第一章第十話:対決
日曜に数分間に合わなかった~~~!(泣
右手を大きく掲げ、
「いくぞい。覚悟せい。」
族長の右手が振り下ろされた瞬間、無数の氷の槍が襲ってきた。
すぐに【飛行】で空に舞い上がる。
一瞬前まで俺が存在していた場所を、槍がめった刺しにした。…槍の速度が速い!
「っ!?」
避けきれなかった一本の槍が、目の前で【結界】にぶつかって砕けた。
…一本程度なら、別段問題はないと分かってはいる。が、非常に心臓に良くない。貫通されたら即死だろう。
もちろん安心はできない。氷の槍一本の威力はたかが知れてるとはいえ、数で圧されたら【結界】を貫通しないとも限らない。ただでさえ物理的な防御には不安が残っているのだ。できる限り避け続けるしかない。
止まっている時間はない。槍を避けるようにジグザグで高速飛行しつつ、【炎剣】の詠唱を続ける。速く発動してくれっ!
「やはりこの程度じゃ話にもならんか!次いくぞい!―――――【轟炎】!」
聞いたこともない魔法が発動され、巨大な炎のレーザーが向かってきた。もちろん氷の槍はその間もふり注いでおり、【炎剣】の発動を優先したところ…完全に避けきれなかった。
「―――――【炎剣】!…ぐあぁっ!!!」
直撃は避けたものの、炎に【結界】の表面をかすられ、その衝撃で吹き飛ばされる。展開されている【結界】も、今の攻撃で5層のうち2層が破られた。修復しようと思ったが【炎剣】に魔力がとられ【結界】に回す余力がない。
吹き飛ばされた俺に槍が殺到。弱った【結界】ごと俺を貫こうとして、
「はぁぁぁぁっ!」
唐突に俺の手に出現した炎の剣。その正面からの一振りによって、迫っていた槍の8割方が『蒸発』させられた。
【炎剣】。その効果は、刀身が炎でできた剣を生み出すこと。
はっきり言って見た目は地味である。一見、ワンランク下のクラス3である【雷柱】や【斬風】の方が、派手で凄い魔法に見えるぐらいだ。
だが、流石はクラス4。クラス3の魔法より弱い訳がない。
…端的に言おう。この【炎剣】、『魔力を注ぎ込んだ分だけ、火力が際限なく上がる』のだ。
当然のように聞こえるかもしれない。だが、【雷柱】や【斬風】は、その魔法自体の上限が見えてしまうのだ。魔力をどれだけつぎ込んでも、ある点を超えると急に威力が成長しなくなる。おそらく、クラス3の理論的な限界なのだろう。
だがこの【炎剣】は違う。自分の思う通りに魔力を消費し、それを炎という形で還元する。
先程、一度だけ、全身全霊をかけて魔力を込めてみた。その結果が、この眼下に広がる『焼け野原』だ。
【飛行】で、族長に向かって急加速する。
わずかに生き残った槍は無視。【結界】に衝突し砕けていくが、気にしない。
…やはり族長は強い。魔法の一つ一つが信じがたい威力だ。こっちは魔力では勝っているかもしれないが、いかんせん技のレパートリーが少なすぎる。
このまま一方的に攻撃されていれば、確実に俺の魔力が先に尽きる。手をこまねいていてもジリ貧になるだけだ。
ならば、さっさとぶっ飛ばすのが吉。
「…まさか【炎剣】か!?なんという馬鹿魔力っ…じゃが、これで終いじゃ!――――――【暴雷】!」
また新しい魔法が飛んでくるらしい。しかも、嫌な予感がする。
【炎剣】に喰われ続ける魔力からどうにか一部を確保し、【結界】を修復。今度は八重だ。
その時、まるで激しい運動をした後のような疲労感が押し寄せてきた。
…こんな感覚は初めてだが…まさか、魔力の使いすぎかっ!?
