第一章第十三話:解説
気が付いたら総合評価が2000Ptを超えてました。わーいわーい。
って、いくらなんでも急増しすぎじゃないですか?確か、十一話を投稿した時は1400強だったはずなのですが…
感想を書いて下さった皆様、評価を入れて頂いた皆様、お気に入りに登録して頂いた皆様、そして、ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました。こんなに評価されるとは思っておりませんでした。
…ちなみに、作者はとっても小心者ですので、この数字にびくびくしながら日々を過ごしてますw
長くなりましたが、第十三話、始まります。
PS.改行方式を変えてみました。こっちの方が読みやすいと思うのですが…
場所は移って脱衣所。
風呂から上がり、四人でベンチに腰掛けている。
「ふわぁ~。いいお湯だったね~。」
恍惚とした表情で呟きつつ、まだ濡れている長い髪を【温風】で乾かしているのはウィスティーだ。長風呂したせいか頬が紅潮している。
ちなみに、【温風】は心地良い温風を生み出すクラス0の魔法。ドライヤーとほぼ同等で、生活には欠かせない。
…魔法の無駄遣いをしている気がしないでもない。
「ああ…あんなに広いとは思わなかった…」
俺もウィスティーと同様、湯に漬かった余熱で頭がぼーっとしている。本当に気持ち良かった。
前までの屋敷にあった風呂もお馴染みの「バスタブ」だったが、今入ってきた風呂はまさに「巨大温泉」。中にはちゃんと石鹸も用意されていて、まるでどこかの旅館にでも来た気分だ。
やっぱり、どの世界でも風呂スタイルは変わらないものなのかね。
「このお風呂は特別だからね。魔石っていう特別な道具が使われてるらしくって、一日中ずっとお湯がはってあるの。夕方には一般に開放されてるよ。」
リーザが、ウィスティーの髪を整えつつ情報を補強してくれた。
「…本当に?」
「うん。凄い人気で、いっつもいっぱい。だから脱衣所がこんなに広いの。」
「各家には風呂はないのか?」
「あるにはある…けど、やっぱり大きいお風呂の方が気持ちいいんじゃないかな。」
…このエルフ領、日本よりもいい環境かもしれない。
文明水準が高そうなんて見下してごめんなさい。
「やはり風呂は一日の疲れをとる場所じゃからのぉ。大きければ大きいほどいいわい。」
「…さっきからわざと突っ込まなかったんだが、なんでお前もここにいるんだ。」
「建前はお主らの監視、本音は風呂じゃ。わしもお前に叩きのめされた身。汚れておるし、疲れをとりたくての。ゆっくりしながら話しもできるしのー。」
口調も中身もゆるゆるである。
「…数時間前に死闘してたのが嘘みたいだな。」
「うむ。あんなのはもうこりごりじゃ。次にお主が暴れたらわしゃ真っ先に逃げる。」
「あー…心配しなくても、俺も暴れたくない。疲れるし…」
風呂は偉大だ。垢と共に鬱憤も水に流してくれる。この世界に風呂があって本当に良かった。
「さて、ここからが本題なのじゃが。お主ら、外の世界をどこまで知っとるんだ?」
「外って?」
「エルフ領の外、まぁおおよそ人間の国々じゃな。」
「俺はリーザから聞いてる分だけ…リーザは?」
「うーん。私の知ってることは全部アスルに話したつもり。詳しい事はほとんど知らないよ。あんまり教えてもらう機会がなかったし、それに興味も薄かったから。」
「ふむ。ならば教えとかなくてはならんの。よいか、外はな…」
大陸ミュルファ。北と東は海に囲まれ、南は砂漠、南西は樹海、西は未だ開拓されていない荒れ地だ。大きな大河が二本走っており、その流域には肥沃な土地が広がっている。
小さな国も沢山あるが、特に大きな国は4つだけ。ミカルディア、クラクティブ、スターシス、そしてドルナー。全て人間が治めていて、政治体制は封建的な絶対王政。
…絶対王政とはまた王道な。これで身分や血統至上主義だったら陳腐と叫んでやろう。
「え?人間の国は5つと聞いていましたが。それと、獣人が治める国も一つあるのでは?」
