第一章第六話:名前
ここのサイトってすごい人数が閲覧するんですね。…恥ずかしくて死にそうです。
「そう。私はエルフ族族長筋、第27代目の長女よ。あなたを殺す族長の娘。…18人の屍の上に立つ、汚れた女。」
そういってリーザは目をつむった。
話は理解した。理解できてしまった。…これは何なのだろうか。
俺が殺されるという話をするだけなら、わざわざ自分の立場をばらす必要はない。隠そうと思えば隠せたはずだ。もし俺が混乱していたら、勢いで殺してしまったかもしれないのに。遠回しに殺してくれと言っているのだろうか。
それにさっきの話だって、俺が逃げることにしか言及していない。俺が逃げたら、彼女が責任を取らされるのは明らかだ。
…とりあえず、このバカな姉には一発お見舞いする必要がありそうだ。色々と教育的指導の意味を込めて。
「………」
無詠唱で高濃度の魔力の固まりを生成、それをリーザにぶつける。
どんっという鈍い音がしてリーザが吹っ飛ばされ、崩れ落ちた。
圧倒的な魔力の固まりはそれだけでエルフを気絶させることができる…そう教えてくれたくれたのは、もちろんリーザだ。
「俺がリーザを殺すとでも…?」
そう思われたことにちょっと落ち込みながら、リーザを浮かせてベットに運ぶ。
リーザの服を解いて脱がせ、外傷がないかを確認する。うん、外傷なし。うまく意識だけもっていけたようだ。
脱がせても着せることはめんどくさいのでそのまま放置。
治癒魔法でリーザを癒しながら思考をめぐらす。
10歳で殺されるということは、まだ9年の猶予がある。
自分一人でだけなら、5歳にもなれば、逃げて魔法技術を売り込んで適当に生活もできるかもしれない。しかし、それだとリーザに制裁が行われてしまう。下手すると殺されることだってあるかもしれない。それに、今預けられた自分の妹も結局死ぬことになる。…それは許せない。両方とも助けたい。
姉はかなりシリアスになっていたが、話を聞く限りでは事態はそんなに逼迫していないし、俺には神様チートがある。要はこの軟禁生活が最低でも5年ほど続けばこちらの勝ちなのだ。その時妹は五歳、俺は六歳。外がどんなファンタジーな世界になっているかは知らないが、多少汚いことでもすれば生きていけそうな気がする。
…妹には、その時までには、自分で逃げれるぐらいには魔法を使えるようになって欲しいものだ。具体的には、俺が浮いている【浮遊】、周りの気配を探れる【探知】、あとは適当な攻撃型の魔法。【電撃】とかが良さそうだが、魔法は妹の才能に賭けるしかない。
もし10歳まで放置されたらW役満。上手く成長すれば、族長を脅して太陽の下で生きていけるようになるかもしれない。神様チート様様だ。
「はぁ…」
…それにしても、なんと変なシステムを使っていることか。
わざわざ大量の子供を作って暗殺された時の為に生かしておく。一定年齢に達したら殺す。
そんなことを無駄な事をするくらいなら、少数の子供を作って徹底的に守る方が何においても効率がいい気がする。姉は費用をたかが知れているといったが、10年間×18人の必要経費は決して安いものではないだろうし、この屋敷――――見てはいないが、探知魔法で探ったら相当大きな建物だった――――17個分の維持費やなにやらも相当なものになるだろう。長女以外の娘を売り飛ばしたところでとてもペイするとは思えない。
…そもそも、長女と長男以外を殺す必要はあるのか?族長ともなれば子供を作ってなんぼだろう。
倫理的にも効率的にも、特に経済的には最悪だ。わざわざこんなことをする利点が見つからない。しいていえば、血脈の維持に絶対的な保険を掛けていることぐらい…いや、それでは子供を殺すことはかえって逆効果となる。うーん。
…もしかして、エルフの首脳部って本当に馬鹿か?それとも、『第○代族長が考えたこの方法、効率悪いし金もかかるしいいとこ全くないけれど、長い慣習だし続けちゃいましょう』とかいう、ファンタジー系でお馴染みの古えからの習慣的行為ってやつか?
