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人見知りを治します!

 「やっぱりお付き合いされてたんですね!」


 次の日、瑠菜はサクラの声に起こされた。

 キャーキャーとした耳を刺すような声にもう少しだけ寝たいと言ってそのままぬくもりのある方へと行く瑠菜。そうしてそのまま寝てしまいそうになったが、やはりサクラの甲高いキャーキャーという声が耳につく。


 「もう、サクラうるさい。」


 瑠菜はそういってゆっくりと起き上がろうとする。すると、床とは違う柔らかいような少し硬いものに手をついた。


 「何?昨日の続きでもする?」

 「え?」


 そういわれてようやく目が覚めた瑠菜は顔を赤くした。


 「きっ……、昨日は何もしてないわよ!」

 「きのうは……。」


 サクラが息をのむと瑠菜は自分が墓穴を掘ってしまったことに気づいた。

 楓李もそれに気づいて、小さく肩を震わせながら笑っている。


 「はいはい。瑠菜は着替えるだろ?一人でできるな。」


 楓李はサクラを連れてさっさと部屋を出て行こうとした。

 しかし瑠菜は立ち上がった楓李の指をつかんでそれを止めた。


 「て……、手伝って……?」

 「え?……あぁ。サクラ、先になんか食べられるか?何かしら冷蔵庫中にはあると思うけど。」

 「はーい。ごゆっくり。」


 サクラが部屋を出て行くのを確認してから、楓李は瑠菜の方をじっと見た。

 ぺったりと床に座り込んだ瑠菜は涙目になって楓李を見上げている。

 楓李はそれを見て瑠菜の目線に合わせるようにしゃがむ。


 「びっくりして腰ぬかすか?普通。……つーか、昨日俺に抱き着いたまま寝たのは誰だっけ?」

 「……だ……だって、……温かかった、から……。」

 「……はぁ。さすがに横にサクラいるから。あんまり煽ってくんなよ。」


 自分に抱き着く瑠菜にそう言いながら楓李は瑠菜を押し倒す。

 しかも後ろ向きに。


 「かえ……?ちょ……。」

 「瑠菜?しっ。サクラ、こっちに来ちゃうよ?」


 楓李に耳元でささやかれて、瑠菜は体温が上がる。


 「……ねぇ、……待っ……て?」

 「ふっ。……どうしてほしいの?瑠菜。俺が何しようとしてるか分かってる?」


 楓李はそう言いながら瑠菜の横に座る。そして瑠菜の腰に手を置いて……。


 「……かえ?」

 「何されると思ってた?」


 楓李にからかうような口調で言われて、瑠菜はクッションで顔を隠した。


 「別に……。」


 少しばかり期待をしていた自分を瑠菜は恨んだ。

 瑠菜は横になったままマッサージを受けていた。

 楓李はマッサージが上手だ。

 医療に詳しいためどこがどこによく効くツボなのか、またどれくらいの力量で押せばいいのかわかっているからだ。コムやきぃちゃんが毎日のようにやらせていたからというのも上手な理由の一つだろう。


 「なんで横に座ったままなの?やりにくいでしょう。」

 「……瑠菜が怒るから。」

 「え?怒ったっけ?」

 「いつも怒るだろ?重いって。」

 「あ……。」


 楓李からありがたいマッサージを受けていた瑠菜は、体が軽くなった気がした。







 「こんにちは、……ひぃ!」

 「あ、こんにちは。どうかしましたか?」


 真保子が小さく悲鳴を上げる中、瑠菜は何事もないかのように真保子に話しかけた。


 「きょ、今日は人が多いですね……。」

 「あぁ、すみません。ここでしかできない仕事が多くて。今日は中止にしますか?」

 「え……あの。」


 真保子は楓李と雪紀を見てしどろもどろしていた。

 楓李が帰らせようとしているのを見て、瑠菜は本当に真保子が帰ってしまいそうだと思った。


 「人見知りを治したいのであれば、別に人がいてもいなくても関係ないですよ。何なら人がいるところのほうがいいまであります。特に異性は慣れるのに時間がかかりますから。異性になれれば同性は楽勝です。」