「それはちと情報が古いな。ここ百年で色々あったんじゃよ。とある人間の国は分裂して無政府状態に、ただ一つの獣人の国は人間に攻め滅ぼされてしまっての。…あそこの長とはよい友人だったのじゃが。」
「ここ百年って…どんだけ気が長いんだよ。」
「まぁよいじゃろ。続けるぞぃ。」
獣人や亜人は人間の国でも暮らしており、市民レベルでは日常生活に溶け込んでいる。清人は得てして少数かつ貴重種で、樹海や荒れ地に小さな集落を作って暮らしている。
「…エルフ領のどこが小さな集落なのか聞いていいか?」
「元々は小さかったらしいぞい。気付いたらこうなっとったとか。」
エルフ族の領土は樹海を切り開いて作られたもので、人間の国から見れば南西方向に位置している。
昔に一度だけ攻められたことがあるらしいが、エルフ族の魔法が余りにも圧倒的であった為に呆気なく勝ってしまったという。それ以降、大半の国が相互不干渉条約を提案して来るようになり、今ではほぼ全ての国と締結している。
「記録では、その代の族長の魔法一つで相手の軍勢が崩壊したらしくてな。宣戦布告されたその日に終結したそうじゃ。」
「…うわぁ、族長ってそんなに強かったんだ。兄ぃ、よく勝てたね。」
「流石に、魔法一つというのは誇張でしょうけど…それにしてもすごい話ですね。」
「…リーザ、魔法一つってのもあながち否定できないぞ。こいつの魔法、とんでもない破壊力あったし。正直危なかった。」
例えば、族長が使っていた【暴雷】。
大量の雷が降ってきたら、もうどうしようもない気がする。
「…アスル、本当ですか?」
「うん。マジで。」
「ほっほっほ。まぁ、何でもいいじゃろ。…それからというもの、頼みもしないのに大量の貢ぎ物が送られて来るようになってな。おかげで財政は大黒字化。その時に税もほとんど撤廃しておる。」
…駄目だ。明らかに日本より住みやすそうだ。
それら一連の出来事から、エルフ族は完全に高みの見物者となってしまった。
様々な国が生まれては消えていく中、一度も戦火に晒されることなく発展し続けたここは、今や全国で最も技術が進んでいる国になっている。
「お前さん達も覚悟しておくことじゃな。ここで育ってから人間の国へ行くと、誰もがその落差の大きさに驚くからの。…ああ、あと通貨の話も大事じゃった。」
下から順に、賎貨、銅貨、銀貨、金貨、白晶貨、青晶貨。
賎貨から金貨まではおよそ30枚刻みで単位が上がっていく仕組みだ。相場は多少上下する。一つ例を挙げれば、戦争の直前などは各国が金貨を放出するためにその価値が急落することなど。
白晶貨・青晶貨は特別で流通していない。両方共に魔力を大量に含んだ珍しい鉱石でできており、その名の通り透き通った白又は青色をしている。手のひらにちょうど乗るくらいに大きい。これらは様々なことに使える為、それ自体に莫大な価値がある。一応通貨にはなっているが、実際のところは至高の宝石として扱われているそうな。
そのせいで、青晶石の適正価格は本来金貨100枚止まりなのだが…
「そもそも流通してないものを通貨っていうのか…?」
「まぁ、先人の知恵というものじゃよ。さて、アスルに問題じゃ。青晶貨の今の取引価格は幾らだと思うかの?」
「…様々な事って、一体何に使えるんだ?それに、物価を知らないから金貨自体の価値が分からない。」
「うーむ。…確か、人間は、一ヶ月に銀貨が3枚もあれば、余裕で生きていけるはずじゃ。一年で金貨一枚強かの。」
…ってことは、青晶貨一枚を適正価格で売った場合、およそ80年は生活できると。
「あと青晶貨だがな、砕いて飲むことで一時的に魔力を底上げすることができるのじゃ。単純に魔法の威力を上げることもできるが、どちらかというと治療や延命に使うの。老衰した者でも、飲めば1年は寿命が延びると言われておる。」
「…えっ!?」
リーザが、狐に抓まれたような顔をして声をあげる。
え、延命剤だとっ!?誰だっ、そんなもんを通貨にした奴はっ!
