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ホテルの中で女の子にされた行為は確かに気持ちよかったけれど、もっと気持ち良くなれるとの後悔が頭に残る。もう一度したい。女の子にそう言うと、今日は無理ー! 元気いいねー! 残念だけどまた今度ね! 結構上手だったよ! 私も気持ち良くなれたよ! なんて元気よく言われた。そして女の子は脱ぎ捨てられていた彼のズボンから勝手に財布を抜き出し、中の札束を全部抜き去った。
結構持ってるんだね。そう言って彼にキスをした。
これあげるー! 会いたくなったらここに連絡してね。あなたのこと気に入ったから、サービスいっぱいするよ! そう言われながら手渡された名刺を財布にしまう。二人はキスをしながら洋服を着て、終始くっつきホテルを後にした。ホテル代は女の子が払ってくれた。お金の概念は記憶にないが、その行為を背後から眺めるのは爽快な気分だった。こんなに可愛いくて親切な子はいないと、彼は本気で感じていたようだ。彼女を見つめる瞳が、恋していた。
お別れのキスをして、彼は一人、当てもなく街を歩く。見えなくなるまで見つめていた彼女の背中とは反対側に。
ホテルでの激しい行為のせいもあり、お腹の空いた彼は、目に付いたラーメン屋に入っていく。ラーメンがなんなのかの記憶もないが、食べ物を食べたいとの欲求はある。ラーメンが食べ物であることは見た目を見なくても匂いで感じることができる。
ラーメン屋の中で、テレビを見た。不思議な箱だとは感じたが、意外と違和感が少なかった。むしろ懐かしさを感じさえした。俺はこの箱を知っている。その中身をよく知っている。そんな考えが頭に浮かぶ。
流れる映像に目を向ける。見たことあると感じる人が大勢映っていた。テレビの人だから当たり前? そういう感覚ではなく、もっと強い親しみを感じる。っていうか、テレビの人ってなんだ? なぜだか俺は、テレビという言葉を知っている。テレビの中に、俺もいた? そんなわけはないな。だったら俺は、こんな所を歩いていられるわけがない。箱の中は別世界だ。ここではきっと、生きて行けはしない。
運ばれてきたラーメンに口をつける。世界が閉ざされた気分になる。ラーメン以外のことは考えられない。頭の中がラーメンで埋まっていく。それほどまでに夢中になると、テレビなんてどうでも良くなる。しかし、耳にはその音だけが届いていた。美味すぎるラーメンへの表現が彼にはできない。初めての経験ってそういうものだ。ホテルでの出来事も同じだ。女の子への感情も、言葉で言い表すとつまらなくなってしまう。感じたままが言葉になればいいのにと、彼は最高の表情を浮かべてラーメンを啜っている。
耳に届いた言葉は、アイドルの失踪事件。なんだか気になるその言葉に、耳が反応する。アイドルという言葉が、とても耳慣れていて気持ちがいい。失踪? 話の感じから誰かがいなくなったってことは察知ができた。誰だ? その名前までは彼の耳には届かなかった。麺を啜る音でちょうど掻き消されてしまったのだ。彼にとっては、テレビの言葉よりも、目の前のラーメンの方が大事だったようだ。気にはなりながらも、ラーメンを啜る手を止められない。しかし、その直後に店の中がざわついた。店内全ての視線が彼へと注がれる。彼はなんだか居心地が悪くなり、慌ててラーメンを食べ尽くした。身の危険とまでは言わないが、ここにいちゃダメだと強く感じる。そしてお金も払わず出て行った。当然、彼は食事の対価にお金を払うという記憶も失っている。
本来なら食い逃げは犯罪だけれど、誰も追ってはこない。彼は自分の侵した罪には気がついていないが、走らなければとの思いに突き動かされていた。なにかに追われ、なにかから逃げている。けれどそのなにかがなんなのか、彼にはわからない。いいや、思い出すことからも逃げているようだ。




