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東雲一高eスポ部っ!  作者: とら猫の尻尾
第一章 初心者だらけの革命前夜
3/50

第3話 だから俺、目立ちたくないって言っただろ!

 ――これはもう、完全にアウトだ。


 大牙は見ていた。

 東雲沙羅が、満面の笑顔で手を振るその光景を。

 そしてそれを見た、周囲の男子全員の鬼のような形相も。

 もちろん、右隣の丸山も――


「ぐおおぉぉ……裏切り者ぉぉぉっ!」

 そして左隣の志乃原も――

「まさか……君がリア充側に寝返るなんて……」


「ち、ちょっと待てお前ら! 話せばわかるって!」

「わかりたくもないでござるッ!」

「バイバイ大牙くん、お幸せに〜っ」


 置き去りにされた。

 こっちの言い分は完全スルーで、二人は悲しみに暮れながら校門へと走り去っていった。


 大牙は全力で追いかけようとしたが――


「伊勢木くーん、こっちですわよ〜ん♪」


 鈴の音のような声がまたしても響く。

 そして、彼はキレた。


「……やかましいわッ!」

 次の瞬間、大牙は一直線に沙羅へ向かって歩き――


「ちょ、ちょっと!?」

 その手首をつかみ、ずるずると裏手へ引っ張っていった。


 場所を人気のない校舎裏に移した二人。


「おまえ、マジでやめろよ! 俺の学園生活、これで完全に詰んだわ!」

「うふふ、引きこもりコース一直線ですわね」

「笑うな! 俺はこう見えても、人間関係めっちゃ苦手なの! ようやく友達できそうだったのにッ!」

「知ってますわよ?」

「知っててやってたんかい!」

「その前に、手……離してくださらない?」

「え? あ……すまん」


 慌てて沙羅の手首を放すと、彼女は軽く息をついた。


「殿方に力任せで握られると、さすがに痛いですわよ? お嬢様肌なもので」

「知らんわそんなの……」


(……やべえ。またやっちまった)

 カッとなると暴走するのは、大牙の悪い癖だった。

 その場で空を仰ぎ、深呼吸。

 気を取り直して、彼女を見ると――

 沙羅はじっと、大牙を見つめていた。


「伊勢木大牙、15歳。7月13日生まれ、血液型AB型。11歳のときに小学校のサーバーにログイン。中学ではタブレットの管理ロックを解除し、市内の教育ネットワークを改ざん。……ふふ、なかなかのやんちゃぶりですわね?」

「え……」


 大牙の顔から、音を立てて血の気が引いた。


「お、お前……なんでそのこと……」

「別に脅すつもりはありませんわよ?」

「じゃあ何のために!?」

「ただの確認ですわ♪」


 沙羅は笑った。いつもの調子で、あくまで上品に。


「この国では若くしてITに通じる者は異端児扱いされますもの。社会から白い目で見られる。……伊勢木も、そうしてここへ来たんでしょう?」

「……!」


 図星を突かれ、大牙はうつむく。


「だからこそ、貴方にお願いしたいのですわ」


 沙羅は一歩前に出て、真っ直ぐ大牙を見た。


「この学園を、廃校の危機から救ってほしいのです!」

「――はい?」

「来年度をもって、新入生の募集は打ち切り。つまり、このままだと、私たちの代でこの学校は終わりますの」

「マジかよ……」


 沙羅は芝居がかった動きで両手を広げ、やや誇張気味に語った。


「この学校、実は全然パッとしないんですの。目玉なし、特色なし、予算もなし。あっても謎の彫刻とかに使われますの。結果、若者が寄りつかない寂れた学校に……」

「彫刻は関係なくね?」

「だからこそ、eスポーツですわ! この時代の新トレンド! 我が東雲学園に旋風を巻き起こす起爆剤! その鍵を握るのが――貴方!」

「え、俺!? 俺にハッキングしろってこと!?」

「違いますわ! わたくし、不正は絶対に勧めませんわ!」

「でも、匂わせてたよね!? めっちゃ匂わせてたよね!?」

「いい加減になさいっ!」


 沙羅の声がビシィィィッと裏校舎に響いた。

 続けて、今度はやわらかい声で――


「伊勢木は、目的もなく悪事を働くような男じゃありませんわ。わたくし、そういう目は確かですのよ?」


 その言葉に、大牙は、言葉を失った。


 手足が震えた。けれどそれは恐怖ではない。怒りでもない。

 もっと、わけのわからない――心が熱くなる感覚。


 でも。


「悪い。……もう、PCには触らないって、親と約束したんだ」


 それだけ言い残し、大牙は彼女の前を通り過ぎていった。

 数歩進んだあとで、ちらりと振り返る。


「……勧誘、がんばれよ」

 そう言って、大牙は走り去っていった。


 その背中を、沙羅はしばらく見送っていた。

「……言われなくても頑張りますわよ」

 その頬には、ほんのりと石楠花しゃくなげの色が浮かんでいた。


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