第一章第四話:魔法
人間から見た場合の「人型」というのは、エルフからみたら「エルフ型」になると思うんですよ。
…はい。枝葉末節な話でしたね。ごめんなさい。
生まれて数日経過。
二日目はどたばたしたが、慣れてしまえばどうということはない。それどころか、手持ち無沙汰で暇になってしまった。
「リーザさん、ちょっと色々なこと質問してもいいですか?」
「はい。私は構いませんよ。私も暇ですし。」
俺がぼけーっとしている間、リーざさんはだいたい椅子に座って何かの本を読んでいる。本当ならもっと忙しいはずなのだが、俺が静かすぎるので時間が余るらしい。
今も俺の声に反応、読書を中断して顔をあげた。
「この世界ってどんなところですか?」
「…いきなり難しいことを聞きますね。もうちょっと限定してくれませんか?」
「えーと、じゃぁこの世界には他にどんな種族が暮らしてるんでしょうか?まさかエルフだけってことはありませんよね?」
「…最近思うのですが、あなた少し聡明すぎませんか?まぁ、別にいいですけど。この世界で、私たちのようなエルフ型をしている生物は大きく分けて4種です。多い順に人間、獣人、亜人、清人ですね。エルフは清人に属します。」
聞けば、人間はそのまんま、獣人は人間+ケモノミミ+尻尾、亜人は人間と人間以外とのハーフ、清人はその他の貴重種、あるいは希少種らしい。
個体別でみれば人間は肉体的には最弱らしいが、数が多いこととそこそこ良質な魔法の技術で獣人と亜人に対抗できるということ。
…魔法!?
「現在は人間が治める国が六つ、獣人が治める国が一つだったと思います。私も含めてですが、エルフ族は他種族とほとんど交流していないので、最近のことはよく分かりませんが…」
「ああ、それはもう十分です。それよりも、さっき言っていた魔法について聞きたいんですが。」
やっとファンタジーの本筋がでてきたよ!エルフも慣れればただ耳が長くて綺麗なだけだしね!
「魔法、ですか…。えーと、魔法は本当に色々なことができるんです。光らせたり、火を付けたり、水を出したり。雷を落とすことも簡単ですし、宙に浮くこともできます。治癒系を覚えれば大体の肉体的損傷は治せるようになります。ちなみに、エルフは肉体的には人間以下ですが、魔法的にはほぼ最強クラスです。そのおかげもあってか、一応エルフ型生物の中では一番長寿ですね。…そうですね、平均寿命は300年くらいでしょうか。」
「長っ!」
なんという王道設定。
この部屋の明かりも魔法ですよーと言われ、はっとして天井をみる。
…一見蛍光灯の間接照明に見えるだが、このようなファンタジーな世界にそんなものはない、と思う。というか、なぜ今まで疑問に思わなかったんだろう。
ふーむ。
現在俺はゼロ歳児、これから最低一年はまともに動けないだろう。暇をもて余すことになるのは間違いない。それに魔法なんて面白そうじゃないか。
「魔法、俺に教えて貰えませんか?」
「…いいですが、体はまだ赤ん坊ですからほとんど使えないと思いますよ?」
「将来絶対役に立ちそうだし、どうせ暇だし、それでも構いませんよ。」
勘だが、神の最強設定は魔法方面にかけられているはずだ。もしそうなら、ゼロ歳児の俺が魔法を使えても何ら不思議ではない。
なんでかって?ほら、最強系設定ってどっちかというと肉体派よりも魔法派が多いじゃん。なんというか、設定上肉体派には限界があるっていうか。
「本音は暇つぶしの方ですね…。まぁ、わかりました。ちょっと参考になる本を持ってくるので待っていてください。」
「宜しくお願いしまーす」
さぁて、オラわくわくしてきたぞー!
◆
リーザさんがベットの横に椅子を移動してきて、見るからにごつい本を開く。本のタイトルは『実用的魔法基礎~熟練編~』…って!文字も日本語かよ!しかも熟練編って書いてあるぞ!
