十七、西岡 隆(25) バイク便ライダー 1
十七、西岡 隆(25) バイク便ライダー
明日は久し振りに彼女と会える。お互い不規則な仕事をしているため、かれこれ数ヶ月間顔を合わせていない。どこへ行こうか? なにをしようか? 想いが頭を巡っている。
彼は毎日街を走っている。朝から晩まで、雨でも嵐でも関係がない。預かった荷物を早く届けるのが仕事だ。大抵は会社の書類だったり、商品サンプルだったりするが、中にはおかしな届け物もある。バイクで運べるのものならば、違法でない限りなんでも運ぶ。お弁当を買って届けるなんてこともあった。出前に比べるとかなりの割高だが、それでも頼む側にはメリットがあるようだ。届け物に嫌な顔をされることはない。郵便屋とは違い、届ける側も受け取る側も、それを求めている。不要な届け物は存在しない。
とはいっても、中には少し強引な届け物も存在する。初めてその依頼を受けたときは少し非難の思いを感じたが、その依頼によって今の幸せを得たのだから文句は言えない。というよりも感謝をしているし、ほんの少しの理解もしている。
気持ちの届け物。彼はそう名づけているが、会社でそうと決められた呼び名ではない。届け物はあくまでも届け物であり、そこに実態があってもなくても構わない。文字だけであっても、依頼があれば届けるのが仕事だ。彼の会社では、書かれた文字を言葉として読んで届けるサービスを受け付けている。往復の代金をもらえば、その言葉に対する返事も届けてくれる。
想いを届けて欲しいとの連絡があったのは、数年前、彼がまだ新人だった頃だ。会社にとっても始めての依頼だった。好きな女の子への気持ちを代わりに伝えて欲しい。そして返事を持って帰ってきて欲しい。そんな依頼に、会社側は一度は断りを入れたが、二度目の電話がかかってきたことで受け入れることを検討し、三度目の電話で仕事を引き受けた。そして想いを届けるなら少しでも見た目のいい男という理由で彼が選ばれた。
仕事内容は簡単だ。まず依頼者に会いに行く。想いを聞き取る。その伝えたい想いを文字にする。基本的には本人に手紙のような形で事前に用意をしてもらう。それができないときは聞き取った想いを文字にして本人が納得すればその文字を想いとして届ける。想いを告げる相手の所在は依頼者が調べておく。何時にどこに行けば会えるのかがわからなくては、依頼は成立しない。原則としては、その日にその場所に相手がいることを依頼者が確実に確認している必要がある。後はその場所に行き、相手を見つけて想いを伝える。基本はそこでお終い。想いの答えを聞き、返事を聞くオプション付きの場合はその答えを聞いて文字に置き換え、依頼者の元に引き返す。そして答えを伝えて仕事は終了する。