 「た、確かにそうですね。」


 瑠菜がにっこり笑って言うと、真保子は納得したような反応をしたが、少し恥ずかしそうにしている。


 「さ、サクラちゃんは?」

 「あ、今日は別の仕事を頼んでいて。」


 瑠菜は、想像していた通りに質問してきた真保子にあらかじめ用意していた返答をした。

 本当は龍子と二人でやる仕事を急遽用意したのだ。龍子は、サクラとのペアは嫌でないらしく、文句を言うこともなく仕事を引き受けてくれた。理由は言っていないが、ここに来るなと言ったら首を縦に振ったので、ここへ来ることはないだろう。


 「そうですか……。あの……。」

 「はい?」


 瑠菜はお茶を入れながら真保子を見てニッコリ返事をした。


 「……よろしく……お願いします。」

 「……こちらこそ。って、そんなに固くなる必要はありませんよ。もっと楽に人と接してください。」

 「は……い。」






 こうして、瑠菜と真保子は人見知りを治すために、毎日毎日人と関わる練習をした。一日一日颯爽と終え、真保子の人見知りもよくなってきた気もして、周りも安心していたのだ。

 そんな中、六日目の夜に瑠菜は雪紀と楓李の近くでため息をついた。


 「どうしたんだ?あいつ。」

 「自転車にぶつかられかけたんだって。」


 楓李は雪紀と部屋の外に出てから雪紀の質問に答えた。

 そうして、これは自分の意見だと前置きをしっかりしてから話し始める。


 「もしかしたらっていう話なんだが、あの依頼人と関係があるんじゃねぇかって。まぁ、瑠菜には考えすぎだって言われたけど。たぶん瑠菜自身もわかってると思う。あいつ、そういうところの感は鋭いから。」

 「……ま、考えすぎだろ。」


 雪紀の反応を見て楓李は目を丸くした。雪紀なら肯定してくれると思っていたのだ。


 「瑠菜と同じか……。いや、考えすぎじゃねぇだろ?」

 「証拠は?」

 「うっ……。」


 雪紀は楓李を軽くあしらうように言うと、部屋に入って言って瑠菜の方へと近づいて行った。


 「瑠菜、自転車と事故ったんだって?」

 「ひかれかけたって言ってくれないかなぁ。いや、ひかれてもないけど。」

 「ひかれてないわりには手当受けてんじゃん。楓李にやってもらったのか?」


 雪紀は瑠菜の手首にまかれた包帯を指さした。そして瑠菜が小さくうなずくのを見て、楓李の方をじっと見る。


 「どんな傷だったか言えるか?楓李。」

 「気になるなら取ってみればいいだろ?その方が安心だし。」

 「んじゃ、ちょっと見せてもらうな。」


 雪紀は楓李にとって師匠であり、先生でもある。雪紀のほうが楓李よりも知識はあるため間違った手当の仕方をしていた場合を考えると、雪紀にも見てもらった方がよいのは確かだ。

 雪紀は瑠菜の手をつかんで手首の傷を見た。


 「少し腫れてるくらいか。骨には異常なさそうだけど。相当強くぶつかられたな。相手の自転車は減速したりよけようとしなかったのか?」


 見た感じしてない時の傷だが、と言われている気がして瑠菜は答えなかった。

 その代わりに少しだけ目をそらす。


 「だって、おばあさんが……。」

 「は?」

 「おばあさんが横にいて、それで助けたの。」

 「お前なぁ……。」


 雪紀はあきれたように瑠菜を見た後、瑠菜の頭を軽くなでた。

 なんだかんだで、雪紀にとって瑠菜は自慢できる弟子のうちの一人だ。


 「楓李に診てもらったんだったな。」

 「えぇ。」

 「楓李、瑠菜のこの傷なんだと思ったのか言ってみろ。あと、いつどんな手当てをしたのか。」

 「ただの打ち身。一時間から二時間前に塗り薬を塗って包帯を巻いた。」

 「もし打ち身なら正解だな。でも……。」

 「そうじゃないと?さっき自分でも言ってたろ?」

 「誤診した。惜しいところまではいってるが、まだ一人でやるには足りないな。」


 雪紀はそういって塗り薬を棚から二つ出した。赤い蓋のものと黄色い蓋のものの二つだ。

 少しむすっとした楓李は雪紀のやることに不服そうだ。


 「どっちを使った?」

 「赤い蓋。」

 「じゃぁ不正解。」


 雪紀はそういって瑠菜の腕を見るように楓李に手招きをした。

 楓李はもう一度瑠菜の腕を見て驚いたような反応をする。


 「これ……。」

 「俺もパッと見ただけだとわからなかった。楓李にわからなくても問題はないが……。」

 「まさか折れてるとは思わねぇだろ?」

 「ほっそい骨もあるってことを覚えとくことだな。」

(なんなのさ、この二人……。)


