第一章第三話:年齢、0歳0ヶ月1日
お食事中の方はご注意下さい。後半にちょっと危ない表現があります。
…これぐらいなら、大丈夫ですよね?
10.3.28に訂正を開始。大筋に変更はありません。
年齢、ゼロ才一日。つまり生まれた次の日のこと。
俺はゆっくり、ゆっくり眠りからさめた。
「……………………」
「お目覚めですか?」
「…はいー。起きてますよー…えっ?」
寝起き特有のぼーっとした状態だったのだが、聞きなれない声に意識が覚醒する。
反射的に声の発生源を探そうとして体が思い通りに動かないことに気がつく。
(…あれ?今どうなってるんだっけ?)
ほぼ睡眠から脱した頭で記憶を走査する。
(ええと、確か死んで、神様に会って、おまけ付きで転生するって…)
記憶が整理され、今自分がどうなっているのかを悟る。この、明らかに小さい体は。
「…俺、赤ん坊かよ!」
記憶と感覚を統合して現状を把握する。
「…大丈夫ですか?頭でも打ちましたか?」
と、若干高めの透き通った声が頭上から降ってきた。
ああ、さっきの声のこと忘れてた。というか、日本語なのね…
神の補正はちゃんと働いているようである。
「はい、大丈夫です。現状は把握しました。」
「…本当に会話ができるんですね。しかも発音もしっかりしてますし。」
眩しさを堪えつつも目を開けると、俺の顔を覗き込んでいる顔が見えた。
長めの先細りな耳がチャームポイントの、さらさらしてそうな白い髪、澄んだ橙色の瞳をした、綺麗なお姉さんが…って、耳!?
「はじめまして、そしておはようございます。記念すべき生まれて初めてのお目覚めですね。」
「…お、おはようございます。」
尖った耳、整いすぎている顔立ち…そして、けっこう大きめの胸。
これって、俗に言うエルフってやつか?
「えぇと…あなたは…」
「私は、あなたの世話係兼乳母です。リーザとお呼び下さい。」
乳母だとっ!?
いや、それより、この耳はやっぱり…
「…つかぬ事をお聞きしますが、もしかしてリーザさんはエルフ族とかだったりしますか?」
なぜか言葉が丁寧になる。だってこの人(エルフ?)綺麗すぎるんだもん!もはや傾国の美女レベル!
「はい。確かに、私はエルフ族です。…もしかして、分かってないのですか?あなたもエルフですよ?」
「…え?」
「あなたは、エルフの第27代族長のご子息にあたります。あなたは第28代族長候補予備として育てられるのですよ。」
エルフ!?族長!?族長候補予備ってなんだ!?
ちょっとまてまて、落ち着け俺。目の前にいるのは俺を育てる乳母のエルフ、で俺はエルフの族長の息子だと。つまり、
「…俺はエルフなんですか?」
「はい、その通りです。あなたはゼロ歳、ゼロヶ月、一日のエルフの赤ん坊です。族長筋の息子さんともなると、生まれた瞬間から話せるのですねー。ちょっと感動しました。」
相変わらず凄い血筋ですねーと呟くリーザさんを気にかけることもできず、俺は呆然としていた。
…お父さんお母さん。愚息は転生して、エルフになってしまいました。
◆
リーザさんに聞きたい事は山のようにあったのだが、すぐに疲労感に襲われ寝てしまった。
それもそのはず。自覚は薄くとも、体はまだ赤ん坊なのだ。体力などゼロに等しい。
初めて落ち着くことができたのは、二日目の朝。昨日は見れなかった部屋の様子も分かった。
部屋は一辺が10メートル程度の正方形型で、俺が寝ているのは柵付きの幼児用ベットだ。すりガラスの窓の下に設置してあり、柔らかな日光が降り注いでくる。
床は柔らかそうな薄い橙の絨毯、壁にはベージュの壁紙。ドアは三つで、一つはトイレ、一つは風呂でもう一つは…見てはいないが、大方外だろう。
あとはリーザさん用の机とベット、冷蔵庫の様な箱、クローゼットのような物置ぐらいだ。ちょっぴり殺風景。
