第一章第五話:族長候補者予備
現在進行形で日本語を大量に訂正中@10.3.31
本筋に変わりはありません。
一歳になった。
にも関わらず、外界と親の顔を見たことが無い。
結局一年間、一度も外に出してもらえなかったし、親にも会えなかったのだ。
親が会いに来ない、というのは分からなくもない。なにせ、赤子一人にこんな広い部屋を一部屋与え、しかも乳母まで用意しているのだから。父がエルフ族の族長ということもあるらしいし、自分達で育てる気は端からないのだろう。
問題は、前者。
部屋から一歩も出ずに過ごすのは、精神年齢だけは十八歳の俺にとって相当堪えるものがある。好奇心を抑えるのが辛い、という意味で。とっとと外のファンタジーな景色を見たいです。
「ねぇリーザ、そろそろ外に出してくれてもいいんじゃないの?」
「っ!?…えーと、そうしたいのはやまやまなんだけどね、それができなくて…」
「どうして?」
「えっと…その…」
「………」
「……うーんと………」
「………」
「…ああもうっ!言うよ!許可されてないのっ!」
「…ふーん。なら外には出れなくていいからさ、親に会えないかな?」
「残念だけどそれも不許可。もっと大きくなったらね。」
こんな会話がここ一ヶ月で三回程あっただろうか。
興味深いのは、この話題を振られたリーザは決まって動揺する事。誰が見ても変だと思えるくらいに動揺しまくる。にも関わらず本人は無理矢理冷静に振る舞おうとしていることもあいまって、もう自分から「やましい事を隠してます」と言外に叫んでいるとしか思えない。
…ただ、そんな動揺を必死に隠そうとするリーザを見る度、なんというか、こう母親を困らせてしまった時特有の罪悪感がむくむくと。
リーザは今俺の中で母親という位置を占領している。そりゃぁそうだ。一年もつきっきりで世話をしてくれているのだ。母乳すら飲んだ仲である。彼女の困った姿は見たくない。そんな思いもあって、出来る限りこの話題には触れないようにしていたが…好奇心は日ごとに増すばかり。そろそろ、リーザと腹を割って話し合わなければならないかもしれない。
思考を巡らす。
リーザが俺に嘘をついているとは考えにくい。赤子を外に連れ出す程度で彼女に不利益が発生するとは思えないし、何より彼女はとても優しいからだ。一年間育てられた俺が言うのだから間違いはない。
だとすると、事実上、俺はこの部屋に閉じ込められていることになる。
そもそも一歳児は部屋に籠って育てられるものかもしれないが、それにしたって全く外に出さないというのはおかしい。発育にも悪影響が出そうな気がする。
「…軟禁、ねぇ。」
冷静に考えてみれば、リーザは単なる乳母なのだ。教育方針はその雇い主、すなわち俺の親から注文をつけられていると考えて間違いはないだろう。
問題は、俺の親である族長が何を思って外に出すのを禁止しているのか。単なる箱入り息子?他のエルフに見せない為?もしや、この世界は紫外線が多すぎて生物が外で暮らせないとか?
