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十八、松浦 佳男(39) タクシー運転手 1


   十八、松浦 佳男(39) タクシー運転手


 タクシーなんて大嫌いだった。乗車拒否をされたこともある。赤信号で突っ込んできて轢かれそうになったこともある。突然の割り込みにも腹が立つ。客を拾うためなら仕方がないのか? ウィンカーすら出さず、ごめんなさいの態度も見せない。そんなタクシーは今でも好きではないけれど、仕事だから仕方がない。俺にはこんな仕事しかできないんだ。

 彼はこの街では一番有名なタクシー会社に勤めている。面接に来れば誰でも採用をする。そうして会社を大きくしていったが、そのせいもあり評判はあまりよくはない。社員教育は全くなされていない。必要な免許だけ取れればそれでお終い。後は長い時間外に出し、なにも知らない客からお金を頂戴する。一番有名な会社でありながら、一番リピート率が少ない会社でもある。

 彼がこの仕事を始めたのは二年前。妻と別れ、一人でアパート暮らしを始めてから三ヶ月が過ぎてからだった。

 俺は少しも後悔なんてしていない。あいつと別れたのは正解だった。原因は俺にあるけれど、今はこうして自由にいられる。そう感じているふりを、彼は無意識で行なっている。

 運転中、彼は決まって元家族のことばかり考えている。本人は認めていないが、二年が過ぎてもまだ、未練が残っているようだ。彼のいう自由は、見事なほどにつまらない。

 今日の仕事はこれで終わりだ。この客を降ろしたらいつもの店に顔を出そう。あの子は今日もいるかな?

 無愛想な彼はほとんどお客と会話をしない。自分では気がついていないが、その態度と表情でお客との距離を広げている。どうしてこういつも俺の客は暗いんだ? 本気でそう感じている。自分本位にしか物事を考えることができない。それは生まれながらの性質だから仕方がないと、彼はいつでも言い訳をする。親の育て方が悪かったんだよと、無意識に発する態度が卑しく感じる。彼の両親は、お金持ちではないが、彼に対して多くのお金を使っていた。彼は一人っ子で、その愛情の全てが注がれていた。野球をやりたいといえばチームを探し、水泳も書道も剣道も習った。英語教室にも通い、進学塾にも通った。その全てが彼の血脈には流れていないのが哀しい。彼はただ、なんとなくに毎日を過ごすばかり。幼い頃から、今でもそれは変わらない。両親の努力は、彼には無意味だったばかりではなく、遺したものさえ無駄にされてしまった。十八のときに母親を亡くし、二十二で父親を亡くした。財産はなくても、保険があった。それを彼はたったの一年で、全て使い切ってしまったが。

 あの子といると落ち着くんだよな。心も身体もスッキリするしな。きっとあの子、俺に惚れてるんだな。ちょっと若いが、見た目てきにはありだよな。俺と並んでもバランスが取れる。俺はよく若いねって言われるんだよ。

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