「………」
話題閑休。
ベットで寝ているリーザはまだ起きない。時間的にはもう十分回復してるはずなので、もうそろそろ起きるだろう。治癒魔法を止めて、じーっと顔を見つめる。
…いつ見ても美しい。女性のエルフは皆こんなに美しいのだろうか。
なかなか起きないので、胸の上にとび乗ってみる。
…ぷにぷにしてて柔らかくて温かいものに埋もれて至福のひと時。一歳だからこそ出来る特権だね!
「ぎゅむっ!?」
ほら、しかも起こせたし。
◆
突然の衝撃に意識が覚醒させられた。
「………?」
目を開けると見慣れた天井。
あれ?何があったんだっけ?
確か弟に全部ぶちまけて…ああ、その後何かの攻撃を受けたんだ。
体に痛みはない。私は殺されなかったようだ。
「おはよー。自分のやったこと、覚えてる?」
「…うん、覚えてる。」
声は私の胸の上から。天井を見つめたまま答える。
…なんで私裸になってるんだろう?
「気絶させたことは謝るけど、俺がもうちょっと頭悪かったら殺しちゃったかもしれないんだよ?なんで長女ってばらしたの?別に隠しても良かったよね?まさか勢いで言っちゃったとか言わないよね?」
「………」
「あと『穢れた女』とか本気で言う?何カッコつけてるんだか。リーザは俺の実質的な母親で、しかも俺はリーザの乳で育ってるんだから、そんなのはもう二度と言ってほしくないね。他の16人なんか知ったこっちゃない。今の俺には姉と妹しかいないんだし。」
…なんだか泣きたくなってきた。
「で、結局リーザは俺の味方?それって族長に喧嘩を売ることになるし、追われるようになるかもしれないよ?」
「……………うん、味方だよ。そうじゃなかったらあんなこと話さないって。」
非打算的で純粋な愛を、初めて向けることができた弟。
育てたのはたった一年、といってもあまり苦労はしなかったのだが、それでもこの子はもう何にも変えがたい宝物だ。たとえ父である族長に逆らって追われることになってでも。
…子供を持った母親とはこのような心になるのだろうか。
「なら話は簡単。このまま成長して適当に族長を脅せばいい。そこそこ成長すれば楽勝楽勝。」
「…簡単に言うね。族長は強いよ?」
「絶対に俺の方が強くなる。なんてったって神様チート仕様だし。」
「神様チート?」
「あ~、なんでもない。」
なんとも心強い。
…そういえば、この子が自分から私の胸にくっついてきたのは今日が初めてな気がする。授乳の時もお風呂のときも、飛んで逃げ回っているのを無理矢理捕まえていたはずだし。
静かに腕を持ち上げ、胸に半分埋もれている弟をそっと抱きしめる。
「!?」
「お願い。今日だけ、今夜だけでもいいから、逃げないで。…このまま寝かせて。」
「…裸で寝ると風邪引くよ?」
「あなたが温かいから大丈夫。」
本当にあたたかい。体の芯からあたたまってくる。目まであったかくなってきたみたいだ。
…もっと早く抱きしめておくんだった。
「そうだ。私が名前を付けてあげる。…かわりにお母さんって呼んで欲しいな。」
「…っ!?」
「何がいいかなぁ。えーと、…あ。いいの見つけた。今日からあなたの名前は…
なぜこんな複雑な設定にしたのかと小一時間自分に問いたいです。
…ここに投稿されている、最強系のどの小説とも話がかぶらないようにとマイナー路線を突っ走っていたらこうなってしまった、って自分では分かってはいるんですが。
にしても、なかなか主人公が成長してくれませんね。エルフ領を飛び出して奴隷を大人買いするハーレム主人公はいつになったらでてくるんでしょうか。