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青龍の悩み

 瑠菜とサクラの恋バナは三時間くらい続いた。

 キャッキャと話をしているうちにサクラのほうが寝落ちてしまったのだ。

 瑠菜はサクラが寝落ちたことに気づくと、少し寂しく感じて水を飲みに行った。


 「まだ起きてたのかって……っ……お前なぁ。」

 「かえは朝早いねぇ。なんで電気消すのよ。」

 「バカ。まだ夜中だぞ。」


 台所で瑠菜が真っ暗な中水を飲んで物思いに更けていると、楓李が電気をつけた。

 楓李は瑠菜の格好を見て電気を消すと下を向いて頭を抱えた。

 瑠菜はそれを見て電気をつけに行く。

 ずっと暗い中話していた瑠菜には少しまぶしかったが、すぐに目が慣れた。


 「眠れないの?」

 「それはこっちのセリフだ。何でここにいるんだ?」

 「サクラとしゃべってたらのど渇いちゃってね。」

 「サクラは?」

 「寝た。もうぐっすりね。直前までずっとしゃべってたのに。」


 瑠菜はそういって声を出さないように気を付けながら笑った。


 「えらく楽しそうだな。」

 「女子トークはいつだって盛り上がるのよ。」


 瑠菜はそう言いながら楓李に近寄ってじっと楓李の顔を覗き込んだ。

 楓李はそんな行動をする瑠菜にびっくりしたが、平然を装うのが一番良いと思い頑張った。


 「そういえば、外で雨が降ってるけど、ちゃんとわかってんのか?」

 「あ、そうなんだ。扇風機の音だと思ってた。」

 「大雨だぞ。って言うか、気づかないとかあんのかよ。」


 瑠菜が笑ってごまかそうとしていると、楓李はびっくりしたような顔をした。

 耳の良い瑠菜のことだから気づいていると思ったのだろう。


 この建物は高い気に囲まれているため雷が落ちて山火事になったり、地滑りが起きると助からない。

 瑠菜は楓李の反応が薄いことにつまらなく思い、窓を開けて身を乗り出した。


 「わっ……ピカピカしてる。どっか落ちるかな?」

 「瑠菜、閉めろ。」

 「はぁい。」


 瑠菜は少し濡れた自分の格好を見て素直に窓を閉めた。

 服の上からでも体の形がわかるくらいに濡れたが、あまり寒くは感じなかった。

 ただ自分の姿を見た瞬間に自分の体がほてっているような妙な温かさを感じた。

 瑠菜は急に恥ずかしくなって、五感が鋭くなっている気がした。

 雨が強くなる。

 自分の心臓がうるさく感じる。


 「……ひぃっ!」


 瑠菜は近くに落ちた雷の音にびっくりしてその場にうずくまった。


 「いつもなら雷くらいにそんなこわがんねぇじゃん。」

 「びっくりしたの!別に怖がってなんか……。」

 「震えてるくせに。」


 楓李は瑠菜の横に座って瑠菜を抱きしめた。

 瑠菜はこんな姿で抱きついて襲われたらそうしようかと思ったが、離れることはできなかった。

 楓李に言われたとおり、足が震えて立てない。


 「かえといるの安心する。」

 「あぁそうかよ。」


 雷の音が遠くなり、雨の音だけになると瑠菜はそのまま眠ってしまった。

 それに気づいた楓李はどうしようかと思いため息をつく。

 作業部屋の方で寝かせるとリナや青龍が起きた時に騒ぎ出す気がする。


(赤ん坊かよ……。)


