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二十、宇野 松造(42) 次期社長 1

   二十、宇野 松造(42) 次期社長


 彼は今日もつまらない顔をしている。会社の営業車を運転しての得意先回り。どうせ意味なんてないことは、彼だけでなくお客側も承知している。彼の父親は会社の社長。母親は副社長で祖父は会長だ。彼は次期社長を約束された存在で、その仕事内容には誰も興味を持っていない。彼が回る得意先は、会長の時代からの付き合いで、彼を王様のように扱ってくれる。彼はなにもしなくても、仕事がもらえる立場にある。もらった仕事は社員に任せ、彼の仕事はお終いだ。得意先に顔さえ見せれば仕事になる。単純でつまらない仕事だが、彼が顔を出すということに意味がある仕事でもある。他の社員ではもらえない仕事もあるようだ。会社間で大事なのは、そういった見えない付き合いだったりする。意味なんてなくても、意味を持つこともあるようだ。

 今日はもう会社に帰ろう。なんだか車の運転にも飽きてきた。帰ってゲームでもしようかな?

彼は大きな家で一人暮らしをしている。元は両親と一緒に暮らしていたが、二人は彼を残して更なる豪邸へと引っ越していった。祖父も別の豪邸に住んでいる。

 彼にはそんな両親の感覚が不思議だった。両親が家にいることはほとんどない。月に十時間もいたことがないんじゃないかと思うほどだ。彼には家で両親と一緒に寝た記憶がない。新しい家を建てる意味があるのか? どうせ家には帰ってこない。なんのため? 彼には理解ができなかった。家は、身体も心も休まる空間だと感じている。

 両親は今、その豪邸に引っ越してはいるが、暮らしてはいない。月に何度か顔を出すだけだ。家の片付けは家政婦任せ。どこかで買った骨董品やら土産物やらが週に一度は届いている。それを飾り付けるのも家政婦任せだ。ただ金を使うだけが趣味のようにも感じられる。

 彼の家にも家政婦はいて、全ての面倒を見てくれている。彼は家にいるとき、食事やお風呂以外の時間はほとんど自分の部屋から出てこない。部屋にこもってゲームばかり。それは今も昔も変わらない。彼にとってリラックスできる空間と時間がそこにある。

 彼の家に両親が顔を見せることは全くない。なにかが送られてくることもない。会社でも顔を合わせることも少なく、顔を合わせても会話をする暇がない。両親との会話は、メールでのやりとりだけだ。ほとんどは仕事の要件で、たまに個人的な話をする。体調が悪いと知ると、元気にしてる? 無理しすぎないでね。なんて文字を送る。あなたはもっと仕事頑張りなさいよ。なんて母親からの文字を見るとうんざりするけど、そんな会話も楽しく思う。家族なんだから、もっとくだらない話をたくさんしてもいいんだ。子供の頃からそう感じていた。

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