 瑠菜は怪我した張本人のはずの自分を置いて目の前で淡々と話す二人を見て少しすねた。見ていると、まるで瑠菜をモルモットのように扱っている気がする。


 「あんたら、本当に私のこと心配してる?」

 「えっ……。」

 「あ……うん。もちろん。」


 楓李が言葉に詰まる一方、雪紀は一瞬戸惑いながらもにっこりと笑って返事をした。それでも、瑠菜は二人が戸惑っていることに気づかないほど鈍感ではなかった。


 「はぁ、私は確かに最近感覚が鈍くなってきているけど、二人が思ってるような事故り方してないから。何ならおばあさんいなかったらよけられてたし。たまたま自転車とぶつかりそうになって少し怪我しただけ。」

 「骨折れてんだって……。」

 「瑠菜、次は死ぬぞ。いいのか?」

 「そうはさせないし、何より私はこの世に未練なんてないから。」


 瑠菜は少し強く言い返した。

 雪紀がそこまで瑠菜に対して言うとは思ってもみなかった楓李は、二人の様子をある程度距離をとってみていた。


 「お前がそう思っていたとしても今回みたいに周りに人がいたら?その人が巻き込まれそうになっていたらどうせ、手を貸してしまうんだろ?周りに全く人がいないような状況なんてありえないんだから、絶対に大丈夫とは言えないだろ。」

 「言い切らなくてもいいでしょ?大丈夫だって。」

 「大丈夫じゃねぇから言ってんだ。」


 二人の喧嘩……言い合いは次第に声が大きくなっていく。

 この二人の喧嘩は大きくなればなるほど楓李にすら求められなくなってしまうのを楓李は知っている。少し昔には、沸かしたやかんやフライパン、包丁などのような本当に危ないものまで瑠菜が投げ出して、雪紀がよけ続けているという喧嘩もしていた。台所に立っている瑠菜をバカにしていた雪紀が百%悪いのだが、その時もだれ一人としてけんかを止めるどころか家の中にすらも入ることはできなかった。過去一大きな喧嘩だった。誰も怪我をしなかったのが奇跡だと思えるほどに。


 「瑠菜、お前はもう少し考えて動け。」

 「な……!か、かえもいるから大丈夫だもん。」

 「あぁ、そうかそうか。俺なんかよりも楓李のほうがいいか。」

 「な……ん……。」

 「はいはい、もう終わりね。」


 殺意高めな口論を止めたのは、楓李ではなくケイだった。

 自分たちでは止められなくなっていたのを見て楓李が電話をしたのだ。


 「邪魔すんな。関係ねぇだろ?ケイ。」

 「ひどいなぁ。素直になりなよ。瑠菜が心配なんだろ?お前が誰彼構わず吠えるときっていつもそうだしな。で、瑠菜ちゃんも。雪紀が心配して言ってんの分かってて、そんなこと言ってるんでしょう?そうなんだったらちゃんと助けてほしいって言わないと。この鈍感は気づかないよ?」

「にゃっ……。」

 「誰が鈍感だ。誰が?」

 「じゃあ、瑠菜ちゃんが今どんな気持ちかわかる?」


 ケイは、大人げないよと軽く雪紀を注意してから問いかけた。

 瑠菜の表情は目が潤んでいて、顔がいつもよりも赤くなっていて息も荒い。


 「悔しいんだろ?自分の思うようにいかないから。」

 「な……!」

 「はぁ……。」


 雪紀は昔からそうだ。

 他人の気持ちというものに全く興味がなく、どうしても少しずれた考え方をしてしまう。


 「ほら、瑠菜ちゃん。言ったでしょう?ちゃんと言葉にしないといけないって。」


 ケイは優しく瑠菜に言った。これには瑠菜も首を縦に振るしかない。


(察してって言うのは簡単だけど、察すること自体は簡単じゃないもんね。うん……。)

 「私はお、お兄に……ついて来てほしい。……ダメ……かな?」


 瑠菜は一つ一つの言葉をかみしめるようにして言いながら雪紀の目を見た。

 一方雪紀のほうは、瑠菜の態度を見て息をのんだ。


(こいつ……コムのこと……。)


