二、川村 悟史(21) フリーター 1
二、川村 悟史(21) フリーター
こんな事ってあるか? 俺は今、黒服の男達に囲まれている。どこからどう見てもヤクザだ。しかも今は、久し振りにいい女とのお楽しみ中。もう少しで二人ともにイキそうだった。
どうしてこんな事になったのかって? それは俺が聞きたいよ。いい女が目の前にいれば声をかけずとも見つめたりはするもんだろ? だから俺は彼女を見つめていた。映画で見るような輝いた女だったからな。
いい女ってのは、いつも何かしらのトラブルを抱えている。そんな事は経験済みだ。分かっていても手を出したくなる。それさえも魅力に変える事が出来るのがいい女の証拠でもあるからだ。
初恋の相手は中学の同級生。学校一のいい女だった。全学年の男子達が狙っている。それ程の存在だよ。俺も例に及ばず彼女に恋をした。振られるって思っていたけれど、意外にもオーケーを貰った。理由を聞いた事があるが、彼女の答えはあまりにも曖昧過ぎた。あなたに愛を感じるのよ。そう言われた。俺は訳も分からず喜んだものだよ。彼女との付き合いは、それなりに順調な始まりだった。けれどそれが、いい女から受けるトラブルの始まりでもあったんた。あの子は俺の事をずっと好きだったと言ってくれていた。入学式でのすれ違いで恋に落ちたらしい。俺にその時の記憶はない。俺は特別のハンサムでもないしな。俺の魅力は内面から醸し出されているんだって感じている。初対面で見抜かれると少し困るんだよ。なんだか俺自身が薄っぺらな存在に感じられてしまう。けれど、それはとても嬉しい事でもあった。楽しい毎日が始まると、俺の心はウキウキだったよ。しかし現実の俺は、あの子と付き合うようになって、友達をなくした。それだけならまだいいが、嫌がらせを受け、時には数人に囲まれて殴られた。しかも彼女は、そんな俺の状況を楽しんでいた。大好きな筈の彼氏が虐められているのを、彼女に対する嫉妬だと理解をしていたんだ。最悪な女だが、当時の俺はそこには気付かないでいた。そして彼女は、虐められている彼氏をいたわる自分自身に満足をしながら、悲劇のヒロインを楽しんで演じていた。俺はそんな彼女の心に、何故だが日毎に愛を強めていたんだ。そんな俺の愛が枯れてしまったのは、彼女の兄貴が原因だった。最低だの言葉を使えば簡単に済ませる事も出来るが、それでは俺の気持ちが納得しない。彼女にしてもそうだろうな。兄貴は妹を平気で犯し、他人に売りつけるような奴だ。しかも、あらゆる方面で金銭的にも肉体的にも、更には精神的にも借りを作り、その返済に追われていた。彼女はそんな兄貴の犠牲になってもいたんだ。そんな感情の乱れが、歪んだ愛情に繋がっていたようだ。そうと気が付いた俺は、少なからず彼女を救おうとはしたが、結果としては何もせず、トラブルを避けるように逃げ出したんだ。最低だよな。彼女のその後は、知らない。まぁ、そういう事にして生きている。