「くそっ!」
長くは持たなそうだ。この【暴雷】とやらをやり過ごして、一刻も早く族長に近づかねばならない。
…それにしてもなかなか攻撃が来ない。もしや不発か?と、思った次の瞬間。
『本物の』雷が、『大量に』落ちてきた。
【雷柱】で生み出された雷とはわけが違う。前世にもあった、大自然のみが生み出せる『本物の』雷だ。洒落にならない規模だ。
族長まであと10秒ほど。なんとか避けようとするが…一撃、直撃した。
「!?…くっ!!!」
相当な魔力を注ぎ込んでいる【結界】が一気に4枚破られた。おそるべき破壊力だ。のこり4枚。あと一回しか被弾できない。
危険だと思い、一旦退こうとして…その考えを破棄。魔力の限界が迫っている。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
雷は天から地面まで、10の5乗メートル毎秒で落ちてくるのだ。考えたところで避けられるものではない。
ならば、選択肢は一つだ。ただ覚悟を固め、【炎剣】を構え、加速し、直線コースを突き進むことのみ。
「なっ!お主死ぬ気か!?」
まさか突っ込んでくるとは思っていなかったらしく、動揺からか一瞬【暴雷】による雷の密度が薄くなった。
今だっ!
「っ!そうはさせん!」
族長の防御魔法に突っ込む寸前、また何かの魔法を無詠唱で使ったらしい。が、無視する。
パキンという、何かが【結界】と触れた音がし、更に3枚の防御壁が消失。残り2枚。もう雷には当たれない。
だが、もう関係ない!
あと2秒、1秒…ゼロ!!!
「はっ!」
短い掛け声と共に、莫大な魔力を帯びた【炎剣】を、族長の展開している防御壁へ、突っ込んだ速度をのせて突き立てる。
始めは抵抗感があったが、まるで冷えたバターにナイフを刺したように、ゆっくり、ゆっくりと刃が入っていき、そして…
「くぅ!」
―――――砕けた。
「これでっ、終わりだっ!」
防御壁を砕いた【炎剣】の勢いを殺すことなく、族長に叩き込んだ。
◆
「あ~。しんどいわい。」
「…なんでもろに食らって墜落したのに無傷なんだよ。」
もはや見渡す限りの荒れ地と化した草原に、族長が大の字で寝ていた。
俺はその隣りで見下ろしている。
…正直、疲れた。ここで横になってしまいたいぐらいだ。
「いやの。体を纏う防御魔法があっての。そちがわしの防御壁に刃をいれた時にそれを発動しての。そのおかげじゃ。」
「…正面からあの【炎剣】の直撃を受けた上、あの高さから墜落して、それで骨折どころかかすり傷一つないんだぞ?どんだけ高性能な防御魔法だ。」
「正直な話、最後の切り札での。使うとは思っとらんだ。ほれ、見てみい。」
右手をわずかに持ち上げ、【光球】を詠唱する。
…弱々しく光る、ビー玉ぐらいのちっこい球がでてきた。
「ちっさ!」
「魔力にものをいわせて詠唱無しで発動したでの。本当にすっからかんになってもうた。クラス0でさえこの有様じゃ。」
「…なんか隠し玉でもあるんじゃないのか?」
「ないない。見たとおり、わしはまな板の上の鯉。」
新鮮ではないがのーと呟く族長をしりめに、やっとこさ頭が冷えてきた。
…俺、なんでこんなに和気藹藹と話してるんだろ。
しかも、イメージとはずいぶん違うようだ。もっとこう、分かりやすい『悪役』的なキャラを予想していたのだが。今、目の前で横たわっているのは、少しお茶目なジジイにしか見えない。
「わしは煮ても焼いても不味いぞー」
「いや、もうそれはいいから!」
幻滅。
「…で、これからどうすればいいんだ?結局俺が勝ったんだから、二人は解放してもらえるんだよな?」
「うーむ。仕方なかろうて。今二人は中央におるから、そこに向かえばよかろう。あっちの方角に飛んでいけば分かるぞい。」
「アバウトすぎだ…お前は?」
「魔力がすっからかんだと言ったじゃろ。ここでひと眠りしていくわい。」
族長が指した方角へ飛ぼうとして…はたと止まる。
初めて行く所だ。道案内がてらにも、また『勝った』という証拠の為にも、この不味そうな鯉は連れて行った方がいいだろう。
「やっぱり、連れてくよ。その方が楽そうだし。」
「別に構わんが…まだ魔力が残っとるんじゃな。」
「こっちももうヘトヘトだっつーの。いいから、さっさと起きろ。」
自分に【飛行】をかけて浮き上り、むっくらと起きた族長にも【飛行】をかける。
「む。これは【飛行】か?【飛翔】は使わんのか?」
「そんな魔法、初耳だが。こっちはまだそれほど魔法を知らないんだよ。それより、行くぞ?」
「……………」
…何かじっと見つめられてるんですけど!?