 結果的に楓李はその場で寝ることにした。








 雨は次の日にも降り続いていた。

 楓李と瑠菜は早朝に鳴り響いた雷の音で目を覚ました。


 「大雨警報出てんな。」

 「出ていたところで外に出ることもできないし。」


 瑠菜は頭痛がすると言ってけだるそうにしながら悪態をついた。

 気圧の変化で体調を崩しやすい瑠菜はいつもこんな感じだ。


 「よかったな。客も来ねぇし、ほぼ休みだ。」

 「よっしゃー!」


 楓李が言うとリナが両手を挙げて体いっぱいに喜びを表した。


 「今日一日遊べますか?」

 「客が来なければな。瑠菜もこんな感じだし。」


 楓李は見るからに不機嫌な瑠菜を見て苦笑いを見せた。

 ケージから出てきて走り回り、いたずらまでしている犬を見てサクラは大はしゃぎしている。

 それを見て瑠菜は頭痛がひどくなった。


 「……後片づけはしっかりなさいよ。」


 瑠菜は部屋を見渡してからそれだけ言って台所へと入っていった。

 やっとのことで顔をあげた瞬間ぐちゃぐちゃになった部屋の風景を見れば誰だってそうなるだろう。


 「かえ、薬とって。届かない。」

 「はいはい。」

 「水、頂戴。」

 「はいはい。」

 「冷たいのやだ。お湯がいい。」

 「了解。」


 瑠菜にこき使われている楓李を見て龍子と青龍が驚いている中、サクラとリナはいつものことだと話していた。


 「サクラちゃん。今度一緒に出掛けない?」

 「おい、何誘ってんだ?」

 「あ、ごめんなさい。ちょっと忙しくて。」


 サクラは下を向いて恥ずかしそうにしながら青龍の誘いを断った。


 「えぇ、一日も空いてないの?」

 「彼氏が欲しいので。毎日空けときたいんです。」

 「うーん、僕じゃダメ?」

 「ダメだ。」

 「何で龍子が答えんだよ。」


 青龍が不機嫌そうに言うと、龍子はそっぽを向いた。

 瑠菜に内緒で登録したマッチングアプリでよい人を見つけたいサクラは、いつ予定が入るかわからないためいつでも有給休暇をとれる準備をしている。

 そんなサクラが青龍の誘いに乗るはずがない。


 特に優しさで声をかけてくれていると思っている間は。


 「あ、おもちゃあった。リナ君、パス!」

 「ありがと。ほらこっちこっち!」


 パピ(犬)はサクラがおもちゃを持っているのに気づくとサクラの方へと寄ってきた。

 しかし、サクラがリナにおもちゃを投げたのを見てリナの方へと走って行く。


 龍子と青龍の言葉はサクラの頭には全く入っていないようで、無視をしているというよりも本当に聞こえていないらしい。


 「サクラちゃん、かわいいよね。」

 「……あぁ。」


 青龍はびっくりした顔で龍子を見た。

 いつも通り怒りながらも否定すると思っていた青龍は少し危機感を覚える。


(早くサクラちゃんを振り向かせないとなぁ。)

