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七、坂下 正義(27) 構成員 1

   七、坂下 正義(27) 構成員


 これはチャンスなのか? この混乱に乗じて、長年の恨みが晴らせるかもしれない。

 彼は子供の頃、父親をある事件で亡くしている。今はその復讐のためにこうしてヤクザの運転手として働いている。とはいっても、それが目的で入社したわけではなく、偶然就職した会社がヤクザ稼業をしていて、更に父親の仇そのものだっただけだ。まぁその偶然も、彼自身の手で引っ張った部分が多く、本当の意味では偶然なんかではなく、必然だったりするんだが。それも含めての偶然が、彼には訪れた。人生なんてそんなもんだ。世界がいくら広くても、個人が生きている世界はあまりにも狭すぎる。知り合いの数を数えればそれは明らかだ。一般的には多くても数百人。テレビなどのメディアに出ていたって数百万だ。本当の世界を知っている人ならば、それがいかに狭いかがわかるはずだ。キリストやブッダにとっての世界と一般的なこの世界とでは次元が違うんだ。といっても、それは両人が死んでからの話で、生きている間は狭い世界で戦っていたわけではあるのだけれど。

 村岡からの連絡があり、彼は社長を乗せてそのホテルの向かいに車を停めて待っていた。すると女が一人ホテルから走って出て来た。彼はエンジンをかけてゆっくりと追いかける。後部座席の社長が興奮している。おかしな言動を発しながら拳銃を懐から取り出している。彼は冷静に今を伺っている。後方から聞こえる呻きと足音。実際にはエンジン音でかき消されているが、彼の耳にははっきりとその音が届いている。そして村岡がリンゴに躓いた姿がサイドミラーに写っている。

 この混乱に乗じれば、社長を殺せる。彼はこんな日が来ることを信じ、社長に従い仕事をこなしてきた。社長の隙をバックミラー越しに伺いながら、そっと今、懐へと手を伸ばそうとしている。

 彼の父親は定食屋の亭主だった。無口で愛想は悪いが、味は抜群で、町内だけでなく、日本中から客が集まってくる星のついた評判の店だった。一年中大忙しで、遊びになんて連れて行ってもらったことはないが、彼はそんな毎日が好きだった。忙しいお店を手伝うことも好きだった。いつか自分も父親の隣で包丁を手に握るんだと漠然ながらも考えていた。まさかこうしてハンドルを握る毎日が待っているとは考えもせずに。

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