十二、小野 降二(20) 無職 1
十二、小野 降二(20) 無職
原っぱの中の一台の車。鳴り響く銃声は、川の流れに消えていく。彼は後部座席に隠れてことの顛末をやり過ごしていた。
盗もうとしていた車の中で、まだエンジンもかけられずに車内を物色中だった。近寄る影に気がついたときにはもう、なにをするにも遅かった。隠れるだけで彼には精いっぱいだったんだ。
彼はつまらない車泥棒なんかではない。それ以下の、生きている意味さえ見えていない若者だ。なんて言い方をすると、ほとんどの若者が当てはまってしまうかもしれない。学生も会社員も、若手実業家だって生きる意味を知ってなんかいやしない。それは若者に限ったことでもない。年寄りも政治家も、天皇さんや神様だって同じこと。なんて大げさな話になっているが、彼は遊びの延長で悪さを重ねている半端者ってだけのことだ。目の前で相棒が殺されたっていうのに、助けることはできなくても助けようともせず、逃げることにも臆病な弱虫だ。
一人でいるときには悪さをしない。歩きながらのタバコすらしないのは、一度注意を受けている若者を目にしたからだった。その若者はガタイのいい四十代くらいの男に睨まれ、注意された。煙が目に入っただろ? どうしてくれるんだ? 痛くて涙が出ちまう。そう言った男はサングラスをかけていた。若者は口答え出来ずにただ男を見つめていた。なんだ? ごめんの一言もないのか? そう言われた若者はオウムのように男の言葉を繰り返した。ごめん・・・・ ごめんじゃないだろ! 男にそう言われながら頭をひっぱたかれた。お前が言えっていったんだろ。そんな思いで男を下から見ている。普通はごめんなさいだろ! そう言うともう一度若者の頭をひっぱたいた。今度は強めに。若者は目に涙を浮かべながらごめんなさいと言いその場から逃げ去った。なんだ! 口だけか? 逃げるのか! 男は踵を返して逃げる若者の背中に怒鳴りつける。若者は立ち止まらない。男はさらに声を荒げようとしたが、周りの視線を気にして諦めた。全く、最近の若い奴は。なんて呟き足を動かす。彼はその光景を車道を挟んだ反対側の歩道でタバコを咥えながら見ていた。そしてすぐ、タバコを落として踏みつけた。その日から、一人での歩きタバコはしたことがない。




