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 血だらけの俺を親父は無言で招き入れ、抱擁した。愛に言葉なんていらない。

 そんな俺と親父の姿を今のボスが半分開いたドアの陰から覗き見していた。当時はまだ小学生だった。俺への態度がその日から一変したよ。今でもそうだ。ボスが俺を自由に可愛がってくれているのは、その日の光景が脳裏に焼きついているからだろう。俺に対して恐怖を感じているといっても間違いではない。

 俺はその日、警察に顔を出した。不思議だが、数年の刑務所暮らしで済んだよ。ニュースになったのは、その日の夕方だけ。俺が捕まったことは新聞にすら載らなかった。

刑務所から帰るその日、ボスが自ら迎えにやってきた。親父ではなく、息子の方だ。俺はなにも知らなかったよ。親父は出所の一ヶ月前に死んでいたんだ。

 俺は親父への恩も、ボスへの恩も決して忘れない。今の俺がこうしてここにいられるのは全て、二人のおかげだ。

 今の妻と結婚をし、サラリーマンとして偽りの二重生活を送っていることをボスは知っている。というか、そのアイディアはボスからいただいたんだ。映画館で隣り合わせた彼女、偶然はその日一日ついてまわった。お腹が空いて立ち寄った牛丼屋、昔からの趣味の中古レコード店。どこへ行っても彼女が一歩遅れてやってくる。俺は職業柄尾行にはよく気がつく。うまく背後に回り、俺は彼女をまいて別の店に向かった。酒でも飲もうと立ち寄った地下の薄暗いアイリッシュパブ。階段を降りる前に尾行を確認した。彼女の影は見当たらない。俺はゆっくりシングルモルトを楽しんだ。なん杯目かを口にしていてると、何人目かの客がドアを開けた。驚いた。それは彼女も同じだった。

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