鎌状の足を持ち、その巨体で遺跡の石柱を薙ぎ倒しながら、獲物である彼らに向かって突進してくる。


「フレア、下がって!」


リラは叫ぶが、フレアの吐く小さな炎は、分厚い甲殻に弾かれるばかりだ。

ノクトが即座に前に出て、右手を突き出す。彼の掌から放たれた氷の槍がフォレスト・センチピードの頭部に突き刺さるが、致命傷には至らない。魔物はさらに凶暴性を増し、巨大な顎でノクトに襲いかかった。

ノクトはバックステップでそれを躱し、次々と魔法を繰り出す。風の刃が甲殻を切り裂き、土の槍が足を砕く。彼の魔法はどれも強力で洗練されていたが、敵の再生能力が高く、なかなか決定打を与えられない。

(どうしよう…ノクト一人じゃ、いつか魔力が尽きちゃう…!)

リラは焦った。自分には戦闘能力はない。できることといえば、フレアを庇って隠れていることくらい。だが、本当にそうだろうか? ノクトは言っていた。『あなたの歌には、生命力を活性化させ、心を繋ぐ力がある』と。

もしかしたら、私にもできることがあるかもしれない。

リラは覚悟を決めた。恐怖を振り払い、大きく息を吸い込む。そして、ノクトに向かって、ただひたすらに歌った。それは応援の歌。励ましの歌。あなたの力になりたいと願う、祈りの歌だった。

すると、不思議なことが起きた。

リラの歌声が戦場に響き渡った瞬間、ノクトの身体が淡い光に包まれたのだ。消耗していたはずの彼の魔力が、内側から湧き上がるように回復していくのが、リラには直感でわかった。


「…!」


ノクトも、自らの変化に気づいて驚いたようにリラを振り返る。彼の瞳が、わずかに見開かれた。リラは歌い続ける。もっと強く、もっと想いを込めて。

歌声と魔法。二つの力が、戦場で初めて一つに重なった。

ノクトの動きが変わった。先ほどまでとは比べ物にならないほどの速度と威力で、次々と魔法を放ち始める。リラの歌が、彼の魔法の触媒となり、その効果を何倍にも増幅させているのだ。


「《集え風よ、螺旋の刃となりて敵を貫け》!トルネードランス!」


ノクとの手から放たれた巨大な風の螺旋槍が、フォレスト・センチピードの硬い甲殻を紙のように貫き、その巨体を宙へと吹き飛ばした。断末魔の叫びを上げて地に落ちた魔物は、二度と動くことはなかった。

戦いが終わり、森に静寂が戻る。リラは息を切らしながら、その場にへたり込んだ。ノクトがゆっくりと彼女に歩み寄り、無言で手を差し伸べる。

リラがその手を取ると、彼はいつものように羊皮紙を取り出した。そこに書かれていたのは、たった一言。


『ありがとう』


その短い言葉に、どれほどの感謝と驚きが込められているか、リラには痛いほど伝わってきた。

言葉を交わさずとも、心は繋がる。そして、二人が力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられる。

初めての共闘は、彼らの間にあった見えない壁を取り払い、確かな絆を刻み付けた。

空を見上げれば、目指す「天空の揺りかご」はまだ遥か彼方だ。だが、今のリラには、もう何の不安もなかった。隣には、最強で、そして誰より優しいパートナーがいるのだから。

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