第一章第九話:対面
更新に一週間かかってしまいました。すいません。
ちょっと岐阜に行く用事があったもので…やっぱり、携帯って全然文字数打てませんね。パソコンで書く方が楽でいいです。
え?戦闘シーン?なにそれ美味し(ry
いい曲見つけました。いかにもファンタジーって感じです。聞きたい方はどうぞ。(PC専用、動画サイトzoome、アカウント不要)↓
①http://zoome.jp/lemd01/diary/29/
②http://zoome.jp/lemd01/diary/17/
それでは、第九話、始まります。
―――――【雷柱】
目の前で展開されている半球状の揺らぎに向かって、【雷柱】を発動。
細いレーザービームのようなものが発射され…揺らぎにぶつかって弾かれた。
「うっしゃ!できた!」
今、雷のビームを弾きとばしたのは、多重に張られた【結界】。魔力を相当量注ぎ込んで堅くし、さらに枚数を増やすことで貫通を防いでいる。
草原の上で大の字に寝転がって大きく深呼吸。脳に酸素を供給し、思考を巡らす。
「ふ~…流石に、疲れた。」
魔法を使えば魔力は消費され、それは術者の肉体に疲労感となって現れる。俺は魔力に底がみえない為、本当なら疲れないはず…なのだが、防御系の魔法は維持しなければならないので、流石にこたえたのだ。
「………。」
この世界、人間の科学技術がどこまで進歩しているかは知らないが…おそらく、魔法というのは相当『卑怯』な道具だ。いや、兵器と言った方が正しいか。
…さっきから試していたクラス3の魔法を思い返す。
◆
まず一つ目。クラス3の【雷柱】。目標地点に小さな雷を落とすだけ…のはずの魔法。
本気で撃ってみたところ、もはや『雷』ではなく『光線』だった。
メジャーなところで言い換えれば、かめ○め波といったところだろうか。
目の前から射出された直径50センチ程度の光線は、直線コースを進んで遠くの森に着弾。
飛んで確認しに行ったところ、射線上にあった木々が50メートルほど焼き払われていた。…雷じゃなくね?
おまけとして、発動時に莫大な音と光が発生した。予想外だったのでもろに食らい、しばらく耳と目が死んでいた。本当に鼓膜が破れたかと思った。…この副次的効果は使えるかもしれない。
二つ目。クラス3の【水崩】。
端的に言って、口径100センチの水鉄砲。水をぶつけ、その衝撃を攻撃とする魔法のはずだ。…水、どっから湧いて出てきたんだろう?
質量保存の法則らをてんで無視し、手元から猛烈な勢いで水が噴射。あたり一面が水浸しになった。うわっ、地面汚な!
この魔法、あんまり強くないのでは…と一瞬思ったが、炎系魔法との相殺用と考えれば納得がいった。雷系との相性も良さそうだ。
…これを使った後に【雷柱】を使ったらどうなるんだろうか。飛べない生物は一網打尽にできそうな気がする。
三つめ。クラス3の【斬風】。要はカマイタチの魔法だ。
こんな草原には切れ味を試せるような固い物は何もなかったので、仕方なく森まで戻って木を試し斬りした。
結果、抵抗感ゼロ。10本程度の木をなんなく貫通。まるで、そこに何もないかのようにスパッと斬れた。
…エルフでもあっという間に切れそうだ。強っ!
