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理想だけを抱いて警察官になっても、ろくな事はない。毎年何百人と不祥事を行う警察官のほとんどは、そんな理想を抱き、そんな理想を砕かれた者たちだ。初めから怠けるつもりで警察官という仕事を選んだ者は、そんなつまらない不祥事を犯すはずもない。なにせ彼等は、世界で最も安定感のあるサラリーマンなのだから。
本来ならば警察官がサラリーマンであってはいけない。なんて理想は、今は誰も抱いていない。お金を貰えなければ、誰も警察官になんてなろうともしない。しかし、名誉のために働く警察官は意外と多い。お金も欲しくて、上辺の名誉も欲しい。そんな理由で警察官という仕事を選ぶ者がほとんどだ。居眠り警官はそんな典型だった。
かといって、そんな警察官が全てじゃないのは言うまでもない。中にはもっと悪い警察官もいるし、上辺だけじゃない名誉を求める者もいる。そして、国民のためにと理想を貫く者もいる。まぁ、彼はまだそんな警察官と出会った事はないのだけれど。
警察官になった彼は、その頃はもう連絡を取っていなかった居眠り警官との再会を楽しみにしていた。同じ警察署、同じ部署に配属されたと信じていた。警察官になるための採用試験を受ける前日、彼は居眠り警官に最後の連絡を取っている。警察官になるって決めたんだ。そいつはえらい事を考えたもんだな。一緒の職場に配属されたらいいね。そうなのか? 僕も一緒に居眠りしたいんだ。仕事っていうのはそんなに甘いもんじゃないぞ。僕の憧れはそんなもんだと思うけどな。バカにしてんのか? そうかもね。俺の部下になったらこき使ってやるからな。望むところだよ。楽しみだな。最後の言葉は二人同時だった。
それなのに、彼が無事に試験に受かり、警察学校から帰ってきた時、居眠り警官は何処にもいなかった。
どうしてだよ! ふざけんなよ! 勝手なことをしやがって・・・・ 僕はあんたと二人で居眠りしたくて警察官になったのに・・・・ そんな独り言を毎日のように頭の中で繰り返していた。
しかし、その後すぐに二人は再会を果たしている。彼が遭遇した初めての刑事事件。パトロール中だった彼は偶然、逃走中の容疑者を発見し、逮捕した。伸び放題の髭と髪の毛、汚れてはいるけれど臭いはしない。ちょっと昔のバンドマンのようだなと感じた。決して恰好よくはないけれど、なんだか嫌な感じはしない若者だった。その手に血の流れる包丁さえ握っていなければ・・・・