「アスルっ。も、もしかしたら、とんでもないものを要求したかもしれないよ?」
「兄ぃ、絶対一枚は取っておいて。将来、三人で飲もうね。」
「…ん。」
老衰期の一年なんて、金に換算できないだろ…
「金貨、300枚くらいか?」
「ぶぶーっ。ちょっと足らんかったの。最近では金貨500枚以上じゃ。」
「ぶーーーっ!」
漫画のように吹き出してしまった。
多めにと思って300枚って言ったのに!500枚って…400年分の生活費!?
なんというTime is money。
ああ…俺はさっき、恐ろしい規模の恐喝をしてたのか…
「最近は大きな戦もなかったのでな、各国の王族らがよく代替わりしておるのじゃ。そのせいで需要が多くての。」
「………」
「兄ぃ?」
「アスル?どうしたの?」
「いや、ちょっとした罪悪感が…」
「なんだ、まださっきの茶番を気に病んどるのか。別に構わんぞ。どうせ鋳造しとるのは我々じゃし。」
「…え?」
「…あ。言ってしもうた。すまん、今のはなしじゃ。」
衝撃の事実が発覚。リーザとウィスティーの目が鋭くなる。
「…お母さん、青晶貨って、何枚あっても困らないよね?」
「…そうだね。アスル、もう何枚かゆすってきて…」
「そ、そろそろ体も冷めたじゃろ!?ささ、部屋に案内するでのっ!」
案内された部屋は、普通の部屋。天蓋付きのベットが一つしかないことを除けば。
…三人一緒に寝るのか。いや、もう慣れてるけどさ。
「わっ、すっごいふかふか!兄ぃも早くきて!」
「こら!埃が舞うからやめさない!」
早速ウィスティーが部屋のベットで飛び跳ね、リーザに叱られている。
微笑ましく見ていると、
「アスルや、お主はどうせ起きとるつもりじゃろ。お前さんだけに話したいこともあるでな。二人が寝静まったら、ちょっくら廊下に出てきてはくれんか。」
「…わかった。」
二人に気付かれぬよう、族長が俺にそっと耳打ちしてきた。
…今更罠に嵌める気もないだろうし、それに俺も聞きたい事がある。拒否する理由は何もない。
「さ、寝ようか。」
「兄ぃは真ん中ね!私が兄ぃの左側で、お母さんが右側っ!」
「うん。三人で寝るのは久しぶりかも。アスルの寝顔も見れるし、何より温かいし。」
「俺は湯たんぽか…」
ウィスティーはともかく、リーザにくっつかれるとなんだか気恥ずかしい。見た目では、同い年ぐらいに見えるからだろうか。
「ええのう。まるで家族のようじゃのう。…それじゃぁの、また明日じゃ。」
◆
左右から静かな寝息が聞こえてくる。二人は熟睡しているようだ。
…頑張った。寝ないように頑張った。
現在、左腕はウィスティー、右腕はリーザにがっちりとキープされているのだが、これが本当に温かい。気を抜けばすぐにでも寝てしまいそうだ。長風呂なんてするんじゃなかった。
ゆっくりと腕を抜き、音を立てないようにしてベットから降りる。二人を起こさないよう細心の注意を払い、抜き足で扉を開けて部屋の外に出る。
「遅かったの。寝たのかと思ったぞい。」
「寝るわけがない。二人に拘束されてて、抜け出すのに手間取っただけだ。」
「…幸せな理由じゃの。よう信頼されとるわ。」
「ほっとけ。で、何の用だ?」
「ふむ。お主もわしに聞きたいことがあるじゃろ。先にそちらを聞こうかの。」
「…なんでだ?」
「気分じゃ、気分。」
…もう、突っ込む気力すら起きない。
「じゃあ聞くが、エルフ族はなぜこんな非効率的な継承方法を採ってたんだ?」