 「サク……。」

 「サクラ―!ワンちゃんにご飯あげないと。」

 「はーい。ん?何か呼びましたか?青龍君。」

 「いや、ご飯あげないとね。うん。」

 「?今からあげますよ。」


 青龍はそういって自分を納得させた。

 納得させたが、リナと楓李が少し遠くで笑いをこらえているのを見てとりあえず二人に飛びついた。


 「ちょっといい……ですか?」









 「サクラを振り向かせる方法?」

 「教えてください。」

 「そんなのあるわけないじゃん。」

 「リナ君、そんなこと言わないで。傷つくから。今もグッサリ来たから。」


 龍子がサクラと一緒にパピにご飯をあげているとき、三人はゲラゲラと笑いながらそんな話をした。


 「瑠菜に話したほうが早いよ。」

 「今日以外にな。」


 リナがすぐそう言うと青龍は「だよなぁ」っと頷いたが、楓李が一言付け加えた瞬間青龍は首を横に振った。


 「今すぐです!今すぐじゃないと、龍子がもしサクラちゃんにアプローチをしだしたときに僕は速攻で振られてしまいます。一緒にいる期間もそんなにないし。」


 楓李はうんうんとうなずきながらそれを聞いたが、特別何か案があるわけでもなかった。

 その結果、三人で数十分は話していたが何も進まない。


 「瑠菜に聞いたらすぐにアドバイスくれるでしょ?だって、そういう仕事だし。」

 「じゃあ、お前こいつと一緒に行けるか?」

 「それは無理。楓李兄さんが一緒に行けばいいと思うけど。」

 「は?」

 「ついて来てくれるなら……。」


 楓李はすごくいやいやながら青龍の付き添いとして瑠菜がうずくまっている場所へと行った。

 少しサクラたちがいる場所から離れているため、静かに感じる。


 「この小屋って、こんなに広かったんですね。」

 「五部屋はあるな。あの作業部屋しか基本使わねぇけど。」


 楓李は嫌そうな表情まま青龍に言った。


 「は?で、何。私に仕事をしろと?」

 「あ、アドバイスが欲しくて……。」


 瑠菜の気迫に押されて後ろへ一歩下がろうとする青龍を楓李は手で前に押した。


 「私がいつも何も考えずにアドバイスしてると思ってんの?」

 「い、いや……その……。」

 「ひとつ言わせてもらうけど、これでも私はいろいろ考えたうえで相手に会った言葉を使ってアドバイスしてるの。」

 「すみません。」

 「アドバイスは相手の人生を変えることだってあるんだから、そんなポンポン考えなしにできる者じゃないのよ。」

 「でも、客が来たらやんねーといけねぇだろ?相手の人生を変えて、相手を楽にするためにも。」


 楓李は青龍の様子を見て仕方なし瑠菜に言った。

 すると、瑠菜は少しむっとしたような表情で楓李をにらんだ。

 じっと楓李を見つめたまま動かなくなり、何もしゃべらなくなった。

 青龍は瑠菜のその態度に不信感を持ち、恐怖を感じた。


 三分間ほど、瑠菜は楓李をじっと見ていて、楓李は何も言わずにただ瑠菜から目を離さない。

 何か不思議な時間が流れていたが、とうとう楓李が諦めたように口を開いた。


 「……わかった。何が欲しい?」

 「プリンとチョコレート。あとおせんべい……塩としょうゆ味。」

 「あとで届けてもらうから、こいつの話を聞いてやってくれ。」

 「やった!」


 楓李は根負けして瑠菜が好きなお菓子をおごる約束をした。

 低い声でほしいものを淡々と言っていた瑠菜は買ってもらえるとわかった瞬間、小さな子供のように高い声で喜んだ。


 「サクラを落とす方法だっけ?そもそも、君がサクラにどう思われているかとかわかってる?」

 「え?い……いや。」


 楓李が雪紀にお金は返すから届けてくれというメールを送っている間に瑠菜は仕事モードへと変わった。


(さすが、嫌がっててもやるとなれば別人みたいだな。)


 楓李はそう思いながら困ったように瑠菜をみた。

 瑠菜は褒められないと成長はしないし、ご褒美がないと頑張ろうとしないタイプの人間だ。

 うまく扱えたなら本当の意味で何でもできる天才児として名をはせたであろう。

 実際、医学と心理学、事務系の仕事は雪紀やコム(特にコム)が瑠菜にうまく教え込んだ。


 そのためかどうかはわからないが、楓李よりも瑠菜は覚えが早く、医療の応用知識などの勉強は瑠菜のほうが早く始めている。


 「じゃあ、もう少しわかりやすくアピールすれば……。」

 「まぁ、サクラの行動次第だけどね。まずは男を見せるのもいいかも。」

 「男?」

 「サクラはあれでも一回失恋してるのよ。優しくされる=善意ってなってもおかしくないような失恋をね。」

 「そういう……。男を見せる……。」

 「素っ裸で歩いてたらつぶすわよ。」


 青龍がぼんやりと言ったのを見て瑠菜が笑いながら言うと、青龍は自分の大事なところを押さえた。


 「何をとは言ってないじゃない。まったく。あとはサクラの横をついて回っていれば?好きなんだろうなって思ったら女の子は普通に落ちるわよ。」


 瑠菜がそう言って足を組みなおすと、青龍はその足に目を奪われた。


(この人……なんというか、エロい。)


