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 弟は彼の父親が亡くなった翌年に生まれている。本当に父親の子供なのかと彼は今でも疑っている。顔は母親そっくりで、性格も彼とは大違い。父親や彼自身から感じる嫌なものを一切まとっていない。今は仕事の都合で遠くに暮らしているが、母親とはまめに連絡を取っているようだ。彼に対しても、月に一度は連絡をよこす。迷惑だといいながらも、彼はその連絡をいつも心待ちにしている。拒否することは簡単だが、その意思は微塵もない。弟には血の繋がり以上の魅力を感じている。それがなんなのかは知るつもりがない。ただそう感じている。それだけで彼は満足をしている。予定では今日あたりに連絡がくるはずだ。

彼は小学生のときに一度、社長に喧嘩を売ったことがある。ヤクザの息子だからと偉そうにしているのが気に入らなかったようだ。当時の社長は今とは違って背が低く太り気味のお坊ちゃま体型だったこともあり、年下だけど背の高かった彼は負ける気がしなかった。そして現に、喧嘩には勝利した。彼は翌日、他の友達に囁かれ、ヤクザの親分が来て仕返しされることを内心怖がっていたが、その素振りを見せないためにもいつも通りに登校した。当時の彼は今とは違い意地の塊だった。

 けれど翌日、社長は誰も連れてこなかった。社長もまた、意地の塊だった。たった一人、後輩である彼に喧嘩を売りにきただけだった。その後も何度やられても、毎日のようにやってくる。休み時間毎に始まる二人の喧嘩は、学校の名物にさえなっていた。

 そんな二人が仲良くなるのに時間はかからなかった。当時は先輩後輩という関係性はなく、普通の友達だった。しかし、社長が卒業し、中学で再会する一年間で関係性がガラリと変わってしまった。

 彼が中学に上がると、社長はすでにカリスマのボスになっていた。負けん気の強さと面倒見の良さ、意地の塊、生まれながらのバックボーンは絶大だった。喧嘩の強さも増していた。背も伸び、身体つきもよくなっていた。再会の瞬間、喧嘩をせずに彼は社長の右腕となった。社長の醸し出す雰囲気だけに気圧され、舎弟になることをその瞬間に自らが意識もせずに望んでいた。

 高校を卒業するまでの彼は、勝ち組だった。学生の頃は喧嘩が強いだけで周りが尊敬をしてくれた。しかしそれだけでは社会人としてお金を稼ぐのは難しい。格闘家になるならまだしも、ヤクザには頭が重要だ。用心棒だって頭を使う。彼の脳みそは、残念なことにいつまで経っても小三並みを超えられなかった。

 高校を卒業しての就職先は土建屋だった。体力に自身のあった彼だが、それだけだった。覚えが悪くて融通が利かない。しかも過去のチンケな栄光から、自分を凄いと勘違い。ミスをしても落ち込むのはその日のその瞬間だけ。三歩進めば笑顔を見せる。負け組への転落に、本人は気づいてもいなかった。

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