「な、何?」
「…さっきまでのお前さんの動きは到底【飛行】でできる芸当ではないぞ?当然【飛翔】かそれ以上だと思っておったが。」
「……………」
話の流れ的に、【飛翔】とは【飛行】の上位互換魔法か。
もしかして、【飛行】の相当無茶な使い方をしていたのだろうか。これが普通だと思ってた。
「…ふぅ。端から勝てる死闘ではなかったということかの。何か損した気分じゃ。さっさといくぞい。」
「…いやいや、一人で拗ねられても困るんですが。」
これが5分前まで死闘していた相手との会話なのだろうか…?
◆
「そこじゃ、そこ。」
「おおっ…!」
しばらく空を飛んでいると、ひときは明るい町が見えてきた。なんというか、町全体が薄い緑色に発光してるみたいで、非常に幻想的だ。
流石エルフ族の都。
「あんまり目立たんようにな。といっても、もう殆どエルフはおらんじゃろうが。」
「そういや、今は深夜か。」
リーザ、ウィスティーと屋敷を脱出してきたのが遥か昔の様な感じだ。
…なんか緊張感が抜けてるな。まずいまずい。
「うむ。…こっちじゃ。」
建物の上を滑空していく。…目的地は、明らかにあそこの城だろうな。
目の前に西洋風の城が見えるが、心なしか小さめの気がする。
そして、城に接近したところで、
「おい、門はあそこだぞ?どこ行くんだ?」
「正門から入ったら確実に大騒ぎじゃ。二人の元まで連れてってやるといったじゃろ。それに、めんどい。」
「………」
絶対、本音は後者だな。
「この窓じゃよ。【解錠】っと。入るぞい。」
城に数本ある塔の一本、その中腹の窓で止まった。中からは暖かそうな光が漏れているが、カーテンで中が見えない。
族長が何やら魔法を唱えると、窓が勝手に開いた。そのまま入って行くので、慎重に後に続く。
「そう構えなさんな。もう手は出さんよ。ほれ、二人とも気持ち良さそうに寝とるわ。」
「…!」
部屋は本当に普通の部屋だった。俺が10年間監禁されていた部屋を普通サイズにしたような感じ。
リーザとウィスティーは…天蓋付きのベットで寝ていた。
どうやら、最大の懸念は杞憂だったようだ。
「今話をつけてくるでの。ここでちょっと待っとれ。」
「…ちょいまち。ここでお前の側を離れたら、他のエルフに襲われるかもしれないだろ。俺も一緒に連れてけ。」
「ええい、まだ疑っとるのか。仕方ないのう…」
やれやれと呟きながら、部屋の隅にあった冷蔵庫らしき物体を漁り…何やら青いガラスの瓶を取り出した。
「これは魔力の回復薬じゃ…って、どうせ信じんか。」
そういうやいなや、グビっと一口飲んだ。
「ほれ、これで毒ではないと分かったじゃろ。これだけ飲めば相当の魔力が回復する。わしが手を出さんことを保障するが、もし何かあっても二人を抱えて逃げられるじゃろ。」
「…分かった。」
瓶を受け取り、中身を飲み干す。
…確かに、急速に魔力が沸いてきた気がする。凄い効力だ。
「二人は…まぁ、起こしても構わんか。いいか、絶対、絶対に待っとるんじゃぞ。」
と、念を押しまくりながら、部屋を出ていった。
「…さて。」
魔力も回復したことだし、族長の態度を見ても罠があるとは思えない。ただ待っていればいいだろう。
ベットに近寄り、リーザとウィスティーの寝顔を見つめる。…うん。可愛い。頭をそっと撫でる。
「…ただいま。勝ったよ。」
ファンタジーな都、とくに人間以外の街は、なぜか淡い緑色というイメージがあります。…原因はオズの魔法使いかな?