とまあ、三つとも明らかに威力がおかしかったのだ。
この他にもクラス3の【土豪】やクラス4の【炎剣】があり、現在俺が使えるクラス3以上の正式な攻撃魔法はこの5種類のみ。
魔力の塊をぶつけるという荒技もあるが、効率が最悪な上、攻撃魔法としては威力に疑問があるため除外した。
◆
これらの魔法をぶっ放している時は、その壮絶な威力に驚愕―――あるいは興奮とも言う―――していただけだった。
思考が冷めたのは、防御魔法の訓練の為に【結界】を展開し、自分で自分に弱い【雷柱】を撃った時。自分の魔力に酔っていた俺は、【結界】に十分な魔力配分をしなかった上、【雷柱】の出力をギリギリまで絞らなかったのだ。
その結果、【雷柱】は一部【結界】を貫通、俺に直撃した。
小さな、本当に小さな雷に打たれた瞬間、俺はその場に崩れ落ちてしまった。意識を手放したいと思うほどの激痛が全身を駆け巡り、五感全てが痛覚に押しつぶされた。
…クラス4の治癒魔法【再生】を無詠唱で発動できなかったら危なかったかもしれない。
無我夢中で意識にすがりつき、【再生】を発動しまくった。痛みが引き、体が麻痺から回復したのが分かっても、【再生】を発動し続けた。
5分ほどそうしていただろうか。
徐々に正常な思考が働くようになり、自分がいかに甘かったかを思い知った。
今自分の体に食らったのは本当に小さな雷だったが、それほどの弱い威力でも行動不能に陥った。もしこれが戦闘中なら、追撃を受けて即死しているだろう。
…魔法による戦闘は、一撃でも直撃すれば終わりだ。たとえ威力が弱くとも。
「…魔法って怖ぇ~」
そもそもの一撃一撃が重すぎるのだ。【雷柱】は本気こそだせばレーザーだが、どんなに魔力を絞ろうと、強力な電撃が発射されることに変わりはない。
一般的なエルフの戦闘スタイルは分からないが、少なくとも『攻撃は最大の防御』ということはないだろう。防御無視の突撃などしていたら命が幾つあっても足りない。
おそらく、対個人戦は、両者徹底的な防御を固めた上で、それをどちらが先に防御を破るかが勝負。
鍵は『いかに強い攻撃魔法を放つか』ではなく、『いかに強固な防御魔法を使えるか』。
「ってことは、防御魔法の方をしっかり練習しなくちゃな…」
物理的な防御も完璧にしなければならない。
予想だが、族長は魔法だけでなく体術・剣術にも優れているはずだ。暗殺されることもあるのなら、ハイレベルな護身術は教え込まれているだろう。
幾ら筋トレはしていたとしても、こっちは今日初めて外に出た10歳児だ。肉体的には脆弱、物理的な攻撃は一発も耐えられまい。
「楽勝って言ってたの誰だよ…」
自分か、と自問自答しつつ溜め息。
…後悔したところで、何も始まらない。よしっと掛け声を一つ、起き上がる。
脱出したのが0時頃だったから、翌朝まではあと4時間ほどしかないと思う。この時間を活用せねば。もう一刻の猶予もない。
正面の地面を中心に防御魔法を展開。半球状の透明な揺らぎが出現する。
さっきはまさか貫かれるとは思ってなかった。今度は丁寧に、本気で魔力を注ぎ込む。
もしかしたら、【結界】では【雷柱】を防げないとか…いや、そんなことはないと思う。
目の前の【結界】に向かって、ギリギリまで出力を絞った【雷柱】を撃ちこむ。
撃った瞬間、パーンという音がして電撃がばじけとんだ。
うん。やはり、【結界】に注ぐ魔力量の問題らしい。
では、さっきはなぜあれほど簡単に貫通した?…単に、こめる魔力の量の問題だろうか?
そう考えた俺は、それぞれにこめる魔力量を少しずつ変化させながら、【結界】に攻撃魔法を当てていった。
◆
で、実験は結局どうなったかというと。
この世界の魔法は、矛と盾では、どうやら矛の方に大きすぎる分があるようだ。
言い換えれば、『攻撃魔法を発動するのは簡単だが、それを防ぐのは非常に難しい』ということ。
防御魔法の強さにもよるだろうが、クラス3の【結界】で同クラスの攻撃魔法を完全に防ごうとしたならば、感覚的にではあるが、魔力を倍ぐらいは注ぎ込まなければならなかったのだ。
…魔力の優劣が戦闘の勝敗に直結する理由はこれだろう。防御ごと吹き飛ばされていたら、下剋上なんてほぼ不可能だ。なんという魔力至上主義な世界。あまりにもシビアだ。
もう一つ分かったことがある。
【結界】の維持、特に複数枚を持続させるにはそれなりの魔力と集中力が必要であり、どうしても他の魔法の威力が落ちてしまう事。魔力の効率が悪い。
