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 空港に向かう直前に旦那が倒れた。旦那は先に玄関で靴を履いて荷物と共に待っているはずだった。彼女がトイレを済ませて玄関へ向かうと、旦那は言葉もなく倒れていた。物音が聞こえなかったのは、水を流していたからだ。彼女は慌てて救急車を呼んだ。

 救急車の中、覚悟をしてくれと言われた。人生の伴侶の死に際に、いったいどんな覚悟をすればいいの? そんな言葉が浮かんだが、あえて吐き出しはしなかった。病院についてすぐ、息子に電話をした。当時から海外出張の多かった息子は海外用の携帯電話を持っていた。彼女はその番号にかけ、旦那の容態を話した。結婚式には行けないことと、あんたは気にせず式を挙げなさいと伝えた。

 旦那が死んで初めて、彼女は旦那を愛し続けていたことを知った。とっくに冷めていたはずの愛がまだそこにあったことに気がつき、寂しさが止まらなくなった。

 彼女は結婚をしてからずっと何不自由なく暮らしてきた。お金に困ったことなんてなく、家事に追われることもない。家にはずっと、結婚する前からのお手伝いさんがいた。

 旦那が死んでからもそのお手伝いさんがいたおかげで、だいぶん気が楽だった。残された財産は使い切れないほどある。お手伝いさんを追い出すことはしなかった。お手伝いさん側から提示をされたことはあったが、私の方でしようと考えたことはない。

 そのお手伝いさんも、旦那の死から二年後には亡くなり、その日からの一人暮らしだ。新しいお手伝いさんを雇うつもりにはなれなかった。長年の間に築き上げてきた関係に、新しい人が近づけるとは思えなかったからだ。一から関係を作るには、先が短いと感じた。

 孫が生まれて少しは気を保つこともできたが、今ではその支えもない。はぁ、なにか趣味を見つけないとね。そう思ってはいても、ふらふらする以外の趣味が見つからない。

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