服装は、白い大きな布をかぶって腰で縛ったような着流し。端麗な体と純白の服とが見事にマッチしている。ファンタジー系のゲームででも出てきそうだ。
そして今日から、リーザさんに介抱される赤ん坊生活がスタートした。これがもう、予想以上にに大変で…はぁ。
リーザさんにとってみれば、俺と言う赤ん坊は非常に扱いやすかっただろう。泣き出さないだけも非常に楽チンだっただろうし、その上完璧な意思疎通までできるのだ。赤ん坊の世話によるストレスなど溜まりようがない。
俺だって、最初は楽観視していた。何せ、全ての世話をしてくれるのだ。これ以上に楽な事はない。
…唯一の誤算は、俺が十七歳まで生きた記憶を継承していたということ。『羞恥』という、本来の赤ん坊には無い感情を持っていたことだ。
まずトイレ。もちろん神器『おむつ』をしているので漏らしちゃっても大丈夫なのだが、いかんせん気持ちが悪い。仕方なく、毎回リーザさんを呼んでトイレ(日本にある洋式水洗トイレとほぼ一緒だった。ファンタジーのフの字もないよ!)まで抱えていって貰うのだが、問題は俺が小さすぎて座れないのだ。
つまり、
「じゃぁ、私が体を持ってますから遠慮なくしちゃってください。」
「え…いや、あの…」
体勢は、例えるなら高い高~いの体勢を90度強右回転したものだ。リーザさんの手で胴を捕まれて宙ぶらりんになっている。
…じっと見つめられた状態で、トイレが心安らかにできるわけがない。
しかもだ。ゼロ歳児の手は握力もゼロだし、そもそも動かせない。必然的に、
「お尻拭きますねー」
「………」
精神年齢だけは17歳の、元童貞日本人としては、これは刺激が強すぎた。
あと食事。毎回毎回非常に焦った。ゼロ歳児の俺は当然ミルクなのだが…
「ほんっと勘弁してください!」
「でも、これは乳母の一番の仕事なのですが…」
「こんな喋る赤ん坊にするのは気が引けるでしょう!ね、ですから他の方法で…」
「…それは、私のでは不満だということですか?」
「ちょ、ちょっと!別にそういう意味で言ったのではなくっ」
「少し傷つきました…もう駄目です。わがままは許しません。何としてでも私から飲んで頂きます♪」
「何でそんなノリノリなんでむごっ!?」
…リーザさんは少しお茶目が過ぎると思う。うん。
そしてお風呂。
ミルクのことを根に持ったリーザさんに、一方的に遊ばれて穢されました。まだ一次性徴もきてないのに…
「これからはさんを付けずにリーザと呼び捨てにしなさい♪」
「………」
僕もうお嫁にいけない…およよよ。
これはなかったことにしよう。うん。
◆
その夜。リーザがベットで転がっていた時に何の気なしに質問した。
「ところで、俺の名前ってなんですかねー?どんな名前なんだろ~。」
「!?」
リーザがフリーズした。
いやいや、そんなあからさまに動揺されても…
「…あ~、名前はまだ決まっていないんです。多分決まるのには時間がかかると思いますよ。次期族長の名前は長く討論されますから。」
「そんなものなのか…ところで、なんでそんなに動揺しているんですか?」
「わ、わたしは別にど、動揺なんてしてません!」
「ほんとにぃ~?」
「………」
…これはもしかすると、地雷を踏んだかもしれない。リーザの暗い顔など、初めてみた。
ちょっとした罪悪感。話を逸らさなければ。
「…ぷっ。いや、本当は名前なんてどうでもいいんですけどね。動揺してるリーザが新鮮で。」
「!?」
…って、もしかしてリーザ怒ってる?え、ちょっとそんな怖い笑顔で覗き込まないで!?こっちは逃げられないんだから!わ、わわ、わーーーーー!
あばばば(何
10.3.28に日本語を訂正。
ついさっき第十四話を更新したのですが、一話の日本語は滅茶苦茶でした…orz
これも進歩したということなのでしょうか。