12、望まぬ再会(2)
「まぁ、待て。全てはお前たちの憶測だろうが。いや、分かってて黙っている小娘もいるようだが、とにかくコイツは俺の部下だ。勝手な真似は控えてもらおうか」
セリアはホッと安堵の息を吐く。
ありがたく、素直に嬉しかった。
ケネスが味方だという実感に、安堵の笑みも浮かぶ。
ただ、クワイフはこれで引き下がるつもりはないらしい。
ケネスに対し、不満の表情で口を開く。
「えぇ、はい。アレが閣下の元で働いているということは私も聞き及んでおります。ただ、これは家族の問題ですっ! 腹立たしい話ですが、アレはこのヨカの姉なのですからっ!」
この言葉に応える者があった。
今まで黙っていたヨカが立ち上がった。
彼女は必死の形相でケネスをにらみつける。
「そ、そうですっ! これは家族の問題ですっ! 家族の恥は家族ですすがなければいけないんですっ! 罪を償わせるためにも……そ、そうですっ! その分働かせないとっ!」
さすがに唖然とせざるを得ない物言いだった。
ケネスも同感のようで、「はぁ」とため息を響かせる。
「コイツのおかげで儲けていられたことが分かって、頭を下げるでも無くこき使う道を選んだわけか。なかなか出会うことの出来ない醜悪さだな」
「とにかくどいて下さいっ!! 家族の問題とあれば、公爵閣下と言えど不可侵の領域のはずですっ!! さぁ、早くっ!!」
ヨカは次いで行動にも出た。
ケネスの脇を抜けるようにして、セリアに手を伸ばしてくる。
そこにあった鬼気迫る表情は……もはや、愛した妹とは思えなかった。
不気味で醜悪なものでしか無く、恐怖でしかない。
セリアは悲鳴も忘れて、身を縮めることになる。
ヨカが迫ってくる。
必死の手が伸びてくる。
そして、
「っ!?」
声にならない悲鳴が上がった。
原因は明らかだった。
ヨカの腕は、ケネスによって固く掴まれていた。
彼女は抵抗した。
拘束をほどこうともがき、さらにはケネスに憎悪の視線を向けた。
「か、閣下っ!! お止め下さいっ!! これはですから、家族の問題で……っ!!」
「そうか。だったら、俺にも口を挟む権利があるわけだな」
は? と唖然の声が上がった。
それはヨカによるものであったが、セリアもほとんど同様だった。
言葉にならずとも、「え?」だった。
目を丸くし、ケネスの横顔を見つめることになる。
「え、えーと……閣下?」
一体どういう意味なのかということだ。
彼は答えてはくれなかった。
代わりに、ヨカ、クワイフの2人を淡々と見渡す。
「分からんか? まさか、夫は家族の範疇に入らんとでも言うつもりか?」
セリアは眉をひそめて首をひねる。
分からんとしか言いようがなかったが、しかしヨカだ。
彼女には理解出来たらしい。
目を見開き、次いで驚愕の叫びを上げた。
「お、夫……っ!? それはあの、え? この女の夫ということですかっ!?」
いやいや、まさかそんな。
セリアは当然胸中で否定することになるのだが、ケネスは違った。
平然と頷きを返す。
「まぁ、つまりそういうことだな」
そういうことじゃないでしょうが。
口にしようとして、それは果たせなかった。
ヨカがひきつった表情で困惑を叫ぶ。
「あ、ありえないっ!! なんでその女が? え、公爵夫人? 内務卿閣下の妻? お金儲けしか出来ない女が、なんでそんな……っ!!」
ケネスは呆れたように首をひねった。
「ふーむ。お金に困っているだろう小娘がなかなか面白いことを言う。とにかく、コイツは俺の妻だ。お前の言う通り、ユーガルド公爵家の奥方様だ。どうする? あらぬ疑いをかけて連れ去りたいというのであれば、当然それなりの覚悟をしてもらう必要があるが」
半狂乱のヨカはともかく、クワイフはある程度冷静だったようだ。
自分たちの行いが、この先に何を招いてしまうのか?
それを予期して、逃げ出すことにしたらしい。
暴れるヨカの腕を掴むと、転がるようにして応接間から飛び出していった。