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五、村岡 行浩(32) 構成員 1

   五、村岡 行浩(32) 構成員


 くそっ! 油断なんてしなければよかった。今更そう考えてももう遅い。彼は今、自ら殺した死体に覆いかぶせられている。

 若い男を拳銃で撃った彼は、女の胸にうずくまる男を起き上がらせた。本当に死んだのかの確認と、女を保護するつもりでの行動だった。まさかその女が死体を投げつけてくるとは考えもしなかった。

 彼に死体を投げつけた女は、起き上がりざまにその勢いのまま彼の股間を蹴り上げた。そして散らばっていた洋服を身につけ、走って部屋を出ようとしている。

 彼は覆いかぶさる死体を払い除け、横切る女の足をつかもうと必死にもがく。

 ぐわっ! ぐわっ! 指を踏みやがった。しかも顔を跨いで同時に両手かよ! パンツくらい履けよな。こんなに色気を感じない裸は初めてだな。クソっ、こんなときにつまらないことを考えさせやがって。こんな女に惚れるなんて、全くなにを考えているんだかな。本当に助かるよ。俺とはまるで趣味が違う。

 部屋を出て行く女を睨みつける彼の目には涙が浮かんでいる。なんとか身体を捻って腹這いになり、潰れた両手で前に進んで行く。

女を捕まえないと先輩に殺されちまう。これが最後のチャンスと言われていたんだ。簡単な仕事のはずだった。あの女の遊び相手を殺し、女を先輩の前に連れて行く。それだけの仕事だった。

 彼の仕事はヤクザの構成員。とはいっても、表向きは会社員だ。新堂地域開発興業なんていう曖昧な社名は、彼の先輩である現社長のアイディアで十年程前に変更された。それ以前はいかにもすぎるヤクザ屋の看板を背負っていた。

 彼はずっと学校の先輩である現社長に憧れていた。ヤクザの跡取りだからというだけでなく、人を惹きつける魅力に溢れていたからだ。喧嘩はよくするし、平気で凶器を持ち出してなんの躊躇もなく人に怪我を負わせるけれど、それは相手が突っかかってきたときだけだ。自分から好んで喧嘩をすることは、仲間を傷つけられたとき以外にはなかった。彼も何度かそんな社長に助けられている。

 彼に父親はいない。現実には存在していたが、彼はその存在を認めていない。当然だ。最低という言葉では片付けられない父親っていうのが、世の中には稀に存在する。その父親は、彼が小学四年生のとき、彼の目の前で自殺を図った。団地の屋上に連れて行かれ、ちゃんと見ていろと言われ、柵を乗り越え勢いよく頭から落下した。彼には父親の悲鳴とともに頭蓋骨が割れる鈍い音まで届いていた。今でもそのときの音を夢で聞くことがある。なんの為にこんなこと をしたんだって疑問は、彼には浮かぶ余裕すらなかった。いまだにその疑問は封印されたままのようだ。

 父親を亡くしてから、彼の素行は悪くなった。どうして? の思いはないが、馬鹿にしやがって! と、ふざけるな! の思いが交錯する。学校でも外でも悪さを重ね、少年院送りの経験もある。母親は心労で倒れ、今も入退院を繰り返している。残念なことに、彼は今になっても母親孝行をするつもりはない。ここ数年は顔も合わせていない。連絡すらとっていない。歳の離れた弟からの連絡でその様子を知るだけだ。

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