47 シャドーイーグル討伐作戦1
シャドーイーグルの吐いたであろう毛玉。これの発見場所をヒックスに伝えたところ、すぐさま斥候隊の派遣を手配してくれた。そして、毛玉を見つけた地点の更に先にシャドーイーグルの群れが大木の枝に集まっていたのだという。
今、リドナーは相棒をしていたビョルンとともに待機中である。
山岳都市ベイル守備隊は4日前から森に駐留しての警戒捜索任務を実施してきた。ベイルとネブリル地方の中間地点に陣取っている。
「いやぁ、助かった」
のんびりした声とともに黒髪の小柄な少年が歩み寄ってくる。色白であり、色褪せた黒い制服に身を包む。ベイル守備隊斥候部門の制服である。
「ホントだ。戦闘する奴らは皆、痕跡なんぞ見ちゃくれねぇ。ま、リドナーは例外だぁ」
もう一人、金髪の小柄な少年も歩み寄ってきて告げる。こちらも黒い制服に身を包む。
黒髪と金髪、2人並ぶと顔立ちはそっくりなのだ。
「げ、ディオンにスタッダ、斥候部門の名うての双子だ」
近くにいたビョルンが慌てて距離を取ろうとする。
2人が同時に一瞥するが特に反応しなかった。今日、2人にとってビョルンはどうでも良いらしい。
「リドナー、でかした」
結果、双子の2人にリドナーは挟まれた。
「いやぁ、ホントにでかした」
金髪がディオン、黒髪がスタッダだ。2人で自分を挟んで労うと、左右からペチペチと肩を叩いてくる。
痛くはないが、この独得の親愛の表現に始まる、数々の独特さがビョルンに逃げを選択させたのだろう。
「やめろよ、ディオンもスタッダも」
リドナーは叩く2人の手を抑えて告げる。自分もまた男に叩かれて喜ぶ趣味は無い。
(女の子からでも、嫌だけど。あ、ティアちゃんなら別に)
リドナーは阿呆なことを考えてしまう。
斥候部門の名うての双子、ディオンとスタッダ、先のビョルンとともに自分と同じ16歳なのであった。双子ともに敏捷で、短剣と長剣の間ぐらいの長さの剣を、実に巧みに素早く遣う。息のあった連携も厄介だ。
「照れるなよぉ、本音さぁ」
のんびりとした口調で金髪のディオンが言う。
「照れちゃいないよ、ディオン」
叩かれるのが止まったので、リドナーは落ち着いた口調で返す。
自分たちの周りこそ比較的のんびりしているが、駐屯地全体としてはシャドーイーグル討伐へ向けての準備で慌ただしい。
「毛玉を見つけてくれて、俺らも助かったんだ。何から何まで俺等が見つけなきゃなんねぇって、結構なプレッシャーだかんな」
黒髪のスタッダもディオンより幾分か鋭い目つきを自分に向けて労ってくれた。だが本当に怖いのは、時折発する、ディオンの鋭い一瞥の方だ。
目つきと髪色以外は瓜二つの双子なのだが、髪色という目立つ違いがあるので、あまり取り違えられることもない。
「大したことじゃない。当たり前のことをきちんと報告しただけだよ」
苦笑いしてリドナーは返した。幾度となく今までに繰り返してきたやり取りである。この双子は通常の守備隊員たちのことを、鈍過ぎる、と考えているのだ。実際、鈍いかもしれないと思うことはリドナーにもあった。
「戦う連中は魔獣を探す時に糞を見るって、当たり前のこともしねんだ」
憮然とした顔でスタッダが言う。
自分とビョルンが毛玉を見つけたことがきっかけでシャドーイーグルの群れを捕捉した。2人ともいたく評価してくれているようだ。
「おかげで数も分かった。完璧だ」
更にスタッダが言う。双子のうち比較的によく喋るのはスタッダのほうだ。
「全部で32羽だぁ。気付かなかったらヤバかったなぁ」
間延びした喋り方でディオンが告げる。シャドーイーグルの32羽というのは確かに大変な数だ。自分やガウソルはともかく、単体でも兵士数人がかりでないと倒せない相手である。単純計算でも200人以上は兵士が必要ということだ。
「まだこれからだろ。大変なのはさ」
苦笑してリドナーが告げる。
あまりの数に守備隊隊長ヴェクターまで出張ってきて、直接の指揮を執っているのだった。駐屯地の中央に大きな天幕を張って指揮所としている。
「お前みたいに探すことを手抜きしないやつがいるから、本当に助かる。リドナーみたいなのが守備隊を支えてんだ」
スタッダがニヤニヤと笑って告げる。さすがに意図が見え透いていた。
「おだててもだめだよ。俺は異動しないから」
斥候のほうが向いてるんだから一緒にやろう、というのがこの双子との話の、いつもの落着点なのであった。
今でこそティアのことで仲違いをしてはいても、ガウソルが養父であることは変わらない。
「お前のとこの親父さんは強えけど、探すのは手抜きだかんな」
苦虫を噛み潰したような顔でスタッダが言う。
ディオンもまた似たような表情だ。
自分が異動しないことの要因であることの他、この2人はガウソルを嫌っている。
「目もいいし、鼻もいいんに、碌に見つけて来ねえんだかんなぁ」
ディオンが嘆息して告げる。
「俺にあの目を寄越せってんだ」
スタッダがとんでもないことを言う。
「んじゃぁ、俺は鼻だぁ」
ディオンもディオンでおかしな相槌を打つ。
「頭は?」
仲違いのせいで荒んでいることもあって、リドナーは煽るような質問を向ける。
「頭は要らねぇ」
2人が揃って即答した。
「あぁ、でも顔は羨ましいな、女の人にモテんだ。あの顔は」
スタッダがニヤニヤと笑って言う。
「お前のその性格じゃ駄目だぁ」
すかさずディオンが指摘する。
「あはは、ガウソルさんの性格でもいけるんだから大丈夫じゃないか?」
リドナーもまたディオンをさらに告げる。
「かもしんねぇなぁ」
少し考えてからディオンが頷く。
鋭い感覚を持ちながら滅多に敵を見つけて来ないガウソルのことを2人は宝の持ち腐れだ、と嫌っているのである。ガウソルの場合、本当はその場ですぐ倒してしまうから報告が少ないだけなのだが。
大体いつも最後はガウソルの悪口になるのだった。
(で、なんで俺に来るのかは謎だけど)
不思議とリドナーにとっても、馬の合う双子なのである。
(あとは、倒すだけ、か。それが大変なんだけど)
思案するリドナーをさらにひとしきり称えてから、ディオンとスタッダの双子がまた仕事に戻る。敵を捕捉したため、今度は伝令を務めるのだという。
リドナーは2人を見送り、手を振った。
「すげぇなぁ、あの気難しい双子相手に」
ビョルンが戻ってきて告げた。
「別に。気のいい奴らじゃん」
リドナーは首を傾げて返す。いつもビョルンなどは逃げてしまうのだ。
「はぁ、そんな調子だから、あのティアちゃんと付き合えるんだな、大物だよ、ほんと」
自分のことを知ってか知らずかビョルンが嘆息して告げるのであった。