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 娘の佐江は野球には興味がないという。代わりに息子の友達を誘っていたが昨日になって急に用事が出来たと断りの電話がかかってきた。あまりにも急で他に誘う相手が見つからず、娘を誘うことになった。以前は興味がなかったはずの娘だったが、何故だか大喜び。理由は単純だった。アニメ人気にともない一人の実在の選手がイケメンだという理由でテレビや雑誌などで紹介されて大人気になっている。娘は最近になり、そんなイケメンに夢中になっていたようだ。しかし彼は、そのことには気づいていない。

 高校生の娘は去年からバンドを組んで自作曲でライヴ活動をしている。彼に買ってもらったバンジョーを抱えて歌を唄う。ギター、ベース、ドラムと輪になって奏でる曲はなかなかに楽しいものだ。

 今はまだ人気も少なく知り合い以外での知名度は低いが、きっといつの日かみんなに喜ばれる存在になると彼は信じている。自分の娘だからという理由もあるが、ライヴを見て笑顔で涙を流した経験は初めてだったからだ。

 息子と娘が生まれたときから、彼はたった一つの教えを元にしか子育てをしてこなかった。楽しく生きること。それを決して忘れてはいけない。

 楽しむことは案外に難しい。自分に嘘をついてしまえばそれだけでもう全てがつまらなくなってしまう。息子と娘は全てを楽しもうと生きている。

 彼もまた全てを楽しもうと努力をしている。がしかし、そうはうまくいかないのが常だ。彼には楽しくない出来事が幾つもあった。特に子供時代はひどかった。いじめられたり、自らいじめをしたり、嘘で身を固めて生きる日々も経験している。それでも楽しもうとの努力は忘れなかった。そのおかげもあり、身を結んだのは妻の美佐と出会ってから。彼と妻は相性がいい。好きとか嫌いとかそういう感情を超えている。一緒にいるだけで、その存在を感じるだけで幸せになる。楽しくて仕方がない。今の彼は、常に楽しみに包まれている。喧嘩をしたり嫌な想いで胸がいっぱいになったりすることがあっても、常に幸せが背景に写っている。

 そんな幸せな家族のひとときが今、壊れようとしている。目の前に迫り来る暴走車。彼はまだ気づいていない。歌を唄い、家族の思い出に浸り、外の世界の異常を察知していない。暴走車を避ける前方の車の異変に気がついたときには遅かった。避ける余裕もなく斜めから衝突され、勢いよく押し飛ばされた。道路沿いのパン屋の壁にぶつかり、炎上。衝撃で気が動転していた家族は、車から逃げ出せずに炎に包まれて燃えていく。

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