九、国村 丈二(54) 構成員 1
九、国村 丈二(54) 構成員
ボスが事務所に戻ってきた。女を連れている。運転手まで殺すことはなかった。
後始末はいつも俺だ。三人とも俺の指示で処分した。ボスは気が短い。こんなことは日常だから慣れてはいるが、気分がいいものではない。俺には家族がいる。あいつらにだって家族がいる。どんな人間でも、死ねば悲しむ家族が一人はいるだろう。現実には誰も悲しまない奴もいるかもしれないが、そんな悲しい奴のことは考えたくもない。俺がそいつと知り会えたなら、俺がそいつの家族になってやる。
彼は五十を過ぎて今の妻と出会い、結婚をした。そして、双子の父親になった。先日二歳の誕生日を迎えたばかりの娘が二人いる。彼の愛は深い。娘たちのためならなんでもできる。それこそ社長を殺してもいいくらいだった。
彼は自分の仕事を家族に隠している。普通のサラリーマン。営業職だと偽っている。
家族を巻き込むことはできない。家は職場から遠く離れている。こんな仕事をしていると、家族を標的にされることもある。実際に彼は、以前の妻とそのお腹の中の子を失っている。あんな思いは二度としたくない。彼はその復讐に、一つの組織を丸ごと潰してしまった過去がある。
あの日のことは思い出したくもない。けれど、忘れるなんてこともできないでいる。
その頃は小さなアパート暮らしだった。ヤクザといっても下っ端は貧乏だ。給料なんてないようなもんで、親父達からもらう小遣いで生計を立てていた。
俺が狙われる理由なんて一つだった。組織の中の一人。しかも使い捨て。こんなにわかりやすいターゲットはいない。俺が殺され、抗争は終了。親父達だってそのつもりだったんだ。
抗争のきっかけはいつも同じだ。権力の拡大と維持。どちらからともなく自然発生する。縄張り争いをするのは犬や猫と変わらない。人間って奴は未だに犬や猫と同等なんだな。
うちの組は少しやり過ぎた。抗争相手の数人を殺してしまい、ケジメをつける必要に迫られていた。ヤクザの抗争で殺しが行われるのは意外と少ない。大抵はチンケな嫌がらせ程度だ。映画と現実は違いが多い。
そんなケジメの代償が俺の命だった。当然、俺はそんなことを知らないでいた。明日なにをしているんだと聞かれ、うちの奴と家にいると答えた。その後のことなんて知らないから適当な答えだったんだ。まさかの現実を知ったのは、全てが終わった後だった。
その日は確かに、ずっと家の中で過ごすはずだった。しかし、妻の悪阻が酷くて出かけるのは無理だった。