「この本、人間が書いたにしてはとってもわかりやすいんです。魔法の基礎に関しては人間もエルフも同じですからね。便利なのでエルフの子供に魔法を教える時にも使うんですよ。」
「なんで熟練編からなんですか!?」
「…あなた、文字も読めるんですね。もう驚きませんが…。」
そういえば、転生時の特権に言語関係の事項があった気がする。
…予想以上にいい特典だった気がしてきた。文字が読めるって素晴らしい。
「あなたなら熟練編からでも楽勝だからです。中身は決してゼロ歳児に教える内容ではないですけどね。中級編はエルフには必要ありません。初級編とか、文字と単語の勉強で終わりますよ?」
「…実用的すぎるなおい!」
初級編、もはや魔法関係ないじゃん。
「えーっとですね…一般的な魔法は、宙に漂っている精霊を、ある特定の流れに誘導することによって発動すると言われています。それなりの魔力がある者が特定の手順を踏めば、大きさに違いはあれ同じような現象が発生します。この『特定の手順』というのは、大体呪文のことですね。」
「なるほど…精霊?この世界には精霊がいるんですか?」
「うーん。それはエルフそれぞれですね。信じるか信じないか、程度のものです。現実の存在は確認されていません。…詰まるところ、この精霊というのは、解明されていない魔法発動のメカニズムをぼかすためのブラックボックスですよ。」
…色々とイメージが崩壊した気がする。
「うぁ、はっちゃけましたね。要は、魔法が発動する原理はほとんど分かってないってことですか。」
「そうなります。ぶっちゃけて言いますと、魔法はイメージ力と詠唱速度、それに魔力保有量の三本柱で優劣がほぼ決定されます。一般には、それ以外の要素はないとまで言われていますよ。」
「ふむふむ。」
前世のファンタジーでもお馴染みの設定ですな。
「イメージ力は文字通りです。今から起こそうとする現象をより鮮明に思い起こすことで、魔法の威力が大きく変動します。あと詠唱速度もそのままです。これらは鍛えればなんとでもなりますね。魔力という概念はかなり適当で、魔法の威力と使用可能回数を表す量のようななものです。魔力は、赤ん坊、つまりあなたはゼロで、成長していくに従って自然に増加していきます。成長するとともに魔力の自然増加も止まり、そこがそのエルフの基準値になります。もちろん成長後に鍛えれても増加しますが、幼年期の自然増加に比べれば微々たるものです。…本当は、幼年期にこそ魔法の勉強をするべきなんですよね。」
そこで一度言葉を切って本を置き、立ち上がって机の上のお茶(らしき飲み物)をとって飲む。そして机に寄り掛かってまた話し出した。
「だから魔法使いというのは魔力で決定的な差が付きます。逆に言えば、魔力で負けたらほとんど勝ち目はありません。成長した後に魔法使いを志した者は、自身の魔力を鍛えるのは非常に難しい為、幼い頃から魔法を叩き込まれ、魔力に溢れている魔法使いには絶対に勝てません。種族を隔てればその限りではないですが。…その点、あなたは今、ゼロ歳児からやろうとしていますから非常に有利、というかもはや卑怯ですね。」
「そこまで言わなくても…いや、確かにめちゃめちゃ卑怯ですね。」
俺の他にもこんなゼロ歳児がいたら、きっと世界の法則が乱れる。
よっ、という掛け声とともにリーザが反動をつけて机から下り、歩いてきて俺を上から覗き込む。
美人は三日で飽きるというけど、全く飽きないのは母親だからかな?
