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 彼が向かった先には銀行があり、大勢の警察官が距離を置いて取り囲んでいる。パトカーの数も多く、野次馬も大勢いる。この土地は彼の管轄外とはいえ、これほどの事件に連絡が入らないのはおかしい。携帯電話を取り出すと、ちょうどのタイミングで着信音が鳴る。

 事件の内容と現場の状況を聞いた時点ですでにその場の内側に着いていた。彼は常に手帳を身につけている。なにが起きてもいいようにとの警察官の常識なのかも知れない。

 そして彼が現場の偉い警察官に挨拶をしているタイミングで銀行内から三人の男が顔を出した。二人の犯人と一人の人質。見るからに明らかだ。人質は制服の警察官だった。

 三人はパトカーに乗り込む。彼は無意識に走り出す。パトカーを追いかけるつもりのようだ。勝手なことをするなとの罵声は彼の耳には届かない。

 走り出すパトカーに彼が追いつけるはずもない。通行人にぶつかっても気づかない。ただひたすら犯人のことだけを考え、遠退くパトカーを追いかける。それでも必死に走る彼は、信号待ちをしているバイクを奪って追いかける。運転手に声をかけるも、その声は届いていない。乱暴に運転手をバイクから引き剥がしたことも、彼には無意識で悪気がない。運転中の危ない行動も、彼は全く危険を感じていない。道行く子供にぶつかっても、勝手に無事だと思い込む。

 見失ったパトカーを、彼は街のざわめきを頼りに勘を駆使して見つけ出す。後部座席の人影。ドアを開けると制服姿の警察官が頭から血を流して倒れていた。彼が声をかけても反応しない。くそっと思いながらも死体をそのままに運転席側に乗り込み、鍵がそのままになっているのを確認もせずにそれが当たり前かのようにエンジンをかけ、当てもなく犯人を追いかける。

 あいつらはきっと別の車に乗り換えている。警察官の勘だ。あいつらは大量の荷物を抱えているはずだ。俺は直接見てはいないが、きっと奪った金をトランクにでも積み込んだんだろう。パトカーのトランクがきちんと閉っていないため、少し運転が荒いとバタバタお尻が揺れている。慌てて締め忘れたんだろうな。

 どっちだ? 俺の勘は絶対なんだよ。

 彼の危ない運転に後続の車や対向車が急ブレーキに急ハンドルで大騒ぎになっているが、どうやらそちらは怪我人程度ですんでいるようだ。まぁ、その怪我が原因で会社をクビになったり、将来に後遺症を残すことになった誰かがいたりなんてことは想像すらしていないんだが。ただ無事でいるんだと、勝手に思い込み、安堵する。

 彼の向かう先に一台の車が横切った。信号はない交差点、一旦停止を無視しての運転。それほどスピードを出しているわけではないが、あまりいいマナーではない。彼も普段、そんな運転をしているので腹は立つが文句は言わない。彼は半分無意識にその車を追いかける。なんだか気になる。それ以外の理由はなかった。勘なんてそんなもんだ。

 前を行く車がスピードを上げる。彼の車を警戒しているようだ。右折を繰り返す不自然な運転。間違いない。気づかれている。

あいつらに違いない。スーツ姿の男二人の影が見える。銀行強盗犯でなくても、なにか悪さを隠しているのは間違いない。ちょいと話を聞いてみるか。

 彼はスピードを上げて前方の車の右横に並んだ。窓に顔を向けると、運転席側の窓が下りた。運転手とハンドルの間から助手席の男が体を突き出す。サングラス越しにも男がにやけているのがわかる。彼はゾッとする。こいつらは危険だ。犯罪者を多く見ている彼だからこそ感じることができ、危険を避けることができた。

 男が手を伸ばす。その手には拳銃が握られている。彼はすでにアクセルを踏み込んでいた。銃弾が背もたれの後方をかすめていく。犯人の車も負けずとスピードを上げ、二台は互いにぶつけ合い譲らない。映画のようなカーチェイスが始まった。

 二台の車による犠牲者は多い。多くの車がぶつけられ、多くの人が怪我をした。中には命を落とす者もいた。

 彼の車が歩道側に押しやられている。犯人の車に寄せられている。彼も負けずと押し返すが、ガードレールを擦りながら堪えることで精一杯だ。

くそっ! 一旦後ろに下がるか。そう考えているとき、すっと横目に犯人の車が下がっていく姿が目に映る。後ろに逃げるのか? そんなことさせるか!

 彼は気づいていなかった。目前に迫る路駐のタクシー。このままでは衝突は避けられない。しかし彼は隣の車に夢中。後ろに下がらせてはなるものかとブレーキをかけながら右へハンドルを回す。すると犯人の車が急ブレーキをかける。彼も慌ててブレーキに足を伸ばそうとするがときはすでに遅く、路駐のタクシーに衝突。その斜め後ろからダメ押しで、犯人の車が突っ込んでくる。

しかし彼はまだ、息をしている。血だらけで、身体のあちこちが痛むのは仕方がない。命があるだけで満足している。緩めたスピードが功を奏したのかも知れないが、そんな彼の前に犯人の一人が立ちはだかる。乱暴にドアを開けて仁王立ちしている。片手を突き出し拳銃を構え、笑みを浮かべてサングラスにもう一方の手を掛ける。

 くそっ! こんな若造だったのか? それが彼の最後の思考だった。

犯人の迷いのない発砲に、彼の苦しみが消えていく。

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