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 俺は少しずつスピードを上げていく。こいつは間違いない。俺たちをつけている。不自然な曲がり道にも動揺していない。これはやばい。

彼の足が強くアクセルを踏み込む。パトカーの運転も荒くなる。途中のクラッシュ。二台ともが平然だ。犠牲者への想いなんて少しもない。今がある理由を知らない。この世界は全て、あらゆる犠牲の上に成り立っている。

 危ない運転には限界がある。彼等を追うパトカーが交差点で横からくる車に突っ込まれる。意識の残る私服警官がドアから這い出てくる。彼等の車も急ブレーキ。運転席から彼が降りてくる。彼は私服警官を見下ろす。余計なことをしやがって。彼が口ごもる。

 その背後から浮かぶ一つの影。振り返ろうとした彼の鼻頭をかすめる銃弾。鳴り響く銃声に彼の思考が停止する。

 ビチッという嫌な音に身体が反応する。顔が自然にそっちへ向く。目の前に浮かんだ私服警官が白目を向いた。眉間に空いた穴からは煙が上がっている。彼の思考が戻ってくる。

 おい!

 彼が発した久し振りの言葉だ。彼はすぐに振り返り、もう一人に向かってそう言った。

 あれ? なにかがおかしい。彼がそう感じる。

彼が感じた違和感はちょっと複雑だ。今のこの現実が、どこか客観的に感じられる。まるでカラスのように全体を俯瞰しているかのような感覚がある。そしてさらに頭の奥ではナレーションのように彼の行動が、今起きている現実が言葉になって聞こえている。どういうことだ? これって俺の独り言か? それにしてはいやに説明的だな。なんてことを考えていると、彼の相棒がゆっくりと煙の浮かぶ拳銃を降ろした。

 はやくここを離れるぞ。相棒の言葉に彼は従う。私服警官の死体を背に車に戻ろうとしていた。彼が運転席のドアに手をかけようとしたそのとき、背後から聞こえてくる衝突音。彼と相棒が同時に振り返ると、私服警官の車に突っ込んだ車が煙を上げていた。

 彼はその場で足を止める。しかし相棒はその車に向かって足を動かす。何故だ? その感情は本人にしかわからない。

 突っ込んだ車から髪の長い女性が自力でドアを開けて降りてくる。

 なんだ? おかしな女だ。額から血を流しているのに笑っている。彼はその女を訝しげに見つめている。すると彼女の目が瞬間的に輝いたのを目にとめる。俺を見ているのか? それは彼の勘違い。彼女は彼の先を見つめていた。

 彼の後方には相棒の姿がある。彼女はまっすぐ相棒に向かって歩き出す。彼の横を過ぎるときも、まっすぐ相棒だけを見つめていた。彼はドアを開けて運転席に乗り込んだ。

 すぐに来るはずの相棒が来ない。窓から覗くと相棒と彼女が抱き合っているように見えた。なにを考えているんだ、こんなときに! 置いていってしまおうかと、ハンドルを握りエンジンをふかす。けれど俺一人じゃなんにもできやしない。彼はイライラとアクセルを踏んで窓越しに相棒と彼女を睨みつける。数十秒が経過し、彼女が動き出した。相棒を置き去りに彼に向かって歩き出す。彼はなぜだかドッキとする。彼女の微笑が眩しく感じる。

 彼の眼差しが変化する。無意識の微笑。彼女の微笑にはなぜだか胸を躍らせる力がある。

しかし彼女の様子が次第におかしくなる。彼はそれまで気がつかなかった。彼女の手には相棒から受けっとっていた拳銃がある。それを自然と構え、その勢いのまま発砲する。銃弾は彼の額を貫通する。彼は薄っすらとした微笑を浮かべたままハンドルにうつ伏せ、激しくクラクションを鳴らした。

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