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人探しは突然に

 「久しぶりだね。」

 「……こはく……。」


 瑠菜は真っ白い肌の男に抱き着こうとした。

 懐かしい声で呼ばれて振り返ると初恋の男の子との再開だ。

 そりゃあ、どんな形でもうれしいと思うだろう。

 しかし、瑠菜は見事にすり抜けてしまい彼に抱き着くことはできなかった。


 「アハハ。お話しするだけみたいだね。」


 初恋の相手はぷかぷかと浮いていた。

 瑠菜はこの時これが夢なんだと再確認した。

 霊感の強すぎる瑠菜はどんなものでも触ることができる。

もし、これが現実なら普通に抱きつけたという自信があったのだ。


 「……なんで?」

 「ごめんね。出る気はなかったんだけど。」

 「……こはく……。」


 瑠菜は自分の洋服の裾をぎゅっとつかむと、下を向いたまましゃがみこんだ。

 こはくはそれを見てどうしようかと少し焦ったが、瑠菜の目の前に正座をした。

 いや、瑠菜から見ると少し膝が床にめり込んでいる。


 「ごめんね。先に死んじゃって。ずっと、一緒にいられなくてごめん。」

 「……私こそ、最後、遅くなって。……会えなくて、ごめん……。」

 「いいの。仕方なかったんだから。寂しい思いさせちゃったね。」

 「こはく……は、ずっと言ってたから。……ずっとそればっかり……。」


 瑠菜は下を向いたまま大粒の涙をボロボロと流した。

 こはくは瑠菜をなでたり抱きしめたいと思いながら手を動かしたりして落ち着きがない。

 瑠菜はそれに気づかず、子供のように泣きじゃくっていた。


 「瑠菜、あともう一つだましてた。」

 「何……を?……え?……。」

 「ごめんね。」

 「なに……が?」


 瑠菜はヒックヒック言いながらこはくを見た。

 しかしこはくはニコニコとして瑠菜を愛おしそうに見つめるだけで、それ以上は何も言わなかった。


 「あ、そうそう!コム姉に会ったんだ。あの人元気だね。いっつも神様を困らせてるよ。」

 「……っ!やっぱり、死んでたんだね。」


 こはくは笑顔でそう言ったが、瑠菜はその言葉を聞いて下を向いた。

 そんな瑠菜の様子を見てもこはくは気にする様子なく、ただ笑っている。

当たり前だが、ここで言う神様は社長ではないだろう。


 「待ってるよ。百年たとうが何だろうとずっと瑠菜ちゃんが来るのを、コム姉と一緒に待ってる。いや、そのころにはもっと一緒に待つ人が増えているのかな?……フフ……。でもコム姉と僕は絶対に瑠菜のことを待ってるから、ゆっくりこっちに来るんだよ。急いだりしたらだめだよ?瑠菜の周りにいる子たちも悲しんじゃうからね。」


 こはくは瑠菜に明るい笑顔を見せてそう言った。

 そして、伝えたいことはもう伝えたとでもいうようにすぐ消えてしまった。

 瑠菜はもっと話したくて、ただ一緒にいたくて、こはくを呼びながら周りを見渡した。

 しかし、いくら大声で呼んでもこはくは出てこなかった。


 「……待ってるって……。何なのよ。バカ。」


 瑠菜はそこで目が覚めてしまった。

 夜中の一時を過ぎていて周りはびっくりするほど静かだった。

 もう一度、こはくがいないかと周りを見たが誰もいない。

 瑠菜は窓を開けて外を見た。

 真っ暗で何も見えないが、今の瑠菜にはぴったりだ。


 『一人?うわぁ、寂しいねぇ。』


 謎の声がして瑠菜はピクリと肩を震わせながら耳をふさいだ。

 聞いたことのある声だが、心臓がどくどくと大きな音を立てる。


 『え?こいつ一人じゃ何もできないでしょ。』

 『嫌われ者のくせに。』

 『調子乗んな。』

 『嘘ついてここにいるだけだろ。』

 『もっと考えて動いたら?』

 『どんくさ。』

 『邪魔な存在はさっさと消えなよ。』


 くすくすとした笑い声。

 瑠菜は耳をふさいでも聞こえるその声に恐怖を感じながら窓を閉めた。

 そして息苦しさと同時に吐き気まで感じて、瑠菜はその場にしゃがみこんだ。


 (ぐるぐるする……ぐるぐる……苦しい……。)


