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2、追放

 セリアの生家はヤルス伯爵家と呼ばれている。

 

 呼び名の通り、爵位持ちの貴族だ。

 ただ、内情は呼び名ほどに華やかとはいかなかった。


 かなりの借金があったのだ。

 祖父の代に農園への投資に失敗した結果だということだったが、その返済に伯爵家は非常に苦労させられていた。

 

 そこに、セリアが部屋にこもり、家を留守にしてきた理由があった。


 商売に専念していたのだ。


 主な事業は投資だ。

 祖父の後追いにはなったが、彼のように知人の誘いのままに財布を緩めるような真似はしなかった。


 各地各所に人脈を作り、連絡を密にし、将来の需要を冷静に測っていく。

 その上で、有望であると思われる開拓先、商家などがあれば、自身で足を運んで確認し、投資の根拠を得る。


 だからこそ、必要があったのだ。

 

 何十何百の手紙を相手する必要があり、部屋にこもられなければなかった。

 自ら現地を確認する必要があり、屋敷を空けざるを得なかった。

 

 よって、父が非難してきた内容は多くは事実だった。

 

 しかしもちろん、非難されるいわれなど無い。

 セリアの尽力によって、無事に借金は完済されたのだ。

 本日の集まりは、そのことを祝う席だった。

 称賛の声こそがあってしかるべきだった。


 だが、現実はこれだ


 セリアは両親に向けて問いを叫ぶ。


「な、なんでですかっ!? 私がこの家のために何をしてきたのかって、分かってくれていたはずですよねっ!?」


 秘密の行いなどでは無く、当然そのはずだった。

 理解して応援してくれていたはずだった。

 しかし、両親の顔に浮かんだのは呆れの表情だ。

 いや、母親はそれどころではない。

 セリアに対し、侮蔑の視線を向けてくる。


「この子はまったく……今さら嘘をつくのはおよしなさい。全てヨカが話してくれました。今までのことは、全てあの子の行いだったのでしょう?」


 セリアが疑問の声を挟む間も無かった。

 父親が怒気も露わに声を上げる。


「そして、その間のお前だな。外に男を作っては遊び呆け、家ではその疲労に惰眠をむさぼっていたと。まったく、とんだ孝行娘だ」

 

 唖然(あぜん)とするしかなかった。

 身に覚えなどはまったく無いのだ。

 

(え? よ、ヨカ? ヨカが話したって……)


 セリアはヨカを見つめた。

 彼女はひそかにだった。

 ひそかにだが、確かにニヤリと笑みを浮かべた。


 察するのは簡単だった。

 きっと彼女は、そんな虚言を両親に吹き込んだのだろう。

 しかし、理由が分からない。

 まったく見当もつかない。

 セリアは呆然としてヨカを見つめる。


「よ、ヨカ? なんで? なんでこんな……?」


 思わずもれた疑問の声。

 彼女は答えない。

 代わって、ニコリと無邪気にほほ笑んだ。

 楽しそうに、そして愉快そうに、セリアの婚約者であるはずのクワイフの胸に顔を寄せた。


 自然と、今までが思い起こされた。


 日頃からである。

 ヨカはクワイフのことを称賛していた。

 血筋も容姿も素晴らしいと、事ある毎に口にしていた。


 それはあくまで妹としてのことだと思っていた。

 妹として、姉の婚約者──将来の義理の兄に対し、親愛の情を向けていたのだと思っていた。


 しかし、そうでは無かったのだ。

 ヨカは変わらずクワイフの胸にある。

 幸せそうに相好(そうごう)を崩している。


 ようやく理解できた。

 何故、こんな状況になっているのか?

 ヨカだ。

 彼女による策略だ。

 クワイフを自らの婚約者とするため、姉の功績を我が物にし、さらには不当に行状(ぎょうじょう)(おとし)めてきたのだ。


「……セリア」


 セリアはびくりと体を震わせる。

 父親の呼びかけだったが、そこには今までに耳にしたことが無い響きがあった。

 肉親に向けたものとは思えない酷薄(こくはく)な響きがあった。

 

「お、お父様……?」

 

 セリアの呼びかけに、父親は不快そうに眉根を寄せた。


「ふん。お前にそう呼ばれるのも今日限りだ。出ていけ。貴様のような不出来な娘を、当家の人間と認めるわけにはいかん」


 愛した家族だった。

 だからこそ、彼らのために1日の休みもなく働き続けた。

 

 その家族に今、侮蔑の目つきで見つめられてしまっている

 セリアは呆然と彼らを見返した。


「そ、そんな。出ていけなんて、そんな……なんで……」


 誰かが嘘だと言ってくれるのではないか?

 冗談だと笑みを向けてくれるのではないか?

 

 そう期待した。

 しかし、誰も何も言わない。

 出ていけと無言の圧力ばかりがそこにはあった。


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