 瑠菜のその姿勢や言葉遣いから話し方まで、すべてがコムと同じだと雪紀は思った。

 いや、似ていない部分も探せば見つかるだろうが、雪紀はその時の瑠菜にコムを重ねてみてしまっていた。


 「……お兄?」

 「あ、悪い。……わかった。勝手にしろ。その代わりに俺の目の届く範囲でな。」

 「!はーい。かえも助けてね。」


 瑠菜は空元気にも見えるような返事をして、楓李にも一応そう伝える。

 瑠菜自身、真保子に今回のことが関係ないとは言い切れないが、これからこんなことがないことを願っていた。


(残り一日。真保子さんだって結構人見知りも治ってきているし。別に、何もないと信じたいけど。いや、ないよね。大丈夫。)






 翌日、真保子はいつも通りの時間に、いつも通り小屋の中へと入った。


 「こんにちは。あ、今日もサクラちゃんはいないのね。」

 「はい。今日も、いろいろと用事が重なっていて。」

 「残念ねぇ……。」


 真保子は最初ここへ来た時よりも少し楽しそうにしゃべるようになっていた。

 特に瑠菜には多少心を開いていて、逆に瑠菜のほうが一線を置いているように見える。


 「真保子さん、動物は好きですか?」

 「はい。かわいい子たちは好きです。」

 「触れますか?」

 「一度も触ったことないです。」


 瑠菜はそれを聞いてニヤリと笑った。

 そして勢いよく後ろを振り返って作業をしている雪紀と楓李を見る。


 「お兄、私……いや、真保子さんが猫カフェ行きたいって!今。すぐ行きたい。行こ!」

 「心の声出てるぞ……。」

 「あー。新しくできたやつか。いいけど、あ。楓李、猫カフェだってよ。」

 「マジすか……。わかった。行くか。」


 雪紀は自分の財布を見て、十円玉二枚と一円玉一枚しか入ってないことに気づき、楓李に遠回しにお金を出すように言った。


 「え?私も行くんですか?」

 「はい。行きましょう。」

 「でも……。」

 「お金はこちらですべて負担します!」


 楓李がとは言われなかったが、楓李は自分が払うんだろうなぁと思った。



 「わぁ!」

 「あんまりはしゃぐと危ないですよ。」


 雪紀は大きな道路で目を輝かせる真保子に一応声をかけた。真保子に対してどことなく、小さい子供のようにも感じる行動と見た目のギャップから声をかけにくいと感じていたが、車にぶつかれてしまうと会社にも怒られてしまいそうなので雪紀は仕方なく声をかけた。


 しかし真保子は、その後もはしゃぎ続けていた。

 猫カフェについても真保子の気持ちは落ち着くことはなかった。


 「かわいい!え?触っていいんですか?」

 「そういうお店なので、どうぞ。」


 瑠菜は猫カフェについても真保子の様子をひたすら観察していた。というのも、来る前に雪紀と楓李から仕事だからなとくぎを刺されていたのだ。

 猫好きな瑠菜がそんなことできるはずがないと二人は思っていたが、瑠菜はしっかり仕事とプライベートを分けることができる子なのだ。


 このお店には猫と戯れるところと、普通のカフェが壁一枚で仕切られていた。そのため、楓李や雪紀は猫よりも何が食べられるのかのほうが気になって仕方がなかった。


 「何か食べますか。」


 そんな楓李と雪紀の様子を見て真保子に声をかけた。

 真保子も瑠菜に言われて喜んでカフェのほうへ行く。

 なんだかんだ、三十分も猫と戯れていて、ずっと高いテンションのままだったためおなかがすいたのだろう。


 「私が注文するんですか?」

 「当り前です。一週間でどれくらい成長したのか知りたいですし。」


 瑠菜に言われて、真保子は仕方なく注文のベルを押した。


 「はい。」

 「あの……ミルクチョコラテと、その…………。」

 「私コーヒー飲みたい。」

 「俺もコーヒーでいい。」


 真保子に続いて、瑠菜が遠慮している様子もなく言う。

 楓李はメニューを見ていて全体的に高いなぁと思いながら一番安かったコーヒーを頼んだ。


 「んじゃ、俺はこの定食とコーラ、後このパフェも。」


 雪紀が頼んだものをメニューで見て、楓李はにらんだ。


(金ないって言ってたよな?こいつ。)