「ま、なにはともあれ使ってみましょうか。もしかしたら、あなたならもう発動するかもしれませんしね。とりあえず一番簡単な光玉から…」
◆
結論。やっぱり俺は変態でした。
光玉を生み出す魔法は、しばらく前後不覚に陥る程の膨大な光量を放つ玉を生み出してしまった。別の指先に小さな火を燈す魔法では、なぜが小さな火柱が発生。危うく天井を焦がしてしまうところだった。
リーザがすぐに俺の桁違いな魔力に気付き、安全かつ魔力の消費量が激しい【浮遊】を教えてくれた。その名の通り、宙に浮かぶ事のできる魔法である。
…習得にかかった時間、わずか五十分。しかも、一向に魔力切れになる気配はない。
「変態。ど変態。」
「いや…その…」
「言っとくけど、私がそれを習得したのは9歳の頃よ?しかも半年ぐらいかけて。」
「…ごめんなさい。」
ベットに降りて反射的に謝る。なんで謝ってるんだろう。
というかリーザさん口調に地が出てるよ!いつもの少し敬語が混じった言葉はどこにいったんだ!?
「いくら血統がいいからってこれはあんまりよ。ねぇ、そう思わない?」
「はい、おっしゃる通りで御座います。」
背景に『ゴゴゴゴゴ…』という文字が見えるのは幻覚だろうか…?
「…ちょっと早いけどお風呂入ろっか。」
「っ!?」
これはまずい!俺の貞操が大ピンチだ!
「…それだけは!それだけはご勘弁を!」
「大丈夫だって。いつもより十割増しで可愛がってあげるから。」
「…ってそれ倍ってことじゃ!?あわ…あわわわわわわ」
お父さん、お母さん、転生した愚息は生後一ヶ月もせずに穢されてしまいました。
リーザって絶対Sかつショタ趣味がある気がする。
「ん?なにか言った?」
いえ、なんでもございません。
俺がお風呂で弄ばれたことによってリーザの機嫌は少し回復した。
ただ、言葉遣いだけは完全に元には戻らなかったが。
◆
期待していたリーザ先生の魔法講座も、結局一ヶ月程度で終了してしまった。というのも、元々リーザがそれほど魔法に精通していなかった事、さらに、
「…あなたには、攻撃系の魔法は教えられません。どんな威力になるのか見当もつかないから。」
という悲しい現実もあったからだ。また暇を持て余す日々に逆戻り。
時間は適度にあると幸せだが、過度にあるともはや苦痛でしかない。仕方なしに、【浮遊】の魔法を常時発動し続ける『魔力増強訓練』を自主的に行っていたのだが…ただ浮いてるだけ、というのも、慣れたら暇である。本当に慣れというのは恐ろしい。
ただ、そんな暇つぶし感覚の訓練でさえ、俺に想像以上の効果をもたらしてくれた。異常なくらい魔力が大きくなっていたのである。具体的に言えば、一日中宙に浮いて生活できるようになった。
「私も、もうあなたには魔法では勝てる気がしない…もしかすると、エルフの族長より強くなってるかもよ?」
とは、リーザの談だ。
◆
そして、一年。
俺、とうとう一歳になりました。
ゆっくりと歩けるようになりました。
そして、魔法の無詠唱化に成功しました!これは頑張った!
「…って、まだ一歳かよ!」
時間の流れが遅すぎる。生前に病院で暇だった時とは比べものにならない程、暇だ。
それに歩けるようになったとはいっても、魔法での浮遊移動に慣れてしまった身。別段感動もしなかった。
…正直、魔法にも飽きがきた。
大きな魔法を教えてもらえない、ということもあるが、あくまでも『魔法は技術』だったからだ。AをするとBが起こる、という世界のルールを再現しているに過ぎない。そこにオリジナリティの介入する余地は欠片もなく、自分で魔法を作るなど夢のまた夢である。
うーん、何かイメージと違う。ファンタジーってのは、もっとこう、何でもできるような…あれ?ファンタジーの定義って何だっけ?
などとうつらうつら考えていたものだ。
そろそろ外に出てみたくなってきた。リーザに頼んでみようかな。
リーザさんのキャラが大好きです。(ぇ
10.3.28に大規模修正。日本語的に変だったところを徹底的に修正しました。本筋は変わっていません。