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 彼が死んだその時、彼の家では妻が一人テレビを見ていた。銀行強盗を知らせるニュースはまだ流れていない。テレビの中の人間同士の世間話を垂れ流すだけのワイドショーを見ている。笑いもせず、頷きもせず、なんとなくテレビ画面に顔を向けている。彼女の意識は別の場所にある。彼との思い出を巡っている。今日は彼と出会った大切な日。最近なんだか気まずい雰囲気が流れている。彼が帰ってきたら全てを話そうと考えている。彼への気持ち。このまま気まずく年を重ねるなら、別れた方がいい。彼女は今夜、どっちに転ぶにしても、はっきりさせようと考えている。まさかこの瞬間、彼が死んでいるなんて事は考えもしない。今夜から、さらにはっきりしない毎日を送る事になるなんて・・・・

 彼女が見ていたテレビ画面の上方にテロップが流れる。銀行が強盗に襲われ、中で拳銃が発砲されたと伝えている。すぐに井戸端会議は終了し、画面が事件現場に切り替わった。

 あれ? ここは・・・・ 彼女はすぐに気がついた。彼の働く銀行。彼女自身も短い間勤めていた銀行だ。

 銀行内で発砲があったのは五分程前。警察が銀行を包囲したのはつい先ほどの事。たまたま近くで別の取材をしていたカメラクルーが騒ぎを聞きつけ現場に急行したという。ほんの数分前、警察が銀行を取り囲む前に一人の警官が銀行内へ入ったらしいとの情報が流れていた。

 まさか・・・・ 彼女は嫌な予感を隠せずに、グイっとテレビに身体を引き込む。頭の中からは余計な感情が消え、ただ無心に情報だけを求めている。彼の無事を祈る事さえ出来ない。真っ白な頭でただその時が来るのを待っていた。

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