他の、クラス4か5の防御魔法を知っていれば、もっと楽になったのかもしれない…が、無いものをねだっても仕方がない。
少なくとも今は、このクラス3の【結界】のみで身を守らなくてはならない。
話題閑休。
膨大な魔力を消費したので、念のためこれ以上の魔法の練習は止めておく。本番で魔力切れなど冗談ではない。
ぼーっと空を見上げていると、今まで聞こえていなかった木々のざわめきが聞こえてきた。
…寂しい。
あたり一面の草原―――というより焼け野原だが―――に、ぽつんと一人でいるというのは、思ったよりも寂しい。魔法の光球を使わなければ、あたりは本当に真っ暗なのだ。
思えば、この世界に転生してからは、一度も一人で行動したことはなかったはず。今までの9年の間、ほとんど毎日、視界の中には必ずリーザとウィスティーがいたからだ。
特にウィスティー。幼年期から優しく接していたこともあって、9歳の今でさえも何かとすり寄ってくる。
なんてったって、0歳の時から今日まで、ずっと一つの布団で、しかもくっついて寝ているのだ。
…決して俺が抱きついていたわけじゃないぞ。生後半年ぐらいの時から、布団の中にあった俺という熱源にむかって勝手にくっついて来ただけだ。
部屋は魔法で適温に保たれてはいたが、それでも布団の中でのエルフの体温というのは、確かにとても心地が良いものだった。ウィスティーにしてみれば、ただ湯たんぽにくっついている気分だったのだろう。
そして、その癖は1歳になっても2歳になっても治らず…結局毎日毎日抱き合って寝ていた。リーザもくっつく2人を微笑ましく思ったのか何も注意せず、それどころか時々布団の中に潜り込んできていた。本人曰く、「温かそうだったから」らしいが…母親ならもうちょっと情操教育を考えるべきではないだろうか。
まあ、そんなこともあってか、ウィスティーは『体に触れられる』ということに関しての抵抗が驚くほど少ない。
さっきも言ったが、もう自分からべとっとへばりついてくるのだ。都市伝説級のお兄ちゃんっ娘である。兄としては嬉しい限りで、正直計画通りと言いたいところなのだが、ちょっと将来が心配になってくる。
…色々と甘やかしすぎたかもしれない。
いやでも、時々何やらでリーザに怒られて泣いてるウィスティーを見るとどうしても庇いたくなるし、境遇を考えると優しくしこそすれ邪険になどできるはずもないし…
なんて駄目な兄なんだ…
「って、俺何考えてんだよ!」
またも自分に突っ込む。今はウィスティーの可愛さに浸っている場合ではない。
…このままぼけっとしているぐらいなら、2人と合流し、彼女らをもっと遠くの方へ誘導した方が安全かもしれない。どうせ今からは攻撃魔法は使わないのだ。会えば、ウィスティーに俺の魔力を少しあげることもできる。幸い、これほどの音と光を出しても気付かれている気配はなく、【探知】範囲の半径約30キロ以内にもエルフがいる反応はない。
むっくりと起き上がり、念のための【結界】を発動。二人を迎えに行くため、【飛行】で飛ぼうとした瞬間、
「ふむ。聞いてはいたが、それにしても厚い防壁じゃの。【守護】かの…」
「!?」
◆
突然、背中から軽い声が聞こえてきた。反射的に振り返る。
…俺と同じ様に、布を被ったような服を着た白髪紅眼のジジイが、ふわふわとホバリングしていた。
気配、全くしなかったぞ。【探知】にも引っ掛からなかったし。
「初めましてじゃ、アスル。」
「…誰?」
「わしか?わしゃしがないエルフの族長じゃよ。ああ、一応リーザの父でもあるぞぃ。」
「………」
…軽い。口調は非常に軽いが、内容は物騒にもほどがある。あまりの衝撃に、思考がフリーズする。
「もしもし、生きとるかのー?…うーむ。もう10歳のはずであるし…もしかしたら頭の発達が悪かったのかのぉ。」
「っ…!なぜこんなところに!?」
「おお、大丈夫であったか。いやいや、ここにいるのはたまたまじゃ。まさか森を越えた草原にまで来ているとは思っていなかったがの、近くまできたら攻撃魔法の音と光で丸わかりじゃったぞ。」
にしても、もはや草原というより焼け野原じゃのーという呟きを背に、フリーズしていた頭を無理やり動かす。【飛行】を発動、浮かび上がって族長と距離をとり【結界】を多重展開する。
…なんでボスキャラがいきなり出てくんだよ!