…うーん。どれもこれも説得力が薄いし、だいいち考えて分かるものではない。
「ん~…もっと大変で、リーザが俺に隠さなきゃならないような大きな理由があるはずなんだが…」
深夜。
真っ暗な誰もいない部屋の中で、ふわふわと宙に浮かびながら静かに呟く。リーザは珍しく席を外しているのだ。
彼女は自分の扱いについて何か知ってる…いや、知らないはずはない。生まれて初めて会った時に、俺のことを『族長候補予備』と話していたではないか。多分、今の自分の状況も知っているだろう。
「結局、一番手っ取り早いのはリーザに聞くことか。」
なんという分かりやすい結論。
そのままぷかぷか浮かんでぼーっとしていると、常駐させている探知魔法にリーザの気配が引っ掛かった。神様補正のかかった魔法はやはり最強だ。
「リーザ、お帰りなさい。」
「…!まだ起きてたんだ。」
「んー。なんとなく待ってたんだよー。」
「寝てると思ったんだけどなぁ…驚かせる計画は失敗しちゃった。これ、君への誕生日プレゼントだよ。」
「ん?」
リーザが俺に差し出したバスケットの中を覗くと、なんとそこには、
「赤ん坊…?」
「君の妹。今日生まれたんだよ。ほんとはベットに入れて明日の朝に驚かせようとしたんだけど。あ、ちなみに世話を手伝ってもらうから宜しく。」
「………」
…一歳児にゼロ歳児の世話を手伝わせるというのは非常識ではないだろうか。
まぁ、喜んで手伝わさせてもらいますが。
「多分夜泣きするだろうし、きみと違ってたくさん漏らすと思うから色々と覚悟してね。」
「ぶーっ!」
もうちょっと間接的な言葉を選ぼうよ!
…にしても、
「妹かぁ…可愛くなるかな…」
バスケットの中ですやすやと眠っている妹の頬をつつく。…柔らかくて温かい。ついでに頭をそっと撫でてやる。
「すっごい可愛くなると思うよ~。ちゃんと兄が甘やかしてあげてね。」
…手も足も小さくてとても可愛い。寝顔も幸せそうだ。はぁ。見ているだけで癒される。なでなで。
ああ、そうだ。リーザに聞くことがあった。
「ねぇリーザ、できれば逸らさないで答えて欲しいんだけど、質問していい?」
リーザがきょとんとした顔をする。
「別にいいけど?そんな畏まっちゃって、何を聞くの?」
「相変わらず外に出してもらえないけど、俺に何か特別なことでもあるの?」
「…っ!?」
「一年も部屋にこもりっぱなしなのはちょっと異常だし、さすがにそろそろ外に出てみたいかなと。」
「っ………」
俺から目線を外し、唇を噛む。明らかに様子がおかしい。
…あれ?やっぱりこの質問ってそんなにまずかったか?
「……………」
「いや、あの、答えられなかったら別にいいんだけど…」
「…賢すぎるってのも問題だよね。せっかく頑張って逸らしてたのに、やっぱり全部無駄になっちゃった。」
妹をバスケットごとベットに置いて、俺の近くの壁に寄り掛かる。はぁぁっと大きな溜息を一つして目線を俺に戻す。
「じゃぁ、一歳の誕生日プレゼントとして話します。…相当衝撃的な話になるけど、いい?」
「…?別にいいよ?」
「じゃ、簡潔に言うよ。あなたは『族長予備』および『処分予定者』。このままだと満9歳になったら殺される予定。」
「!?」
殺される…だと!?
「…初めてあったときにも言ったけど、あなたは次期族長候補の予備。リミットが10歳なのは、そこまでの子供なら普通反抗すらしてこないから。次期族長候補者予備はそれぞれが遠隔地で、外界と隔絶されて育てられてる。どんな事があっても絶対に継承者が残るようにね。なんらかの原因、だいたいは暗殺とかなんだけど、何にせよ次期族長候補者が死亡した場合、生まれた順に席が繰り上がる。…あなたは10番目に生まれた末っ子。上に7人の兄がいる。本当は9人いたんだけど2人死んじゃったのよね。どちらにせよ、あなたまで席が回ってくることはまず、ない。そして10歳になった次期族長候補者予備は殺される。生き残れるのは長男の席のみ。」
「………」
「要は、あなたは10歳で殺されるの。」
…なんと理不尽な。
いや、まてよ?現在俺は神のチートによって魔法に関しては最強だ。おそらくこれからも強くなるだろう。
「…でも、正直言って今の俺でも殺されないと思うけど?」
「それはそうよ。あなた、今でも私よりずっと強いのよ?やろうと思えば私を一瞬で蹴散らせられるでしょうね。私も一応はこの年でも中の中には入ってるつもりなんだけど。…まぁ、だから話したんだけどね。」
なんという最強な一歳児だ。俺がリーザを蹴散らすことは一生ないが。
…ん?そんな危険な『族長候補者予備』が放置されるか?
