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ペドロッキ地下迷宮

登城前に、パドヴァの迷宮について話しておかねばなるまい。


なぜならば、この迷宮よりあたしの伝説的魔導士人生が始まるのだから。


ルシーダの酒場でいつものようにほんのりとした酩酊を愉しんでいたある日、腰が抜けるほどの白人美少女に声をかけられた。


「あなた、スペルキャスターなんですって?」


「は?スペルマ?なんだって??」


「|リュシドゥラグダー《process guide》でしょ?ってこと」


「使い方、ガイドぉ・・??」


「もう、なんなのよ。マギア使えるんでしょ?マスターから聞いたの」


カウンターへと胡乱気に視線を投げると谷間やパンツをチラ見する中高生のごとき挙動の店主が伺えた。


フッ、と微笑ましい気分になりながら対面の椅子を指す。


「まま、美少女なんだから(?)お掛けなさいよ。酒は?お茶にする?」


「んー、いらない。・・・けど真面目な話だから、あなたの酔いが醒めるまで待つわ」


「ふ~~ん・・・美少女待たせるのもナンだし、いいわ・・・よっと」


思わせぶりに両手で自分の肩を抱き、叫ぶ。


「アルコール脱水素酵素、爆騰!!!!!!」


酩酊感が一気に激しい悪寒と頭痛に入れ替わり、えずく。


「ヴォェエエエ!!!!!アセトアルデヒド脱水素酵素、爆裂ァアアア!!!!オヴォェエエエエ!!!!」


床にめいぱいゲロると、スッキリ爽快。爽やかな秋空のように澄み渡った意識で美少女を鑑賞する。


ファミコンゲームの魔法使いぽい白い衣装に身を包み、悩まし気に口元を押さえている。


「あれだけの深い酩酊が一瞬で消えてる・・・あなた、神聖系の使い手なの?」


「神聖?・・・ホーリーたかしのワザは使えるけど、あたしはアーク厨闘士でもチャイナさんでもあなたのお姉さんでもなんでもないわよ」


「酔ってないのにハナシが通じないのは困るの。どうしたら聞いてくれる?」


「あー、オトコならテーブルドンか殴るかしてくる、ってトコか。いいわよ。聞くわ」


色の抜けた長いまつ毛をぱちぱちっと瞬かせ、姿勢を正す美少女。

化粧もしてないのにこの美貌・・・これは色、音、温度すべての波形を保存せずにはいられないわね。


胸の谷間(絶壁)から絶対無敵記録くんを呼び出し、テーブルの端に置く。


「・・・なに、そのかわいいの」


「シマリスよ、気にしないで」


「こっち見てる・・・」


記録くんをガン見したまま硬直してる。

真面目はハナシはどーしたんでしょーか・・・


「よかったらもってっていいわよ。邪魔だし」


「そう?じゃあ・・・ひゃっ!」


手を伸ばした美少女のソデから飛び込み、胸許からアタマを出す。


「ふふ、くすぐったい」


ラッキーwwwww直接接触で器質的情報もゲット!等身大肉人形を量産して肉の林を作るぜ!・・・マスターに一体渡して千年ツケで飲める店にするのもアリね。


「じゃあ、聞いて」


日本語に直訳すると「では聞け」とかぶっきらぼうな命令形なんだけどこの少女の声音だとしっとりと滑り込んでくるようなニュアンスになんのよね~言語て不思議だわ。



そしてほんの数分後、あたしは早くも酒が欲しくなっていた。


「やーよそんな、子供の探検ごっこに付き合うなんて」


「ごっこじゃないの。命の危険もあるわ。本気なのよ」


「本気、ってもあんた地下の危険をどんだけわかって言ってんの?」


水、ガス、崩落。

前世の怪談に、溺死のマイキー、窒息死のクレイ、圧死のロイドなんてお化けが出る廃坑があったっけ。あと一人が思い出せないけど・・・


「20回潜行して11回依頼を達成してるわ」


「あら、ベテランじゃん。だったら余計胡散臭いわね・・・なぜあたしを?」


「魔術師が必要なの。数日前、封筒を切断する所作を見て相当の使い手と感じたんだけど、先ほどの酩酊からの覚醒を見て確信したわ」


女として言うけど、女の確信は二兆五千億パーセント思い込みなのよね。


男は、て?


男はなんも信じないじゃん。ひたすらネチネチと疑って、それでいて成り行きとその場の思い付きで行動して失敗の反省は絶対にしない。


フェミ色な評論はどうでもいいとして、嫌だなぁ。


「あんたとあたしだけで潜るの?」


「他にメンバーがいるわ。男が三人、これから話すつもり」


やっぱりゲンナリ。


「絶対モメるわよ」


まあ、美少女の取り巻き、てんだから美少年とはいかないまでもそこそこの並みが揃ってはいるんじゃないかしら・・・といった期待は現地においてもろくも崩れ去った。


「そのガキが魔道士?ハッ、冗談はよせ」


「ボーナのことは信じてる。すごい才能を秘めてはいるんだろう、ボクも感じるよ。でもなぁ」


「へぇ、カワイイじゃん。今日は俺が後ろヤるわ、嬢ちゃんは俺の前歩けよ?」


舐めプ、嘘つき、ロリコン。

ダメ男三人衆じゃんなんだコレ。


特にカオがなー・・・・・白人青年風でシワも無くツルンとしてて石膏デッサン教材や70年代少女漫画の悪い男風・・・享年あたりのラノベ界隈でいう悪役令・・・息?て感じで今一つそそらない。


しかも臭い。


口直しにとなりの美少女を見上げる。


「ふーん、あんたボーナて言うんだ。帰っていい?」


はっし、と肩を掴まれ・・・うっ、首が、おい、絞まっ・・・


「みんなお願い。足りない分はあたしが頑張るから」


「・・・チッ、勝手にしろ」


「そこまで言うなら・・・ボクもフォローするよ」


「おいボナ、首絞まってるぞ。殺すなら俺にくれよもったいねえ」



キッツい動物性脂肪臭で目が覚めた時、あたしはロリコンに背負われて中層とかいう深さのとこに居た。マジか・・・


ちなダメ男達の名前はマイキー、クレイ、ロイドだった。

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