「継承方法?…ああ、族長筋の継承のことかの。うーむ。いきなり重い質問がきたのー。」
壁によりかかり、うーんと唸る族長。そして、ゆっくりと話し始めた。
「話せば長くなる話しじゃ。はしょって話すぞい。あれは確か、第16代の頃の事かの…」
今となっては確認できないが、建国当初、ここは到底国とは呼べない小さな村で、外敵も多かったという。そのために当時は実力主義であり、最初の族長、つまり第1代族長には、異常な魔力の大きさを持ち最強を冠されていた一般のエルフが選出された。
この時の族長はまだ大きなの権力を有していて、人間の王とほぼ同意義だった。
「…そこまで遡らなきゃならない話なのか?それに、まだって今は違うのか?」
「聞いとれば分かる。静かにしとれ。」
魔力はある程度遺伝する為、第1代族長の息子らも魔力の才に恵まれた。族長の席が世襲制になっていったのも至極自然なことだろう。
寿命が長いこと、始まりが小数民族であった事、またエルフ族自体の堅気な気質もあって、族長家は腐敗することなく栄華を誇り続けた。第16代までは。
「さっき、『昔に一度だけ攻められた事がある』といったじゃろ。あれが第16代の時じゃったんじゃ。」
元々エルフ族は、魔法的に最強の種族である。
人口も増え、街も発展し、技術も着実に向上していたエルフ族を、隣の国が危険視し始めたのだ。
結果はもちろん、圧勝。万にも及ぶ大軍勢は、第16代族長によって一撃で壊滅させられた。
「…やっぱり本当だったか。文字通り一騎当千、いや当万か?」
「うむ。記録では、辺り一面が荒れ地になったらしい。…問題は、一部のエルフが味をしめたことと、族長の血筋の異常さが浮き彫りになったことじゃ。」
樹海を切り開けば新しい土地は幾らでも作れ、また魔法を用いれば農耕を始めとする仕事も相当楽にこなすことができる。土地や物資の為に、わざわざ他の国にちょっかいを出す必要はない―――大半のエルフは、そう考えていた。
だがこの事を通じて、一部の族長家の考えが大きく変わってしまう。
則ち、他国への侵略及び制圧。
ある程度まで発展してしまい、平穏な、悪く言えば退屈な日々が続いていたエルフ族にとって、蹂躙と言う名の一方的な戦争は一種の娯楽に見えたのだ。
時を同じくし、一部の上層部では、族長家のあまりにも強すぎる魔法に対して懸念の声があがり始める。その力が何時自分らに向けられるか分からない、出来ることなら廃除すべきだ、と。
「めんどいのではしょるが、要は族長家が戦争派と非戦争派に内部分裂し、それを周りのエルフが大いに助長させたのじゃ。その結果、族長家の内部で武力を伴った御家騒動が勃発。想像も付かない程の被害を出したらしいぞい。話では、この都はその時に一度壊滅したそうな。」
「はしょりすぎだろ…御家騒動っていう範疇に入るのか?」
一騎当万のエルフ同士が戦うのだ。想像するだけでも恐ろしい。
「柔らかく言っただけじゃ。結局、本家と14あった分家のうち、本家も含めた12家が断絶。残ったのは、病に伏せる老人と幼い子供だけじゃったそうだ。」
「12家!?いくらなんでも断絶し過ぎだろ!?それ、ほとんど壊滅してるじゃん!…しかも、最後は相打ちじゃねぇか。」
病人と子供が戦って勝ち残れる訳がない。最後は相打ちで2家が滅びたのだろう。
…周りのエルフ、一体どんな風に煽ったんだ?
