3
子供の頃の彼は、今と同じでなんとなく無目的に生きてきた。それは相棒も同じだった。さらには、二人の両親も同じで、無目的なことを当たり前と感じていた。子供が悪さをしても、いいことをしても無関心。自分のことしか考えないような、この国では一般的な両親に育てられた。わがままではなく、自分が世界の中心だと天然で信じている。その言葉の真の意味を知らずに、子供に対してもその考えを捨て切れていない両親。簡単にいってしまえば、子供の運動会で子供のためではなく自分のために目立とうとする大人たちだ。可愛いお弁当を作るのも子供が喜ぶ顔を見たいがためではなく、ママって凄い! と周りから言われたいがために頑張っている大人たちのことだ。それが悪いとは言い切れないけれど、そんな大人に育てられたくはないものだ。彼らのようになってしまうのも無理がないとしか言いようがなくなってしまう。
自分が世界の中心だというのは間違ってはいないと思う。その言葉を数人のグループで一人ずつ声に出してみればいい。そういうことだよ。自分っていうのは、その人個人のことじゃなく、全ての人っていう意味なんだ。この世界、全ての人がそれぞれ中心になって世界は動いているんだ。幸不幸は関係がなく、その人にとってはだ。なんて、それは理想の真意であって、現実に理解をして体現している人はいない。
彼はまだ車の後部座席で動けずにいる。相棒を殺した二人組は運転席と助手席に乗り込んでいる。相棒はゴミのように車外に投げ捨てられた。
車はエンジンがかかり動き出す。彼は身動き出来ずに考える。どうすればいい? このまま隠れ続けるべきか? それが一番安全だ。そう考えているとき、助手席に座っていた男が突然振り返り後部座席を覗き込む。彼の気配を感じたようだ。
お前誰だ? ここでなにしている? 男の言葉に彼は屈めていた頭を持ち上げる。さっきの奴の相棒か? 悪い奴だな。車泥棒は犯罪だぞ。そう言ったのは運転席の男だ。その男はハンドルを握りながらもう一方の手で拳銃を握っている。身体を斜めに、彼の頭へ拳銃を突きつける。
拳銃を持つのも犯罪だろ? 彼は震える声でそう言った。
面白い奴だな。助手席の男がそう言い、彼に向かって腕を伸ばして髪の毛を掴んだ。そしてもう一方の手で彼の顔面を殴りつける。
痛ぇな! 彼が豹変した。顔に怒りを浮かべている。それまで怯えていたのが嘘のようだ。怒りの表情のまま、男の首を掴んで殴りつける。
彼は子供の頃からまともな喧嘩はしたことがなかった。殴り合いはするものではなく、外から眺めるものだと思っていた。しかし今、生まれて初めてともいえる喧嘩をしかけている。命の危険を感じているからなのか、相棒を殺されたからなのかはわからない。あり得ない現実に直面すると、人間はどんな行動に出るか予想ができなくなってしまうということだろう。
彼は勢いのままに男を後部座席に引っ張り込んだ。そして始まる壮絶な殴り合い取っ組み合い。運転席の男は拳銃を弄びながらバックミラー越しに二人の様子をうかがっている。
いい加減にしろよ! 男が大きく怒鳴り、彼がいる側のドアを開けた。そして、勢いをつけて彼を外に蹴り飛ばした。
おいおい、それで終わっちゃダメだろ? そう言いながら運転席の男は後方に転がっていく彼に向けサイドミラー越しに発砲した。彼は車から急に蹴り落とされた驚きと恐怖に怯えながら地面を転がっていく。痛みは感じていない。発砲されたことにも、その銃弾が胸を射抜いたことにも気がついていない。ただただ驚きの中で死んでいく。