 瑠菜は過呼吸になっていた。

 こうなってしまうと自分で治すのは難しくなってしまうことを瑠菜は知っている。

 しかし、いくら知識があろうと呼吸と鼓動はだんだん早くなる。


 (どうし……よ……。……かえ……。)


 瑠菜は手を伸ばしてスマホの画面を三回たたいた。

 どこを押したのか、画面が開いたのかすらもわからない。

 だからと言って、瑠菜はもう一回スマホに手を伸ばすほど元気ではない。


 (これ、……やばい……かも……。)

 「瑠菜。……あぁ、そういうことか。」


 瑠菜の体に力が入らなくなったころ、楓李は瑠菜の部屋を開けた。

 その間、五分もたっていない。

 楓李は座り込んでベッドにうなだれ、息を吸いにくそうに呼吸をしている瑠菜を見てすぐに状況を理解した。


 「っ……はぁ……うっ……はぁ、はぁ。」

 「瑠菜、呼吸合わせて。ほら。」


 楓李は瑠菜を抱きかかえて背中をさすった。

 もともと低体温なこともあって、瑠菜の体は少し冷たくなっている。


 「ふぅっ……うぅ……はぁ。」

 「大丈夫、大丈夫。」


 二十分ほど、楓李は瑠菜を落ち着かせるために背中をさすって声をかけ続けた。

 すると瑠菜もやっとのことで落ち着くことができ、ゆっくりと呼吸ができるようになった。


 「……大丈夫か?何があったんだ?」

 「変な声が聞こえて……ううん。大丈夫。もう……。」

 「もう少し、ゆっくりしとくか。」


 楓李はポンポンと瑠菜の背中を叩きながら言った。

 瑠菜も楓李の胸に頭を押しつけてじっとしている。


 瑠菜は小学生の頃にいじめにあっていた。

 この会社でのいじめをきっかけに、瑠菜が自信を無くし、それに付け込むようにして学校でもいじめられるようになり、居場所という居場所をすべて失った。

 コムや雪紀は立場上瑠菜を助けることができず、楓李やこはくが止めに入ると目につかないところでいじめにあう。

 学校でのいじめがどんなものだったかは楓李も知らないが、会社内のいじめの内容はひどいものだった。

トイレに入ればびしょぬれで出てくるし、服は何枚も破られた。

髪を切られた時には雪紀がいじめっ子を殺しに行きそうなくらいだったのだ。

しかし、きぃちゃんは瑠菜のいじめがこれ以上ヒートアップしないようにと雪紀を止めた。

 また、学校でのいじめはそれよりもひどくはなかったものの瑠菜は学校を休んだりはしなかった。

 普通居場所がなくなれば閉じこもってしまってもいいはずだ。

 だが、瑠菜はそれらを我慢し続けたのだ。

 我慢し続けて今ここにいる。

 そして、瑠菜はいじめられてから記憶がなくなるようになった。

 覚えていないいじめのはずなのに、たまにこうなってしまうのはどんな医者でも頭を抱える事例だ。

 ある意味、ずっと消えない傷なのだろう。


 「……かえ、明日仕事でしょ?もういいよ。早く寝ないと。」

 「ん?あぁ、有休使うからいいよ。いつか使えとは言われてるし。」

 「……ありがと……。」

 「どうも。」


 瑠菜の過去について考えていた楓李は瑠菜からの質問にすぐ答えた。

 瑠菜も自分のためだとわかってすぐにお礼を言う。

 そんな瑠菜を見て楓李は少し笑ってぎゅうっと瑠菜を抱きしめた。

 なんだかんだで一週間は会えていなかった。

 久しぶりに会ったのはどんな形でも楓李にとって幸せでもある。

 そして、久々の過呼吸の発作に少し不安を感じたのだ。


 「よく電話を掛けられたな。」

 「……これ。」


 瑠菜はもう一度スマホの画面を三回タップした。

 すると、楓李の持っていたスマホが一瞬だけなってすぐに消えた。


