第17話 くたばれクソやろーですわ?
第5ターン終了まで、残り40秒――
敵が今から最短ルートで突っ込んできたとしても、もう間に合わない。
守備側の勝利は確定だ。あとは、その勝利をどう拾うかだけ。
|Bloody Spectacle。
双眼のゴーグル男は、銃口を半開きのドアに向けた。
拓也はスゥーッと息を吸い込んで――
「タイマンやりてぇなら最初っから言えこの脳筋ド下手くそォォォ!! イセキのバーカ! バァァァカ!!」
マイクに向けて叫びながら、射撃キーを叩く。
ライフルの弾丸がスチール製のドアを木っ端みじんに吹き飛ばす!
爆音と粉塵の中、双眼の巨体が滑り込むように室内へ――
「――ッ!?」
敵は反射的にトリガーを引く。
弾丸は拓也の目前に飛び込んできた“何か”を捉え――
だが、それは凹みすらせず、ポーンと天井へ跳ね返った。
(……発泡スチロール?)
そんな軽い感触。だが正体はアタッシュケース。
『ブートキャンプ・OSG』の仕様で、非破壊アイテムと設定されている。
そのため、銃撃エフェクトだけがやたら派手に見える。
拓也は一瞬、状況の把握が遅れた。
「そこかーっ!?」
声を上げて振り向いた先――女兵士がマシンガンを構えていた。
が、エイムは外れている。
(いける!)
拓也は眉間を狙い――
――その時。
『これでゲームセットだ』
男の声。どこか冷めた、勝ちを確信した声。
拓也の脳は即座に音源を探し始めた。
それが音声チャットだと気づく直前、
背後でアタッシュケースが――カラン、と落ちた。
振り向こうとする。
だが跳ね返ったケースが、視線を塞いだ。
「チッ!」
横に回り込もうとしたが、そこに敵の姿は――ない。
「はっ?」
混乱したその瞬間、拓也の耳元で響く。
『『くたばれクソやろー(ですわ)!!』』
二方向からの同時射撃。イセキと沙羅の音声チャット。
反応する前に――
「――マジかよ……やられた」
画面が真っ赤に染まり、視点がガクッと床に倒れる。
倒れた視点の中、女兵士が勝ち誇ったポーズを取り、
その足元では――
体長80cm、耳の大きな妖精キャラが、
ショットガンを頭上でクルクル回しながらキメポーズ。
観戦モードに切り替わり、
CPUが拠点に向かって走っていく背中を映す。
そして――タイムオーバー。
『YOU WIN!』
ファンファーレとともに、勝利の演出が画面いっぱいに炸裂する。
CPUが拠点を守り切ったことで、拓也チームの勝利だ。
「はあーっ!? ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなーっ!!
こんな最低の勝ち方があってたまるかーっ!! バグか!? 運営呼んでこいッ!! 公式に苦情メール送るぞ!? 夜中に! 長文で!!」
拓也は怒りにまかせて、ヘッドセットを床にぶん投げた。