「基本的に反族長派は過激派でもあったらしいからの~。結構汚い手も使ったらしいぞい。誘拐とかの。」
「はっ!?」
「ま、族長家の存在を危惧しとった過激派の計画が上手くいき過ぎたってとこじゃな。その時に実質的権力は全て剥奪され、昨日まで使われとった族長の継承方法が発案、採択されたのじゃ。」
…なるほど。男子が長男しか許されていないのは、族長家の血筋を増やさない為か。
「いや、まて。ならなんで10人も子供を作る?そもそも1人しか作らなければいい話だろう。それに、女子も長女以外はまともな扱いを受けなかったと聞いているが。」
一瞬、時間が止まった。
今までぼんやりと中空を眺めていた族長が、急にこちらを向いて俺を凝視したのだ。
「な、何!?」
「…男子に関してじゃが、魔力の少ない子供を選別する為じゃよ。何世代もかけて、族長の力を薄めようとしたんじゃな。流石に血統を絶やさせる気はなかったらしいのー。」
「…暗殺される危険性があるから別々に育ててるってのは、単に表向きの話ってか。軟禁して育てて、魔法が不得手な奴だけ残すと。」
回りくどいやり方だ。気が長すぎる。
…いや待て。もしかして、一般市民には知られていないのだろうか。それなら、この無意味な隠蔽にも納得が行く。
「それと女子に関してじゃが、全くそんな話はないぞい。お主、リーザからどのように聞いとったんじゃ?」
「…はい?」
「だから、女子は全員まともな扱いを受け取るはずじゃと。教育を施され、他国の貴族等に売られとる。確かにそれ相応の金は貰っとるが、実際は嫁に出しとるようなもんだしの。相手の好き嫌いはあるやもしれぬが、生活に困る事は絶対ないと思うがのう。」
「…容姿が悪ければ殺されるとまで言ってたが。」
「そんな話は聞いたこともないわい。魔力の遺伝はほぼ男子のみでな、女子の処分者など一人もおらんと思うが。」
「………」
リーザの情報がかなり、いや、ほとんど間違っている件について。嘘の情報でも吹き込まれていたのだろうか。
「…ちょっと待て。お前戦う前に、俺が負けたら二人はお終いとかって言ってたよな。まともな扱いを受けてるんなら、それはないんじゃないか?」
「ほ?あれか?あれはまた別の話じゃぞ?言ったじゃろう、リーザは種を裏切ったと。彼女の行為は立派な反逆罪じゃ。」
…確かに、間違ってはいない。
「お前さんがおらんかったら普通に極刑じゃろ。何せ、族長たるわしの命を間接的にでも脅かしとったからな。」
「じゃぁもし俺が負けてたら、実娘の命を奪うつもりだったのか?…それ、父親としてどうなんだ?」
「はっ。そんなわけなかろう。その時は、お前さんにリーザとウィスティーの分まで責任を転嫁させてから死んで貰うだけじゃよ。ほれ、丸く収まるじゃろ。」
「…怖っ!」
危なかった。また成人する前に死んでしまうとこだった。
…あれ?
それなら、ウィスティーはどうなっている?教育もされてないし、そもそも売り飛ばされるか殺される予定だったからこそ、リーザが俺と共に育てる事になったという話だったはずだ。
「なぁ、ならウィスティーはなんで俺と一緒に育てられてんだ?リーザの説明では、10人目の娘で存在に価値がないからって聞いてたが。」
「えーと、なんでじゃったかのー。確か…」
族長が頭を抱え、唸る。
と、数秒もたたないうちに頭をあげた。
「思いだしたか?」
「…ははぁん。リーザめ、さては謀りよったな。」
「…答えになってないぞ。それに、謀るってどういうことだ?」
「秘密じゃ。ま、時間がある時にでも本人に聞くことじゃな。あやつ、お前さんに相当入れこんどるようじゃぞ。まったく、羨ましいのぉ。」
壁によりかかった状態の族長が、よっこいせっという掛け声と共に体勢を元に戻す。
「リーザは何を…」
「聞くな。わしの口からは言えん。無粋が過ぎるというものじゃ。…それより、ちょいと立ち話が辛うなってきたの。続きは、わしの部屋でしようぞ。」
◆
「外の世界にでたら、魔法はできるだけ自重せい。」
案内されてきたのは、リーザとウィスティーが寝ている隣の部屋。立派な机と椅子、本棚があって、これまた典型的な書斎だ。
椅子はふかふかのソファーで、両者の手元には上品なコップに入った紅茶が。まだ温かく、ほんのりと湯気があがっている。