 白衣来て眼鏡を書けたら普通に病院にいるような凄腕の医者を想像させる。


 「ただし、ストーカーみたいなことをするのはダメよ。犯罪はさすがに許せないから。」

 「それはしませんよ。」

 「最終的に決めるのはサクラだからね。私じゃないってのも覚えててよ。」


 瑠菜にそう言われて青龍はぶんぶんと頭を縦に振った。


 「まるで何人もの女を落としてきたみたいな言い方だな。」

 「私はさすがに二人しか……。」

 「え?」

 「いや、私は別にどっちでもいけるから。」


 瑠菜がそう言うと楓李は頭を抱えた。

 普通なら恋愛で困るのは異性からとられないのかという心配くらいだ。

 しかし、瑠菜の場合は同性にも取られてしまう可能性があるのだ。


 「た、対象自体は男なのよ。ただ来るもの拒まずってだけで。」

 「それがダメなんだ。」


 瑠菜が訂正するかのように言うと、楓李はそれに対して少し怒ったように言った。


 「じゃ、じゃあ僕はサクラちゃんたちのところに戻ります。」

 「がんばってね。基本どうでもいいけど。」


 瑠菜がそう言ったのを見て楓李はまた頭を抱える。

 瑠菜のことを見ていると、楓李は心配や不安で頭を抱えることが増えた気がする。

 青龍が出て行った後、楓李はため息をついてどうしようかと思った。

 本当なら青龍とともに部屋を出て行くつもりだった。


 「……何?」

 「えっと……その……。」

 「お菓子はまだ届かないけど。」

 「違っ……ただ、一緒にいてほしくて。その……。」


 瑠菜はつかんだ楓李の裾に力を込めた。

 楓李は先ほどまで重かった頭が軽くなったようにスッとした気がした。

 いつも瑠菜と一緒にいて頭を抱えさせられ、甘えん坊になった瑠菜を見て少し安心して癒される。


 「何?体きついの?」

 「……地球にいたくないくらい。」

 「んじゃ、火星にでも住むか。」

 「……宇宙って酔いそう。」

 「じゃあどうしようか。」


 瑠菜は楓李の胸に頭を押し付けながら文句を言う。

 体調が悪くなると毎回突拍子もないことを言い出すのが瑠菜の癖だ。

 そして、言いながら気を失ったように眠るのがいつものテンプレートなのだ。


 「寝たらサクラたちに心配されるぞ。」

 「寝ないもん。」

 「もう眠そうじゃん。」


 瑠菜は楓李のぬくもりと心臓の鼓動を聞いて少しずつ眠くなってきていた。

 楓李はそれに気づくが、瑠菜はそれをいやでも認めないつもりらしい。


 「瑠菜、もうそろそろ……。」


 楓李がそう言いかけるとまたしてもドーンっと雷が落ちた気がした。

 瑠菜はそれを見てまたしても体を固くしてびくびくとしている。

 それに気づいた楓李は仕方ないなと思いながら瑠菜を抱きしめる。


 「近いな。」

 「キャンキャン!」

 「ん?」


 犬の泣き声がして瑠菜と楓李はサクラたちのもとへと向かう。

 サクラは瑠菜の姿を見るとすぐに瑠菜に抱き着いた。


 「どうしたの?」


 犬が部屋中を駆け回り、龍子や青龍、リナがどうすればよいのかわからずにあたふたしている。


 「雷が鳴って、急に……。」

 「リナ、ケージを開けて。私がいれるか……ら。え?」


 リナが瑠菜に言われてケージのドアを開けると犬は真っ先にケージの奥へと入ってうずくまった。


 「大きい音が苦手なんだね。」

 「そうみたいですね。」


 瑠菜がそう言いながら犬をなでようとすると犬は勢い良く瑠菜の手から逃げた。


 「……怖がってんな。何したんだ?瑠菜。」

 「な、何もしてないわよ。」

 「殺気を感じちゃってるんじゃない?」

 「リナ、殺気を出しているように見える?」

 「今……き、気のせいかな……?」


 リナは殺気を感じてすぐに言い返した。


 「まぁ、いつもと違う場所に来たんだから、おかしいことではないけど。」


 瑠菜はそう言ってから外を眺めた。


 「晴れましたね。瑠菜さん。」

 「えぇ。」


 サクラはさっきまでの大雨や雷が嘘のように真っ青な空を見てうれしそうに言った。


 「あれ?どこか行くんですか?」

 「少しだけね。かえ、この子たちよろしく。」

 「了解。」

 「帰ってくるまでには片付けておいてね。」


 瑠菜はそれだけ言って外へ出て行ってしまった。

 サクラとリナはそれを見て首をかしげる。


 「どこに行ったんでしょう。」

 「そういえば、瑠菜に連絡来てたよね。」

 「は?誰から。」


 楓李はサクラとリナの会話に入り込んだ。


 「ドクターB?ってやつ。」

 「……そうか。」

 「でも瑠菜の名前じゃなかったんだよね。その人が使ってた呼び名。」

 「……あんま、関わんなよ。」


 楓李はそう言って犬がぐちゃぐちゃにした資料を拾い始めた。

 その姿を見て青龍や龍子、リナも楓李を手伝った。

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