完全に不意をつかれた。最悪、他のエルフが出てきたとしても斥候兼様子見の雑魚キャラだろうと予想していたのに。しかも【探知】に反応しないなんて。何かの探知妨害魔法だろうか。
乱れた思考を整理し…血の気が引いた。
この族長、『まさか森を越えた草原にまで来ているとは思っていなかったがの』と、確かに言っていた。が、これは『はじめから森にいるのは分かっておったぞ』という裏が含まれていなければ出てこない言葉だ。
なぜ森に逃げたことが!?もしや脱出した直後に見つかった!?
…それにしても対応が迅速すぎる。脱出したのはちょうど真夜中、族長やその取り巻きもすでに日々の仕事を終え、場合によっては寝ている時間帯だ。脱走したという情報が伝えられ、その真偽が確かめられ、対策が立てられ…到底2,3時間でできる芸当とは思えない。
それに、脱走者を捕まえるのなら森狩りぐらいするはずだ。族長がどのような政治的地位にいるのかは知らないが、トップが一人で来るようなところではない。
どこでそれを…
いや、それよりも、リーザとウィスティーは…
俺が言葉を発する前に、族長が先に口を開いた。
「それだけの防壁を展開しつつ、浮遊系の魔法も同時に使いこなしておるのか…。この焼け野原も全てお前じゃろうて。いくら神童といえども、ちょいと無茶苦茶な魔力じゃな。本当に10歳かの?わしですら、ここまでの破壊はこたえるぞい。」
「…リーザとウィスティーは、どうした?」
「やはり聡明か。安心せい。二人なら、今頃暖かい部屋で熟睡しとるよ。結構疲れておったようだしの。」
…やはり、リーザとウィスティーは捕まってしまったらしい。くそっ!やはり離れるべきではなかったか!
計画は全てウィスティーから漏れていると考えるべきだろう。こうなればもう仕方がない。実力行使で二人を今すぐに救出、他国に逃亡。人質として使われたら洒落にならない。
「ああ、リーザはここ10年でずいぶんと強くなったらしいの。どこまで聞いておるかは知らんが、彼女はわしの長女でな。本来ならお前がいなくなった後、ある人間の国の王室に側室として送りだされる予定だったのじゃ。だがのう、魔法もそこそこ使え、かつ種族を裏切った経歴を持つ彼女を、他国の側室とするのには少々無理があっての。」
「…は?」
「うむ。要するに、リーザは近々処分される可能性があるのじゃよ。ウィスティーもついでにの。二人ともとてもいい子なのにのう。」
―――族長の周りの気温が下がった。
唐突に空中から現れたのは…長さ3メートルはあろうかという、細い氷の槍々。その数、軽く見積もっても100以上。全てがこちらを照準している。
「…っ!氷の魔法っ…!?」
無詠唱だったが、おそらくクラス4以上の攻撃魔法だろう。圧倒的な質量感。
…流石は、エルフの族長といったところだろうか。スケールが大きすぎる。ここまでとは思わなかった。
「わしも父親じゃ。個人的に助けたいのはやまやまではあるがの、わしもただのしがない族長。そんな権限はもっておらん。」
話ながらも数は増えていく。視界に収まりきらない。もう、何本あるか見当もつかない。
小さな声で、クラス4で唯一使える攻撃魔法【炎剣】を詠唱。この草原を焼け野原にした、炎系の強力な魔法だ。…通用すればいいが。
「元々、わしを倒す計画じゃったのだろう?ならば話は早い。ここで決着をつけようぞ。お前さんが勝てば、リーザとウィスティーは解放。わしが勝てば、彼女らは終わりじゃ。」
族長が、青白く発光した半透明の球に包まれる。高クラス防御魔法か。
「ただし、わしにも矜持というものがあるでの。手は絶対に抜かぬ。…まあ、手を抜いたらすぐに力負けしそうじゃが。全く、呆れた魔力量じゃ。」
あくまでも軽く話つつ、右手を振り上げ、
「いくぞい。覚悟せい。」
――――――振り下ろした。
実はこの第九話、2回全ボツしてます。いやー、書くの難しかった。
明日、次話を投稿できたらいいなぁ…あ、急に頭痛が…
念には念を入れて。この小説のタグに「シリアス」「ダーク」は存在しません。
※全ボツ…白紙撤回。データ削除。原稿用紙をくしゃくしゃぽい。
アルトネリコシリーズの曲は凄いっ