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東雲一高eスポ部っ!  作者: とら猫の尻尾
第一章 初心者だらけの革命前夜
16/52

第16話 CPUに友情を感じてどうすんだ?

 第5ターン。防衛側は如月拓也。

 五分間、ただ拠点を守り抜けば――彼の勝利が確定する。


 だが、そんな安易な算段は、彼の脳内フォルダには最初から存在していなかった。

 これは“勝って当然”の戦いだ。だからこそ、完膚なきまでに叩き潰す。

 相手の精神を根元から砕き、自ら関わることすら恐れる存在へと自分を昇華させる。

 それが如月拓也が定義する、“勝利”という概念だった。


「いっそ、俺は手を下さず――CPUに奴らを葬らせるか?」


 ふと脳裏をかすめたその悪辣なアイデアに、ニヤリと唇を吊り上げる。


「くく……自分が負けた相手がCPUだと知ったときの顔、見てみてぇな……屈辱に身悶える様はきっと、滑稽で、美しい」


 だが――その顔に浮かんだ愉悦の笑みは、長くは続かなかった。


「……それじゃ、つまらねぇな」


 ぼそりと漏らした自分の声に、自身が最も驚く。

 ――いつの間に、こんな茶番に“面白さ”を感じていた?


 始まって30秒。

 〝Bloody〟こと如月拓也と、エキスパートCPUは共に拠点内で潜伏していた。


 棚には薬品の瓶がズラリ。

 床には割れたビーカーが転がり、紙資料が散乱。

 部屋の真ん中には、よく分からん大型機械がドーンと鎮座。


 まるで理科準備室みたいな空間だが――

 そのゴチャゴチャ具合が、逆にありがたい。


 潜伏には最高。隠れる場所には困らない。

 守備側にとっちゃ、天国みたいな拠点だ。


 ただし、敵の侵入口は二つ。

 北側のドアは半開き。

 東側は、もはやドアすらない開放通路。


 拓也は東側を、CPUは北側をそれぞれマーク。

 脳内シミュレーションはすでに完了している。

 突撃してくるのは――おそらく“イセキ”。


「やっぱアイツ、初心者のフリしてるだけだろ。じゃなきゃ、CPUの難易度を“エキスパート”に設定するなんて暴挙に出るか? バカか、天才か、それとも……ただの狂人か?」


 2分経過。


「来ねーのかよ……!」


 イライラはすでに閾値を突破していた。

 ゲーム中とは思えぬ怒気が声に乗り、通話コマンドを叩き込む。


「おーい? 怖気づいたか? そのまま時間切れだと俺の勝ちなんだけど?  ……まさかそっちの女、俺を悩殺するポーズの練習中かよ! どんだけだ!」


 全力の煽り芸。

 だが、返ってくるのは無音。――通信回線は開いたまま。届いているはずなのに。


「え? おまえら、スピーカー切ってんのか!? 音無しでFPSって正気か!?」


 3分経過。


「もういい……殺る。絶対に、殺る!」


 東側通路から飛び出す。

 索敵? 警戒? そんなのはクソ喰らえだ。

 俺の弾速は言葉よりも速い――


 一方で、北側通路へと滑り込むCPU。

 無言ながら、まるで意志を通わせているような動き。

 指示など出していない。だが、彼は動く。俺の意思を読んで。


「おいおい、まじかよ……。エキスパートクラスってのは、プレイヤーの“心”まで読むってのかよ……」


 拓也の中に、今まで感じたことのない感情が芽生える。

 CPUに、シンクロを感じた瞬間だった。


 そして――ついに、敵のリスポーン地点へ到達。


「……引きこもってんじゃねぇよ」


 そこには誰もいない。いや、動かない敵がいるだけだ。

 立ち尽くす拓也の隣で、CPUもまたピタリと動きを止める。

 ――まるで、困惑しているかのように。


「ぷっ……」


 吹き出した。思わず。


「いいぜ……おまえは戻ってろ。これは、人間同士の問題だ。この退屈な茶番に、あんたの出番はねぇ……お疲れさん」


 CPUに『拠点へ戻れ』のコマンドを打ち、背中を見送る。


 その背中がドアの向こうに消えたとき――拓也の口元に、再び笑みが浮かんでいた。


 だが、それは勝者の笑みではなかった。


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