 「ヒカルに設定してもらってたの。もしもの時のために……ごめん、何も言ってなかったから。」

 「いや、驚きはしたけど、ありがたいな。これは。お前はいつも助け呼べずに一人で苦しむから。」

 「うん。……これから間違い電話増えるかも。」

 「別にいいけど。」


 瑠菜が笑って言うと、楓李も安心したかのように笑って答えた。

 瑠菜は吐き気が混ざると一歩も歩くことができなくなるどころか、立つことも座ることもできなくなる。

 だから、瑠菜はいつも自分ではどうすることもできず助けを呼べないのだ。

 そんな中で、画面を三回たたくだけで一瞬でも相手の電話を鳴らせるようになるのはうれしい。

 話すことどころか声を発することすらもできないため本当に一瞬だけでいいのだ。


 「本当に一瞬なんだね。これ。」

 「一瞬すぎるだろ。俺が気付かなかったら一人で苦しんでるつもりか?」

 「お兄ならともかくかえは気づくでしょ?」

 「……まぁ、気づいたけど。」


 楓李は瑠菜が上目遣いで小悪魔っぽく微笑むのを見て目線をそらした。

 しかし瑠菜はそんなことはお構いなしにギュっと楓李の服の袖をつかむ。


 「かえ、あったかい……好き……。」


 低体温の瑠菜にとってかで李の体温は毛布以上に心地の良いものだった。

 しかし、楓李だって高校生。

 瑠菜が誘ってきているようにしか感じないし、平常心を保つので必死だ。


 「っ瑠菜、何か飲むか?」

 「……ジャスミン茶。」

 「じゃあ、取って……。」


 楓李が部屋を出ようとすると、瑠菜は楓李の指をぎゅっと握った。

 見ると、もう片方の手にはどこからいつ取ったのかわからない人形が抱えられている。

 どことなく子供っぽく見えるというか、パっと見は高校生には見えない。


 「……瑠菜も行く。」


 右手で楓李の指をつかんで離さない瑠菜を見て楓李は頭を抱えた。


 「バブちゃんじゃん。」

 「……もうちょっと大きいもん。」

 「はいはい。連れて行きゃあいいんでしょ?」


 楓李は仕方ないと瑠菜の手を握りなおして、部屋を出ようとした。


 「そのクマも連れて行くのか?」

 「……ダメ?」


 楓李は右に首をかしげて聞く瑠菜を見て顔を赤くしながらそのままリビングのある一階へと向かった。

 何か抱きかかえていないと落ち着かないらしく、瑠菜は片手でギュっと抱きしめていて離さない。

 

 楓李としては自分よりもクマのほうがいいのかと少し不満げだ。

 









 「コムを探してほしいんだ。」

 「……はい?」


 瑠菜は突然現れた社長御一行を半分にらみながら言った。


 「いくらでも金は出す。だから。」

 「いや、やりません。」


 瑠菜の夢にこはくが出てきた次の日、楓李と昼寝をしていた瑠菜は社長たちの声で起こされた。

 世界一嫌な目覚めだなぁと思いながら、瑠菜は玄関先で社長を帰そうとする。

 しかし、社長は瑠菜の気持ちを察したうえで帰ろうとはしない。


 「急になんでコムを探すことになったんだ?」

 「そうよ。楓李の言う通りよ!」

 「……実はな。」


 楓李に便乗した瑠菜が見下したように言うと社長は少し言いにくそうに言葉を絞り出した。

 コムがいなくなった時にそこまで真剣に探さなかったのは会社側だ。

 一年もたった今頃探してほしいというのは確かに都合がよすぎる。


 「コムの妹が来たんだ。」

 「は?」

 「……え?」

 「いや、俺のところに直で依頼をしに来てな。姉を探してほしいって……。俺も妹がいること自体は知らなかったんだが、あまりにも似ていたから。その、本当にコムの妹で間違いはないと思うんだ。」


