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 それから二人は自然と肩を並べて椅子に座り、静かに微笑みながら会話を始めた。内容なんてないようなものだった。先生や友達の話、テレビなんかの話題をちょこちょこ話していただけ。それでも二人の間には、確かななにかが浮かんでいた。

 もうすぐ私、引越しちゃうんだ。前触れもなく突然飛び込んできた、彼女の言葉だ。

へぇ~、そうなんだ。感情が抜け落ちた、間抜けな彼の言葉だ。

 それから二人は見つめ合い、長い沈黙の時間を過ごした。そしてお互いなにかをその瞳で伝え合っていた。

 明日また会えるよね。沈黙から飛び出した言葉は彼女の口から発せられた。

うん。いつだって会えるもんね。彼は無邪気な笑顔を彼女に向ける。

 彼女は一瞬表情を固めるが、彼に気がつかれないうちに笑顔をつくる。少しぎこちないその表情は、次第に彼の本当の笑顔に染まっていった。

 それからすぐに彼女の母親が迎えにやってきて、二人はさよならを言えずに別れてしまった。ただ、言葉はなくてもお互いの気持ちは伝えあっていた。残念なことに完全に通じてはいなかったのだが。

 彼の気持ちは彼女に届いていた。また会おうね。一緒にいたいよ。けれど彼には彼女の気持ちが半分しか届いていなかった。楽しかったよ。また明日会おうね。でも・・・・ 寂しいんだ。その気持ちが通じていなかった。その理由とともに。

普段の彼は特に目立つ存在でも影の薄い存在でもなかった。友達は沢山いるけれど、いつも輪の中心から少し距離を取っている。意識をしているわけではなく、自然とした立ち位置でそうなるようだ。

 小さな頃から彼には特別の出来事はなに一つなかった。両親が学校に呼び出されることもなく、面談でも特に可もなく不可もなく。テストの点数も平均点。絵を描いても人並みで、工作も如何にもな作品しか作れない。友達にいじめられたとかいじめをしたとかの注意を受けたことは一度もない。それなりの小さないじめは存在するけれど、学校生活の中では当たり前のこと。社会に出てもそれは同じだ。誤解を受けるのは嫌だけど、いじめのない世界はどこにもない。いじめをなくすことも不可能だし、それは意味のないことだ。むしろいじめは必要悪といってもいいくらいだ。それはつまり、程度の問題ってことだよ。言葉の意味を履き違えてはいけない。いじめという言葉そのものにはなんの意味もないし、言い換えれば様々な意味があるってことだ。相手の感情を弄ぶいじめは最低だってことだよ。もちろん暴力についても同じだよ。愛情があればいいのかも知れないけれど、それは真の愛情の意味を知っていて、責任持った表現をできる人間に限る。無責任で個人的な暴力は最低だってことだ。

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