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 甘い物が食べたい。妻が突然言い出した。妊娠して食べ物の好みが変わることを当時の俺は知らなかった。それまではあまり甘い物を食べなかった妻の言葉に驚いたが、無視なんてできなかった。後になって思えばそれが間違いだった。無視はしなくても、一緒に出かけるべきだったんだ。

俺の小さな優しさが仇となった。妻のために出かけたほんのわずかな時間に奴らはやってきた。どうしてそんなに馬鹿なんだ? 抗争相手のヒットマンはできが悪い。部屋に誰がいるのかも確認せずに乗り込みやたらと撃ちまくる。妻は即死だった。俺は少し離れた道路でその銃声を耳にした。そして駆け出した。

 その後のことはあまり思い出したくない。アパートに入り、奴を殺した。奴はまだ部屋の中にいたんだ。俺がいないのを驚いていた。情報と違うとでも思っていたのだろう。そしてすぐ、俺が現れたことに更なる驚きをみせていた。ほんの少しの微笑は俺を殺せると感じたからだろう。しかしすぐにその表情が凍りつく。あっという間の死。比喩としてではなく、本当に凍りついてしまったんだ。

 俺はすぐに走り出した。誰が殺しを指示したかなんて考えなくてもわかる。真っ直ぐ組事務所に向かっていく。もちろん、抗争相手の親父がいる事務所にだ。

 俺にとって警備なんて意味がなかった。俺は目に映る全てを殺した。どんな風景だったかなんて覚えていない。気がついたら血だらけで当時のボスの家の玄関前に立っていた。呼び鈴を押したことさえ覚えていない。

 当時のボス、それは今のボスの本当の親父で、俺にとっても親父である。血は繋がっていなくても、俺の親父は一人きりだ。

 俺はまだ幼い頃から親父の世話になっていた。産みの親はどこにもいない。育ての親だって、いないようなもんだ。俺は孤児院で育ったんだ。このでっかい体のおかげで、いじめや誤解を受けながらな。あれは十歳になったばかりだったはずだ。俺はまだ若くて威勢の良かった頃の親父と知り合ったんだ。当時はすでに、立派な組長だった。親父は、たった一人の力で組を立ち上げ、全国区に仕立てたんだ。俺にとっての憧れの存在で、運がいいことに、ある出来事から知り合うことができたんだ。それは、俺がいた施設に関わることだったんだが、当時の俺はそんなことは知る由もなく、親父のその佇まいと言動に好意を持ち、煙たがられながらも四六時中つきまとったんだ。結果、施設を飛び出し、親父の家に転がり込んだ。と言ってもまぁ、親父の正式な家じゃなく、数いる愛人の一人の家だったんだけどな。親父は週に三日はその家に来ていたよ。俺は中学を卒業すると親父の下で働き出した。まぁ、いまにつながるヤクザになったってわけだよ。正直俺はなんとも思っていないが、その頃にようやく、俺のいた孤児院の土地を奪い取ったのが親父の仕業だって知ったんだ。孤児たちはみんなバラバラになってしまった。何人かが死んだって噂も聞いている。院長はそれを苦に自殺したって話だ。正直、少しは悔しい気持ちもあるんだが、感謝している。おかげで俺は、親父の息子気分を味わえたんだからな。

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