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二人の秘密は、墓場まで持って行くべき秘密だとも思う。なにがあっても息子には知られるべきではない秘密だ。彼女も主人も、それを理解し、これからもきっと守っていくことだろう。二人の仲は、はたから見れば普通だが、その愛情はとても深い。愛情があるからこそ、秘密が守られてきた。
彼女の息子は、主人との子供ではない。主人はそれを承知で結婚をした。ちなみに、息子の父が誰なのかも知っている。それでもいいと思える理由が、主人にはあった。
早くあの人に会いたい。こんな気持ちは久し振りだわ。あの子の話もそうだけど、普通に夫婦の会話を楽しみたい。
息子の父親は、彼女が妊娠をしたと知る前に事故で亡くなっている。主人とは、実の兄弟だ。双子の兄弟。二人ともが彼女に恋をしていて、たまたま弟と彼女は恋に落ち、弟の死により、兄との愛を見つけた。主人の両親は、亡くなった弟に恋人がいたことも知らなかった。それは三人にとっては幸運だったのかもしれない。秘密が今でも守られているのは、両親がなにも知らなかったからだ。彼女と主人は、大学で出会っている。最初に知り合ったのは今の主人であり、息子の父親である弟とは主人の紹介で会っている。
週末にはお墓参りもしなくちゃね。あの子のことはやっぱり、あの人にも相談しなくちゃいけないものね。
なんだか街が騒がしいわね。なにかあったのかしら?
ようやく彼女は気がついた。先程から街にはサイレンの音が鳴り響いている。近くで事件でも起きたようだ。街行く人々もまた、そわそわしている。
火事じゃないわよね。これって、パトカーの音だもの。事件かしら? 嫌だわ。巻き込まれないうちに帰りましょう。
彼女は足早に駅を目指す。早くこの物騒な街から去らなければと考えている。私には家で大事な仕事が待っているのよ。食事の支度をしたり、あの子と話をしたり。
駅までは後少し。次の信号を渡って左に進めば地下への入り口が見えてくる。信号が青に変わりそうなのを感じた彼女の足がさらに速さを増して行く。早く帰りたいことだけに夢中になっている。周りの騒音が耳から遠くなる。
暴走する車のエンジン音、道行く人々の悲鳴。彼女の耳には届いていない。信号を渡り切ろうかと思った頃、ようやく異変に気がついた。立ち止まり、顔を左に向けた。目の前に迫ってくる塊に目を瞑る。衝撃を感じた瞬間に意識を失った。痛みを感じず、そのまま即死した。
赤信号を無視して来たのは、パトカーだった。無視というよりも、そこに信号なんて存在していないかのように真っ直ぐ走っていた。目の前の通行人も見えていないようだった。彼女を跳ね飛ばしたことにも気づかず、スピードをそのままにどこかに向けて走り去っていく。