 瑠菜もそれには気づいたが、楓李が払うからいいかと思って無視をした。


 「声をかけられてよかったです。緊張しました。」

 「普通でしたよ。上出来です。」


 瑠菜が笑うと真保子は安心したような表情をした。

 よかったと安心する真保子を見て、瑠菜はため息をつく。


 誘拐犯かもしれない人と、誘拐された子供かもしれない人を放っておくことはさすがにできず、できればそれを担当している人の所へ受け渡した方がよいと瑠菜と雪紀は思ったのだ。


 もちろん楓李の意見としては当たらず触らずで、関わらないほうがいいだろうというものだった。

 しかし一度足を踏み入れて真保子と会って話した時点でそれはできない。


 瑠菜は少し迷ったが、口を開くことを決意した。


 「旦那さんってどんな方なんですか?」

 「ん?うーん。優しくて、背が高くて、カッコいい人よ。少し怖い顔もしているけど。」

 「えー?どんな顔ですか?」


 瑠菜はあくまで恋バナが好きだから聞いているという風にアハハと割り声を出しながら真保子に聞いた。売ると、真保子は自分のスマホを取り出して瑠菜に見せた。


 「へぇ、カッコいいですね。いいなぁ。」


 瑠菜はそう言いながらその写真をまじまじと見た。

 怖い顔というよりも頬に傷があるだけの少し細長い男性のように見える。


 (私が百五十二センチで、真保子さんは百五十八、九センチくらいだからこの人は百七十センチ前後かな……)


 瑠菜は自分の身長から、何となく身長を予想すると雪紀のほうを見た。


 「……お兄と同じくらい……って言うか、頼みすぎでしょ。ここカフェよね?」

 「え?何が同じくらいですか?」

 「ん?あぁ。私が食べたいもの。おなかすいたから、このくらい食べたいなぁって。」

 「やめてくれ、俺が払うんだから。」

 「まぁ、こういうだろうと思って頼まなかったけど。」


 瑠菜がそう言って笑うと、真保子は納得したように見えた。

 瑠菜はこの調子で真保子の夫や両親について聞き続けた。会話の中にちょこちょこ違和感がないように聞いてはいるが、楓李と雪紀はいつか怪しまれてしまうのではないかとそわそわした。


 真保子が首をかしげるたびに二人は瑠菜をカバーするような言葉を並べる。

 瑠菜からしたら別にそんなことしなくても、頭がよく回る瑠菜は言い訳が水の流れのように思いつくため二人の行動のほうが怪しまれてもおかしくはないと思う。


(うるさいなぁ。)


 瑠菜はそう思いながらも真保子の話を聞いた。

 親はいないらしく、夫は幼いころから一緒にいる。

 それを聞いた瑠菜は行方不明の女の子と重なってしまう。


 (決めつけないようにしないと。もしかしたら本当に親がいなくて旦那さんに世話してもらってたのかもしれない。幸せなんだったらそれを壊してしまうのはダメ。)


 瑠菜はそう思いながら二人を見た。


 「もう帰るか……。」

 「あ、瑠菜さん。真保子さんも、お久しぶりです。」

 「げっ……。」


 瑠菜が声のする方を見ると、サクラが手を振ってこちらへと来ている。サクラの後ろには、龍子が顔色を悪くしながらついて来ている。


 「どうしてここに?」

 「休憩です。あれ?龍子君は体調悪いんですか?」

 「いや、大丈夫。」


 龍子は冷や汗を拭きながらサクラに言った。


 「サクラ、もう帰ろう。」

 「えー。一緒に帰りましょうよ!」

 「いやいや、二人で帰ろう。」

 「なんでですか?」


 サクラはどうしても瑠菜と一緒に帰りたいらしいが、龍子は今すぐにでもここを離れたいらしい。


 「まぁ、一緒に帰ってもいいんじゃねーの?龍子。サクラ、さっさと伝票もってこい。おごってやる。」

 「え?いいんですか?」

 「雪紀さん……。」


 龍子にとって雪紀は師匠である楓李よりもすごい人だ。

 否定するわけにもいかない。

 しかし、楓李は今すぐにでもここから逃げたいという顔をしていた。

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