「お前さんは幾つもの魔法を同時に使っておったが、普通のエルフにはそんなことできんぞ。せいぜい、【飛行】と【結界】程度。【結界】の多重展開などに至っては今まで考えた奴もおらんじゃろ。…お主の魔法は、余りにも目立ちすぎるはずじゃ。」
「…ふーん。やっぱり、俺の魔法は異常か。」
一般的な基準ってのが分からない。リーザぐらいが普通なのだろうか。
「異常も何も、もはや化け物。そもそも、無詠唱での魔法自体からおかしいのじゃ。普通ならば、長ったらしい呪文を唱え、集中してイメージを作り、それでやっと小さな魔法が発動するのだぞ?」
自然と、初めて無詠唱を使えた時のことを思い返す。
…その時の事よりも、その時リーザに穢された事の方が印象が強いとはこれ如何に。
「へー…って、お前に言われたくない。よっぽどお前の方が化け物だろ。」
「…これでもわしはもう250じゃぞ。10でわしに勝つお主の方が化け物に決まっとるじゃろ。」
「でも威力は…250歳!?」
「…ふぅ。その反応は妙に傷付くの。続けるぞい。」
互いに紅茶を一口。うわっ、苦っ。
砂糖の瓶に手を伸ばす。
「人間に至っては、【飛行】を使える者すらほとんどおらん。そうじゃのー、人間の魔法もクラス0から5までの6段階評価としたらの…」
おおっ!角砂糖じゃないか!いやー、懐かしい。見るのは十数年ぶりだ。
「こちらのクラス0は人間でいうクラス1に、クラス1はクラス2に、クラス2はクラス4じゃ。」
「…!?」
馴染み深い角砂糖を感動しつつ眺めていたら、話の中身に衝撃を受けて砂糖を床に落としてしまった。勿体ない。
「クラス2がクラス4って、人間はエルフのクラス2の魔法にすら苦労するってことか!?」
「その通りじゃー。」
俺が知ってる攻撃魔法は、そのほとんどがクラス3。確か【結界】もクラス3だったはず。ってことは、人間はそれらの魔法はほぼ使えないのか。
…そりゃあ、そんな状態でエルフに挑めるわけがないです。貢ぎたくなる気持ちも分かります。
ウィスティーに幾つか攻撃魔法を覚えさせておけば、人間相手なら無双できそうだ。種族の壁は想像以上に厚いらしい。
「そこまで弱いとは思わなかった…」
「しかも、そこそこの魔力をもっとるのはほんの一握り。一般人は我等でいうクラス0が限界じゃ。…お前さんなら、一人で国を落とせる。わしが保証しよう。」
…よく『剣と魔法のファンタジーにようこそ!』というキャッチコピーがあるが、この世界では魔法はあってないようなものなのかもしれない。少しショック。
エルフに生まれて本当に良かった。神に感謝しなくては。
「それにしても、随分と詳しいな。」
「わしにも人間の国で遊び回っていた頃があったからの。お飾りは基本暇なのじゃ。」
「…って!族長が遊びに行ってもいいのかよ!」
「一泊二日じゃよ。もちろん、皆は知らん。」
「働けジジイ。」
話す事もなくなったので、ずずっと紅茶をすする。
甘い。砂糖、入れ過ぎたか…?
「ふむ。この話もおしまいじゃな。なら次は、お主らが領外追放になった理由について話そうかの。」
「いきなり重要度が下がったな。…わざわざ俺一人を呼び出してまで言うことか?ウィスティーですら想像が付きそうだが。」
普通に考えれば、俺という危険因子を体内に抱えていたくないという理由は容易に想像できる。
一応俺も血筋は族長家のはずだし、魔法を盾に政治に口をはさまないとも限らない。はっきり言って邪魔だ。
「お前さんらが考えとるのとは別じゃよ。」
「…他に何かあるのか?」
「おそらく、お主を戦争の火種にする気じゃ。ああ、勿論人間どうしのじゃぞ。」
「……」
戦争の火種…なぜ追放が火種になるんだ?そもそも、火種をつくる意味があるのか?
「分かっておらんようだな。そうだの、例えるなら…お主が緊迫した外交関係を持つ人間の国の王だったと仮定して、そこに最強の魔力を持つエルフが国を追放されたという情報がもたらされたとする。さて、どう動く?」
「そりゃ、味方に引き入れるだろ。」
「その通り。だが、そのエルフは手元に一生遊んで暮らせる金があるのじゃ。普通は応じないじゃろ。で、もし応じなかったら、お前さんはどうする?」
「………」
あー、なんとなく読めてきた。というか、もしかして外は戦国時代ですか?
