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彼は暇を持て余し、なんとなく本棚に手を伸ばした。とても分厚い本だった。なんとなく、背表紙に惹かれた。タイトルさえ確認していなかった。青の背景に漢字やカタカナが並んでいた。
そんな本を開いた彼を見て、側にいた彼女が鼻で笑った。ふんっ!なんて音が飛んできた。なんだよ! なにがおかしいんだよ! 言葉にはしないが、そう思い彼女を睨んだ。本気で怒っていた。その瞬間だけは。
そうやって読むと楽しいの? 彼女の顔に微笑が拡がっていく。キラキラ光る瞳に彼の呼吸が止まる。怒りはあっという間に消えていく。
彼は手に取った本を逆さに読んでいた。逆さにしてもしなくても、彼にとっては同じこと。その本の中身には始めから興味なんてなかったのだから。なんとなくの気まずさから手に取ったに過ぎない。
うん、そうだね。人間の顔だって下から覗くと楽しいよ。
彼はそう言って背中を丸め、頭を垂れて逆さに彼女の顔を覗き込んだ。とっさに出てきた感情だが、ごく自然と湧き出た自分の言動に彼はほんの少し戸惑い、驚いてもいた。しかし、そんな思いよりも、彼女との会話を楽しみたい気持ちの方が優っていた。言葉が止まらない。まるでお風呂の中でお父さんと会話をしているように滑らかに言葉が滑り落ちる。
本当だ。元気君の顔、いつもよりちょっと楽しくなってる。
彼女がそう言って笑うと、彼も同じように笑った。




