キミの背中に、残りわずかな日めくりカレンダーが見えるんだ
午前0時を回り、僕の前を歩くキミの背中から「11月30日。サトル君と映画」と書かれた紙が剥がれ落ち、消えていく。次の紙には「12月1日。サトル君と遊園地」とあった。
キミが背負う日めくりカレンダーは残り25枚。
それは僕にしかわからない彼女の寿命。「余命1ヶ月」の人間の背中に日めくりカレンダーが見えるのだ。死因も時刻もわからないのが難点だが、その日に死を迎えるのは絶対だ。
だから、サークルのコンパで彼女の背中にアレが見えた瞬間、僕は告白した。
そばにいて彼女を守りたい、叶わなくとも最期の時はそばにいたい、と考えからだった。
「さ、櫻井さん。オレ、ずっとキミのことが……」
「私もサトル君のことが好き、だよ」
彼女は突然の告白に驚く様子もなく即答してくれ、今に至る。
アパートの前まで送ると、別れ際に彼女が言った。
「ねぇ、明日……ってもう今日だけど、遊園地に行かない?」
「それならここに行かないか?」
オレはスマホで調べたばかりの口コミサイトを見せた。
「イルミネーションが綺麗なんだって。櫻井さんこういうの好きでしょ?」
「うん!行く行く!」
嬉しそうにオレを見上げた彼女の表情が一瞬曇った。
「どうかした?」
「ううん、何でもない」
俯き、首に巻いたマフラーをきゅっと握りながら彼女は言った。
「明日は…うちに泊まらない?」
「サトルくん!サトルくん!!」
気づくと彼女がオレに覆い被さり泣いていた。
遊園地の帰りに車にはねられたことを思い出すまで少し時間がかかった。彼女は……無事なようだ。
「ごめんね。やっぱり何も出来なかった……」
(……?)
「サトルくんの背中にカレンダーが見えていたのに」
カレンダー。確かに彼女はそう言った。
「キミの背中にも……気をつけて……」
一瞬驚いた表情を見せた彼女だったが、向かいの商店の窓に映る自分の後ろ姿を確認すると、背中に手を回す。
遠のく意識の中、オレは死を覚悟して目を閉じた。
「サトルくん、朝だよ。起きて〜」
ひと足先に起きた彼女が朝食を用意してくれたのだろう。トーストとコーヒーの香りがする。
「ん。おはよう」
「今日は何する?おでかけ?それとも……」
ベッドから立ち上がり彼女を抱き寄せる。背中には残り7枚となったカレンダー。オレの背中にも同じ枚数が付いているのだろう。
「今日は家でのんびりしたい。キミと一緒に」
残り1週間。オレ達は共に生きていく。