「敵に回したら最悪の相手じゃ。強行策は打ちづらいが、かといって手を拱いている訳にはいかぬ。相手国の手に入れさせてはならんからの。一番いいのは廃除してしまうことじゃが、力量的にそれもかなわない。…ならば、相手に圧力をかけて牽制。ないし、少し大変じゃが、お主に接近しようとした奴を消す、という方法もなくはないわな。」
「…必然的に、国家間の軋轢が大きくなるわけか。」
「うむ。元々危ういバランスで保たれている国どうしもあるでの、火種としては十分じゃろ。」
「どうしてそんな火種を作ろうとするんだ?」
「ちょいとひどい話なのだがの。端的に言えば、エルフ族が作った武器がよく売れるからじゃ。」
「…ひどっ!?」
なんつー巨大な死の商人だ。ウィスティーに聞かせたくない気持ちも分かる。
「魔石という鉱石があっての。それの表面に特定の文様を刻んで魔力を込めると、誰でも使える魔法の石ができるのじゃ。それを大量に人間に卸しとる。ひとたび戦争が起きれば大きな需要が生まれるからの。元はただの鉱石じゃし、莫大な利潤がでるぞい。」
「…で、俺にそれを聞かせてどうしろと?」
確かに貴重な情報ではある。だが、俺にどうしろというのか。
「ただ知っておいて欲しかっただけじゃ。ほっといても一向に構わんぞ。お前さんらには直接的な被害は及ばんはずだしな。」
「丸投げかよ。どうしろってんだ。」
「ま、時間はたっぷりあるじゃろうし、今決める必要もなかろうて。心に留めておくことじゃな。」
…普通に考えれば、そんなものは放置するの一択だ。自分から厄介事に首を突っ込むほど馬鹿ではない。
数瞬の沈黙。
なんとなく紅茶をすする。二杯目に突入した。
「…リーザとウィスティーの事は、頼んだぞい。公式には領外追放じゃから、外で何に巻き込まれても、わしは手出しできん。」
「巻き込まれるって…俺が二人をそんな危険な目に遭わせるわけないだろ。ってか、公式にって言うのはどういう意味だ?」
「んむ…ふー。」
紅茶を一口飲んだ族長が、ゆっくりとため息をはいた。
「エルフ族というのは、いつの間にか条約でがらんじめになっとってな。色々あって、今他の国に公式に手を出すのはちとまずいんじゃ。故に、領外追放されたお前さんらを救援することも出来ん。…わしはこれでも族長じゃからの、私情で出来る事には限りがある。ここから出たら、お主が護ってやってくれ。」
「…お飾りは暇なんだろ?ここを抜け出せるんじゃなかったのか?」
「わしがここから出ることは、条約の多くに抵触するのじゃ。愛娘の為にとはいえ、種族に不利益を与えかねんことはできぬ。…お前さん、護れる自信がないのか?」
「むっ…それは絶対にない。」
にしても、さっきの茶番もそうだったが、このジジイ、なんだかんだ言ってもちゃんと自分の娘の事を考えてやがる。
いい親父さんじゃないですか。
「というか、二人を俺に縛り付ける気はさらさらないぞ。ここの方が人間界よりも安全なら置いていってもいいが。」
「今更言っても遅いわい。二人を送り出すのはお主がここに戻ってこんようにする為でもあるし、それに、離ればなれは互いに淋しいじゃろうというわしの老婆心でもあるんだがの。」
「…否定できないが、背に腹は変えられない。今からでも、上層部のエルフに掛け合えば可能だろう。時々様子を見に来る事にすれば…」
「無理じゃな。絶対に彼女ら自身が納得せん。二人ともお前さんにべったりじゃし、付いていく気は満々だと思うぞ。なんなら、お前さんが直接言ってみたらどうじゃ?」
「………」
想像してみたが…それはとても気が引ける。その上怖い。
ウィスティーに泣かれたらもうお手上げだし、リーザにはその場で攻撃魔法を叩き込まれるような気がする。
「分かったじゃろ。彼女らに悲しい思いをさせたくなかったら、その旨の発言は慎むべきじゃ。ま、お前さんを押さえられる奴などそうそうおらんし、心配することもなかろうて。正当防衛で国を滅ぼすのも自由じゃぞ。」
「…分かったよ。守り通すから安心してくれ。」
「うむ。それでよい。」
会話が途切れる。二杯目の紅茶も空になってしまった。
「ふぅー。…お前さんがリーザを嫁にしてくれれば、わしとしては万々歳なのじゃがのう。」
我疑耳。
「…はいっ!?」
①設定があっぱっぱー
②話進んでねぇゾゴルァ!!
…色々とごめんなさい。スキルが不足しているようです。
もっと精進しなくては。