 上代が取り繕うように早口で説明している様子を見て瑠菜と楓李は顔を見合わせた。

 瑠菜も楓李もコムの弟子わやってはいたが、コムから妹のことはおろか家族の話すらも聞いたことがないのだ。


 「……でも、社長への依頼でしょう?私たちには関係ないわよ。」

 「いや、それは……。頼む。何も言わずに引き受けてくれ。」


 上代は瑠菜と目を合わせた瞬間ひぃっと小さく悲鳴を上げた。

 似てたのだ。

 昔、初めて雪紀と会った時の雪紀の冷たく冷酷な目に。

 この人なら人殺しどころかどんなに残酷なことでもできそうだと思った。

 そして同時に、この人に逆らってはいけない。

 本気で殺されると感じた。

 そんな目を瑠菜が無意識にしていたのだ。


 「教えなさい。」

 「……いやぁ……その……。」

 「もういいわ。帰って。」


 瑠菜に上から目線に言われて上代は背を丸くした。

 そんな上代を無視するかのように瑠菜はさっさと玄関から離れようとする。


 「瑠菜、待て。上代も、このままでいいのか?ちゃんと言わないと、こいつ本気で助けないつもりだぞ。」

 「う……。……で……きなかったんだ。」

 「何が?探せなかったってこと?先輩たちに、ただ肯定して後ろをついて行くことしかできなかった。そうよ。だから捜索隊は打ち切られた。」

 「違う。暗号が解けなかったんだ。探せなかったのは、悪かったと思ってる。」

 「暗号?何で私に早く言わなかったの?って言うかそんなの残されてなかったはずだけど。」

 「この前届いたもの……です。俺の対場的にもすぐには見せられなくて……申し訳ありません。」


 だんだん低くなる上代の声を瑠菜は聞きにくいなぁと思いながら聞いた。

 後ろで待機している取り巻きたちが全員瑠菜や上代から目をそらしているが、もういつものことだ。


 瑠菜と上代はもともと仲が悪いが、瑠菜の方が上代よりも上の立ち位置な以上取り巻きは口をはさめない。

とはいえ、社長という立ち位置の人間が社員にぺこぺこしているのは見ていて気持ちがいいものではないだろう。


 「自分宛てに来た依頼を瑠菜に渡したくなかったって、ことでいいんだな?」

 「うっ……。」

 「聞かなくてもわかる。自信だけはあるから。こっちが何度へし折っても、こっちへの殺意にしか変わらないやつだもんね。よく頼みに来れたわね。」


 楓李が確認するように言うと、上代は下を向いて動かなくなってしまった。

 瑠菜は笑いもせずに上代をほめているのかけなしているのかわからないようなことを言う。


 「自分の知識不足ってことでいい?」

 「あぁ……。」


 上代から今までされてきたパワハラともいえる行いをチクチクと瑠菜は言葉で返した。

 上代もわかっていると言わんばかりに下を向いて頷いている。


 「コムさんの妹さんなら仕方がないわね。」

 「やってくれるのか?」

 「……あなたからの依頼は受けないわ。コムさんの妹さんの依頼を受けるの。」

 「いや、その件はこちらで話合わせてからにしてもらおう。」

 「っ……!」

 「お兄……?」


 瑠菜が腕組をしたまま不機嫌そうに言い切ると、社長御一行の後ろから雪紀が顔を出した。

 瑠菜と楓李以外の上代を含めた人たちは体を九十度に勢いよくまげて深々とお辞儀をする。

 いつも、きぃちゃんがいるから忘れかけるが、一歩この家から出ると雪紀はこんな感じだ。

 社長よりも権力を持っているらしい。

 本当なら瑠菜も社長に敬語を使わなくていいはずだ。

 瑠菜が上と下くらいははっきりさせたいというのと、社長という立ち位置を断ったからこそ敬語なだけで。

