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プロローグ

     物語の犠牲に感謝を


   プロローグ


 先月一日、十八名の死者を出す大きな事件が発生した。一つの銀行強盗を軸にした大事件。主犯格と思われている男はいまだに逮捕されていない。

 同じ日の同じ時刻に、同じ街でもう一つ、一連の事件が起きている。こちらの事件では九名の死者を出している。主犯格と思われているのは二十代の女性だが、こちらは詳しい身元さえ分かっていない。

 しかし、この事件はその女性を中心とした一連の事件としてではなく、銀行強盗事件の一部なんじゃないかとの憶測も世間では囁かれている。

 その見解はある意味では正しいのかも知れない。二つの事件を二十七名の死者を出した一連の事件として考えると、納得の出来る目撃証言がいくつも浮かんでくるように感じられる。逃走中の二人と思われる男女が一台の車で逃げていく姿を見たという目撃証言は多い。その後に発見された二人が乗り捨てたと思われる盗難車からは二つの事件に使用されたと思われる拳銃が発見されてもいる。二人が仲良さげに腕を組みながら歩いている姿を見たという目撃証言は今も頻繁に報告されている。複数の離れた地域での証言という事もあり、その信憑性は疑われているものの、二人が今もこの国のどこかで楽しく生きているのは事実のようだ。先日、あるテレビ番組で放送された連休中の観光地の映像の中に二人らしき人物が映っているのも発見されている。

 まるで映画のようなこの事件を実際に映画化しようという話はすでに持ち上がっている。逃走中の二人をヒーローにでも祭り上げるつもりなのであろうか? 報道の中には既にそんな動きが出始めてもいる。

 おかしな話ではないか? 合計で二十七名もの命が失われているこの事件。その中には共犯者の男や指定暴力団の構成員の存在も確認されているが、その多くは何の関係もない一般人である。その一般人を守るべき警察官までもが犠牲になっている。一説ではやりすぎの警察官が犯人の追跡中に一般人を巻き込んだ事故を起こしているとも言われているが、その真相は闇の中だ。警察組織はいつの時代でも体裁ばかりを気にしている。真実を闇に葬るのは得意技のようである。そのせいで真実を見失っているって事に、早く気が付いて欲しいものだが、それを求めるのが無意味だってことはとっくに承知している。この事件が解決できないでいるのは、そんな警察組織の体質のせいでもあると言われている。

 ある日突然、なんの前触れもなく死んでしまう。この事件の犠牲者の多くは、そんな死を迎えている。何気のない日常の一部に突然割り込んできた事件により、全てが崩されてしまう。報道されるのは、事件の大きさと逃げた犯人のことばかり。被害者の人生なんて、ほんの少し伝え、それらしい悲しみと怒りの言葉を添えておしまいだ。知人や家族のインタビューも編集されたおざなりな言葉ばかり。報道の興味はどこにある? 視聴率や購読数を得るための報道になんの意味がある? 事件の真相や背景なんてどうでもいいんだ。無意味に殺された犠牲者の人生にこそ意味があるんじゃないのか?

 映画の中の脇役にすらならない通行人。事件に巻き込まれて有無も言えずに落とす命たち。そんな命にも、それぞれの物語が存在している。誰にも注目されない物語が。それでも、紹介する必要のある物語がそこにはある。

 これから始まる物語は、そんな犠牲者たちの物語である。

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