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14、これから

 セリアは頭を抱えていた。

 

 場所はと言えば、ケネスの屋敷の居間だ。

 その長椅子に腰をかけ、これからの試練に対しうめき声を上げることになっていた。


「……うわー、緊張するー」


 隣にはケネスが立っている。

 彼は腕組みでセリアを見下ろしてきた。


「ふーむ。意外と言うか、お前でもこういうのは緊張するんだな」


 その呑気な感想に、セリアは思わず声を上げる。


「す、するに決まってますよ! 夜会ですよ、夜会! しかも……っ!」


「俺との婚約を披露する場でもある……か?」


 その通りだった。


 セリアは青い顔で頷くことになる。


 今日はその日だったのだ。

 貴族社会に対して、セリアとケネスの婚約を公にする機会だった。


 ケネスは「そうだな」と納得を見せてきた。


「まぁ、緊張もするか。なにせ俺との婚約を発表するわけだ。俺は何分、敵が多い。お前への風当たりは、心地よいとは間違っても言えないものになるだろう」


 ケネスの評判はセリアも知るところだ。

 おそらくは彼の推測する通りになることだろうが……セリアは「へ?」と首をかしげることになった。


「あの、別にそこは……ですよ?」


「は? そこは……なのか?」


「はい。別に、敵意なんて慣れっこですし。私も、投資関係で色々ありましたから」


 実利の世界で戦っていれば色々とあったのだ。

 (ねた)(そね)みは当たり前。

 競合相手からの敵対行為なども、また当然のことだった。


 ケネスは「ほお」と感心を呟いてくる。


「さすがは俺の奥方殿だ。しかし、なんだ? だったら何を緊張する必要がある?」


「だ、だから、夜会なんですよ! その辺りが苦手なことはケネス様もご存知ですよね?」


「そう言えば、学院時代からそういう場には出てこなかったな」


 セリアは頷いて、再び頭を抱えることになる。


「ああいう場は苦手ですし、ケネス様に恥をかかせるわけにもいかないし……あの、何回までは良かったのでしたっけ?」


 質問の意図は伝わっていないらしい。

 ケネスは首をかしげてくる。


「……何回? お前は一体何の話をしているんだ?」


「夜会ですから。舞踏をしなければならない場面もありますよね?」


「それはあるだろうが、は?」


「いえ、ですから舞踏ですよ? 足を踏みますよね? それは何回までなら許されるものなのかと」


 まだ質問の意図が伝わっていないのかどうなのか。

 ケネスの首の傾きはさらにキツくなる。


「……すまん。お前が何を言っているのかさっぱり理解出来んが、あー、そういうものなのか? 寡聞(かぶん)にして存じ上げなかったが、何回までならとかそういう話があるのか?」


「え、ないんですか? そういうものだと思っていたのですが。みなさん、踏みますよね? 普通は踏んでますよね?」


「……ふーむ」


 ケネスは不思議な反応を見せてきた。

 何度も頷きをした上で、ポンとセリアの肩に手を置いてきた。


「え、えーと、いきなりなんでしょうか?」


「理解した。諦めろ。お前には無理だ」


「な、なんですかそれは!? 一体何が無理だって言うんですか!?」


「恥をかかずにすむのは無理だ。甘んじて受け入れろ」


「い、嫌ですよっ! 私はユーガルド公爵夫人になるのですからっ! これぐらいは、はい。やってみせますとも!」


 これから何度夜会に出るのか分からないのだ。

 ケネスとユーガルド家の名誉のためにも、気張らないわけにはいかなかった。


 ただ、ケネスだ。

 変わらずの呆れの表情で見下ろしてくる。


「気負われるほどに俺の足の無事が心配になるな。とにかく、まぁ、気にするな。俺はまったく気にしてないからな」


「そ、そうですか? いえ、でも……」


「だから、気にするな。お前の魅力は、社交界での上っつらなんぞには無い。俺は分かっている。周囲もすぐに分かる。俺の惚れた女というのはそういうヤツだからな」


 不意に湧き上がってくるものがあった。

 それはもちろん喜びの感情だ。

 セリアは笑みでケネスを見上げる。


「なんと言いますか……私の惚れた旦那様らしい物言いですね」


「惚れ直したか?」


「ふふふ、はい。ですから任せて下さい! なんとかこう、足を踏むのはえーと、2桁です! 2桁で収めてみせますから!」


「せめて両手の指で足りるぐらいに収めてもらいたいものだが……まぁ」


 時間だということらしい。

 ケネスが手を差し伸べてくる。

 

 いよいよ、この人との一生が始まるのだろう。

 そんな予感が確かにあり、自然と笑みは深まる。

 きっと困難も多いに違いなかった。

 ただ、それに挑むことも、彼と一緒であれば喜びでしかない。


 セリアは指を絡めるようにしてケネスの手を取った。

お読みいただきありがとうございます!

当作はこれにて完結となります。

少しでもお楽しみいただけましたら、ブックマーク、感想、下部★の評価をよろしくお願いします。


また、↓に新作もございます。

よろしければお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 妹達はどうなったのでしょうか? [一言] 若干の尻切れ蜻蛉感がいなめなかった。
[一言] ざまぁ系とのことですが、どの辺りがざまぁだったのでしょう? 丸投げした執事に持ち逃げされ、他人に罪を擦りつけて損失を埋めようとした辺りでしょうか? 冤罪吹っ掛けたことが問題視されて豚箱に送ら…
[一言] 執事はお金を持って逃げたか。
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