まぁ、雪紀も社長になりたくないと言っていたから社長という立場を嫌うのは珍しいことではないのだろう。


 「もう少し考えてから答えたほうがいいだろう。人探しは遊びじゃないんだ。」

 「承知いたしました。」

 「よし、じゃあもう帰れ。」

 「ハッ。」


 雪紀の言葉でぞろぞろと社長一行は帰って行った。

 瑠菜が楓李に対して頬を膨らませてにらんでいるだけで。


 「いつまで子ども扱いするの?って言うかなんでダメなの?」

 「まだダメとは言ってないだろう?」

 「目は口程に物を言う。」


 瑠菜の部屋に雪紀と楓李が入ると、瑠菜はすぐに聞いた。

 すると雪紀は笑って瑠菜を見る。

 不機嫌そうににらむ瑠菜は昔と同じ、自信と不安が混じったような顔をしていた。


 「……瑠菜。お前この依頼を受けて他の依頼と一緒にできると思ってんのか?どうせどちらかに熱中して片方が進まなくなるだろう?」

 「前とは違う。サクラやリナにも手伝ってもらうわ。そもそも、仕事の量はお兄が調整できるでしょう?」


 瑠菜はそう言いながらじっと雪紀を見た。

 今雪紀が何を考えていて、この後どうしたいのかを読み取りたいらしい。

 そして、瑠菜は雪紀の片方にしかない目に少し動揺が現れたのを見逃さなかった。


 「俺は雪紀兄さんに賛成だな。」

 「なんで?」

 「お前、昨日過呼吸で大変だったくせによく言えたな。無理しすぎなんだよ。お前は。」


 何も言えなくなった雪紀の代わりに楓李が話し出すと、瑠菜はまたムッとした表情になった。

 普通の高校生生活とこの仕事の兼任は普通の人間ではできない。

 しかも瑠菜の行ってる学校は校則でバイト禁止だ。

 睡眠時間を削っても足りないくらい忙しい生活はしているし、瑠菜が自分で無理を言って行った場所だからこそ誰にも相談なんかできない。


 「大丈夫だもん!昨日はいろいろあっただけで……。」


 瑠菜はそう言って二人の表情をチラチラと見た。

 怒っているというよりあきれているようにも見える。


 「お前の主人は俺だ。勝手な行動はすんなよ。」


 雪紀はいつもより優し目に瑠菜へ伝えた。

 瑠菜も雪紀からここまで言われてしまえば頷くことしかできない。


 「了解……です。」

 「よし。いい子だ。楓李、瑠菜を見張ってろよ。」

 「あぁ、わかってる。」


 楓李はそう言って雪紀を早く出て行かせ、さっさとドアを閉めた。

 楓李は見せたくなかったのだ。

 うつむき気味に悔しそうな表情をして目に涙を浮かべる瑠菜の姿を。

 瑠菜は普段、強がりな性格でなかなか人前で泣くことはない。

 楓李はそれをわかっていたからこそ、瑠菜の頭から毛布をかぶせて背中合わせに座った。

 瑠菜は少し時間がたってからヒックヒックと泣き出す。


 「……っん……ふぁ……くやし……い……。」

 「あとであいつの所に文句言いに行くか。」

 「ん……っうん……。」


 瑠菜がやっとのことで出した言葉に楓李はあっけらかんと答えた。

 瑠菜にとってコムは大好きな先輩だ。

 ずっと探しに行きたくて仕方がなかった。

 それを止めていたのは楓李と雪紀だ。

 瑠菜の性格上もし熱中してしまうとそれ以外何もしなくなってしまう。

 それを知っているからこそ二人はずっと瑠菜を止めていたのだ。


 しかしながら、楓李からしたら瑠菜の好きなようにやってほしいという気持ちもある。

 それは、雪紀も同じだったのだ。

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