心を読んだかのようにリーザが続ける。
「そんなあなたが今だ処分されないのは、単にエルフの首脳部がバカだから。子供に負けるはずがないと思っているのよ。いくら生まれた瞬間から言葉を発した神童とはいえ、所詮子供。不確定要素には値しない。そもそも気にすらとどめていないでしょうね。…はじめは私自身も信じられなかったから。」
「………………」
「もう少し成長すればあなたは一人で逃げることができるようになる。その時までその魔法の実力は隠しておかねばならない。いくら魔法が強くても、身体が幼児じゃ生きていけないしね。」
リーザは俺から目線をはずし、天井を仰ぐ。
「最初は諦めていたのよ。どうやったって10歳で終わる命。生まれた瞬間に言葉を話したってのも聞いてたけど、その程度じゃ逃げることはできない。…でも、魔法を知ったあなたは変わった。神童どころの話じゃないわ。魔法だけなら、成長すれば全エルフ中最強になるわよ。魔法を教えた切っ掛けはあなたの暇つぶし程度だったのにね。…これなら逃げても生きていける。たとえ追っ手がかかっても返り討ちできる。」
下を向き、ふーっと大きな溜め息をつく。
「この話は、いつかはするつもりでずっと考えてたんだ。もうちょっと成長してからしようと思ってたけど…タイミングがよかったから、ばらしちゃった。あはは。」
俺のベットで寝ている妹に視線を投げかける。
「女子も人数制限があって、1人だけなんだよ。この子は10人目の末っ子。普通は殺され、容姿がよければ奴隷として売り出される。…だから私が育てることになったんだけどね。」
◆
「…子供を10歳まで飼い殺しにする為の費用なんてたかが知れてる。問題は、幼年期の面倒を見る人。誰も殺される予定の子供の面倒なんて見たくない。どんなに自制しても、情が移ってしまうから。」
そう、私みたいにね。
深く深呼吸する。
…ここから先を説明すれば、必然的に自分の立場をばらしてしまうことになる。そうなれば、数年後に殺されるかもしれない。もしかしたらこの場で。それは族長に一矢報いることになるから。
目の前の一歳児は魔法の天才だ。本気になったら私など一瞬で蒸発するだろう。
…その時はその時か。育てた我が子の手にかかるというのもやぶさかではない。
「…だから首脳部は、使われる可能性が全くない男女の末っ子の面倒を長女が乳母となって見るという方法をとった。そうすれば長女は子供の育て方の練習を出来る、と同時に自分の育てた子供が殺されるという実体験ができる。」
一度流れ出した言葉は止まらない。
「ああ、言ってなかったけど男女それぞれ11人目以降は堕とされるわ。流石に多すぎるから。だからあなた達が末っ子なのは確定してるの。…長女は得てして外国の王室に側室として嫁ぐことになる。子供を育てた経験はそこで非常に役に立つ。子供を失うという体験は、感情を殺すよい経験となる。」
弟が、息をのむ気配がした。
「そう。私はエルフ族族長筋、第27代目の長女よ。あなたを殺す族長の娘。…18人の屍の上に立つ、穢れた女。」
目をつむる。何かくるだろうか。もしこの場で殺されるのならば、出来ることなら即死したい。
…数秒がたち、目を開けようか迷った瞬間、
―――――衝撃。
何を受けたか考える間もなく、意識を刈り取られた。
シリアスなのは苦手です…やっぱりほのぼのが一番。
現在進行形で日本語を大量に訂正中@10.3.31
今思えば、もうこの地点からプロットを完全に無視してたんですね…(蹴