二十四、内村 佐吉(29) 会社員〈強盗〉 1
二十四、内村 佐吉(29) 会社員〈強盗〉
これでも俺は、まともな会社員だ。今日はちょっとしたアルバイト。まぁ、収入的にはこっちの方が上なんだけどな。
こんな時代にこんなアルバイトは不自然だし、長く続けるには無理がある。そろそろ潮時だな。今回を最後にするのもいいだろう。
彼は河原に停めた車を降り、一人で歩いている。空は薄暗く、朝陽が雲間に顔を隠している。真っ黒なスーツの裏ポケットに手を入れ、取り出したサングラスを顔にかける。
今日が無事に終われば、明日からはしばらくまたサラリーマンだ。これを機会にあの子と結婚でもするかな? 喜ぶだろうな。なんせ俺はあの子を愛している。
普段の彼は小さな町工場の会社員。鉄の塊を削ってなにかの部品を作っている。
高校を卒業後、職業訓練校に二年通い、今の職場にありついた。特に不満もなく六年間を過ごしている。嫌な先輩はいるが、いい先輩もいる。会社も学校も変わりはない。仲良くしたい奴とだけ仲良くすればいい。嫌な奴とは適当な距離をとっている。
あの子は会社の後輩で、出会ったその日に声をかけた。まだ会社に採用される前の、面接途中だった。事務所での採用にも関わらず、社長が現場に連れてきて色々と説明をしていた。彼は一目で惚れていた。可愛いなぁ。その声が漏れてしまい、彼女は照れながらも不審な目で彼を睨んだ。彼は慌てて、ここはいい会社だから一緒に働けるといいね。なんて笑顔をみせた。
彼女の採用が決まり、出社初日の電車の中、彼は無意識に彼女の存在を探していた。正直いって顔はあまり覚えていない。その真っ赤に染まった頬だけが目に焼き付いている。なんとなくそれっぽい女の子はいても、どこか違う。駅を降りて会社へと歩く十分間。彼は彼女に会えることを願っていた。しかし、彼女の姿は見えなかった。
着替えを終え、会社の中庭で仲間とくつろいでいると、彼女がやってきた。恥ずかしそうにうつむいて挨拶をする彼女に、彼は元気に挨拶を返した。おはよう! 彼女が笑った。
その日の就業時間終了のベルがなると、彼は仕事場から窓ガラスばかりを気にして視線を送っていた。会社の更衣室は工場の二階にあり、その窓ガラスから見える階段を上っていかなくてはならない。社長以外、全ての社員が行きも帰りもその階段を利用している。タイムカードも更衣室に置かれている。
彼はその日、残業だった。この会社では週に三日程度の残業がある。休日出勤も年に五・六日はある。そのお陰もあり、年齢の割りにはそこそこの給料をもらえている。
彼は彼女が階段を上って行くと時計を確認し、更に仕事への集中力がなくなっていく。話がしたい。彼女のことで頭がいっぱいだった。