初めてこの本を読んだ時の衝撃は今でも忘れませんね。特に無理のある終わり方に(爆
追伸:
一晩たって、反省しました。
ここにあったダークなIFストーリーは余りに痛かったので、削除しました。お目汚し、すいませんでした。
私は基本的に「BAD END」「DEATH END」「鬱エンド」「新宿ED」には抵抗がないので、絶対にハッピーエンドにしようと思います。
って、もうしつこいぐらいいってますよね。
※新宿ED…ウィキペディア「ドラッグオンドラグーン」Eエンディングを参照。
なお、雷の速度についての指摘がありましたので、修正させて頂きました。主人公が言っているのは「ステップトリーダー」の速度です。
参考文献を引用しますので、興味のある方はご覧ください。
(以下、引用文)
ステップトリーダーの進展と第1雷撃
電気を通さないはずの空気を変質させながら、雷雲からステップトリーダー(階段型前駆)と呼ばれる、弱い光を発する放電路が伸びてゆく。20~50mほど進んでは止まり、また進みを繰り返し、枝分かれしながらジグザグに進んでゆく。
全体的な進行速度は秒速200km程度で、雲から地面まで、だいたい20ms程度(1msは1000分の1秒)で達する。その後に流れる落雷電流の速度(光速の1/3程度=秒速100,000km程度)に比べれば遥かに遅いものの、人間の目でステップトリーダーを見ることは、かなり難しそうだ。
このステップトリーダーが地表近くまで進展してくると、それに対応して地面に集まってきた電荷からも放電路が伸びてゆく。そして両者が接触することによって、大量の電気が一気に流れるリターンストローク(帰還雷撃)が起こり、強い電光と大きな音を発する。これが落雷だ。
土中や岩盤をくりぬき、トンネルを掘り進める工事には時間がかかる。空気の絶縁を破りながら進むステップトリーダーの進行に時間がかかるのは、それと同じイメージだ。 しかし一度トンネルが貫通すれば、そこを通る電車は一瞬で走り抜ける。ステップトリーダーが掘ったトンネルを通って、落雷の大電流が1ms以下の短時間で一気に流れる。
第2雷撃
第1雷撃の後、数十ms程度の休止期間をおいて、雷雲から再び放電路が伸びてゆく。一度雷の通った場所は電気が流れやすい状態が残っているので、枝分かれやストップ&ゴーをすることなく、階段型前駆の10倍以上の速度で下降する。このダートリーダー(矢型前駆)が地表近くに達すると、同じように地面からの帰還雷撃と合流して落雷、2回目の落雷が起こる。
第3雷撃以降
さらに集十ms程度の休止期間をおいて、同じようにダートリーダーが進展し、3回目の落雷となる。(落雷の電流が流れている時間は、いずれも1ms以下)
上はひとつの例だが、このように1秒足らずの間に何回か落雷があるのは、珍しいことではない。
(引用終了。引用元:Webサイト「都会の空」様、URL:http://www.pluto.dti.ne.jp/~suzuki-y/tokai/tokai.html)