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二人に呼ばれ、二人からの指示を受けた彼が人質となった他の銀行員やお客を誘導し、指揮している。まるで彼も銀行強盗の仲間になったかのようだ。
しっかり歩けよ! もたもたしてると蹴飛ばすぞ!
普段の彼の口からは聞こえてこない言葉に、彼の同僚たちが戸惑いの表情で彼をチラチラとうかがっている。本当に銀行強盗の仲間なんじゃないか? そんな疑いを向けている。
おいこら! 調子に乗るなよ!
銀行強盗の一人が強い口調でそう言った。
お前も人質なんだぞ! 調子に乗ってるとな、見せしめに殺しちまうぞ?
もう一人が拳銃を彼の額に突きつけ平坦な口調でそう言った。
彼の額に汗が噴き出る。
ごめんなさい・・・・
情けなく縮んだ声でそう言うのが精いっぱいだった。彼は足を震わせ、両手を頭に載せた。銀行強盗の無言の手振りに従った行動だ。
お前、格好悪いよ。
彼に拳銃を突きつけていた男はそう言い、彼の膝を蹴飛ばした。後方に崩れ落ちる彼に対し、男は構えていた拳銃の引き金を引いた。
おやすみ、よそ者。
彼の耳に男の言葉は聞こえてこなかった。一瞬だけ感じる恐怖の中に、彼の命が消えていった。走馬灯を見る間もなく、死んでしまう。真っ暗な世界。そこには何もない。過去も未来も、光も闇もない。命のない世界。それは、真に何もない世界。言葉なんてなく、感情もない。誰の言葉も届かない。どんな物語もそこには生まれない。
彼の死体は銀行内に無残に転がっている。同僚達は悲鳴を上げ、恐怖に身を縮めている。二人の銀行強盗は彼の死体を見て笑っている。
さて、次は誰を殺そうか?
銀行強盗は自らの言葉に酔いしれている。そして、ロビーにしゃがんでいる人質たちに拳銃を向ける。
バーン! なんてね。
彼を殺した男が拳銃を撃つ真似をしてそう言った。