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181 第1部隊隊長ジェイコブ1

「ふむ、目処が立ってきたではないか」

 鍛冶屋でもう別れることとしたリドナーの背中を見送ってジェイコブは告げる。『ジジイにゃ疲れた、酷だった』とボヤいてカンテツ老人も既に鍛冶屋の裏へ回っていた。

(私もまぁ、それらしいことを上手く言えたものだ。それだけ私が優秀ということだが。それにしても認めさせる、か。必要もないことをよくもまぁ)

 ジェイコブは思い、リドナーとは別方向へと足を向けた。

(なるほど、そういうことか)

 独り納得して頷く。自分の優秀さはやはり揺らがない。ジェイコブは自信を深めた。

 鍛冶屋から主要通りを進み、少しずつ裏路地を選んで歩いていく。物が雑多に積まれて自然、死角も多くなる。

「ジェイコブさん」

 闇の中から声をかけられた。まだ若く、ハリのある声音だ。

「リドのやつぁ、大丈夫なんで?」

 更に尋ねられた。同じような声質であり、最初と同一人物である、とすら誤認する者も多いだろう。よく聞くと若干の違いがあるのだ。後者のほうが少し間延びしている。

 リドナーの魔剣受領を心配して影から見ていたようだ。

「特にこういうときは何も警戒は要らん。姿を晒したまえ」

 闇の中から金髪と黒髪の双子ディオンとスタッダが姿をあらわした。ともに群青色の制服、襟元に空色の刺繍があしらわれている。自分の部下である、第1部隊部隊員の証だ。

「なに、保険として私の魔力を籠めておいた。暴走することもあるまい」

 ジェイコブは気楽に告げる。

 既に夕刻となっていた。薄暗い雰囲気と双子の雰囲気とがよく合っている。なんとなく、そんなことを思う。喫緊の課題だった魔剣ズウエン復活を為せたので上機嫌なのだ。

「変なやつぁいねぇ。この町には、今ん所は、ですけど」

 ディオンが口調とは裏腹に鋭い眼差しで告げる。日頃の、のんびりした口調は見せかけだ。

 ジェイコブは早い段階で気付いていた。ディオンとスタッダならディオンの方が実は怖い。周りをよく見ていて判断も非情だ。おまけに町の若い者をかなりの数、手下にしている。そういう人間を守備隊も抱え込んでいたのだ。

(凡愚の輩だが、まったく使えないわけではない)

 守備隊の総隊長ヴェクターのことだ。

 ガウソルに頼り切りなのかと思っていたが、とんだ隠し玉が守備隊の各所に点在していた。あえてバラけさせていたのかもしれない。ただ、抱えてはいても運用があまり上手くはなかった。だから後手を踏み続けたのだ。

「また、ティア嬢や神竜様が襲撃されてはコトだ。しっかり見回りたまえ」

 第1部隊の隊長として、ジェイコブは指示を飛ばす。自分を招き入れることにもヴェクターが鷹揚で助かった。人を集めるということには独特の才覚がある。

 2人が同時に揃って頷く。

(理解が早くて助かる。リドナー君と言い、優秀な私が優秀な人材と話すのは楽でいい)

 神竜ドラコの存在を餌に、マイラが誘き寄せたのが自分だった。神竜の復活という1大事業を自分が取り仕切れる魅力に惹かれて来たつもりだったが。

(この町自体を私が組み立て直すのもなかなか面白いではないか。この町は規模の割に執政がいないなど、私が入っていく余地が存分にあるからな)

 目の保養となる美女が多いというのも良かった。

「俺等は探るのが得意だ。こそついている奴を探るのも上手いはずだっての、理にかなってる」

 スタッダがしみじみとした口調で告げる。

『斥候部門の名うての双子』などと呼ばれていたが、密偵としても使えるだろう、とジェイコブは判断した。ゆえに斥候部門とヴェクターとに直接かけあってわざわざ引き抜き抜擢したのである。

(そういう人材が手足にいると、実に便利だからな)

 直接、2人だけで探すのではなく。おそらく配下の面々も駆使しているのだろう。

「今までが無防備過ぎたのだ。人に対する害悪は魔獣だけではない。そこへの警戒が無かったから不逞の輩がやりたい放題だったではないか」

 ジェイコブはティアたちからの報告にあった、赤いローブの男を思い浮かべて告げる。魔獣使いだろう、と思う。

 ディオンとスタッダも頷いた。

 また、町の内側で四色の虎やもっと強力な魔獣を呼び出されてはたまらない。常に精鋭部隊のどちらかを町の中に駐留することとし防備を固めたが、やはり戦場は町の外が良いのだ。

「と、言いつつも重点項目を自らの活動に設定することも大事だ。今、この町の重点はティア嬢の身辺、治療院だ。君たちが責任を持って、よく見なくてはならない」

 ジェイコブは指示と指導のつもりで告げた。リドナーと同じく2人も弱冠16歳の少年である。賢明な大人の指導が不可欠なのだ。

「ま、いい役得さぁ。可愛い娘さんなら、いくら見ても飽きることはねぇなぁ」

 のんびりとした口調でディオンが言う。

「見惚れてばっかで、仕事しねぇとかは無しだぞ。まぁ、ティアちゃんは可愛い」

 すかさずスタッダがたしなめようとして失敗した。

 ジェイコブとしては貧相な体躯のティアにはまったくもって魅力を一切感じないのだが。リドナーも惚れ込んでいるのだった。同世代には人気があるらしい。

「私なら、レンファ嬢やネイフィ嬢の見物に喜びを見出すがね。まぁ、役得、ということを言うのなら、だが」

 ジェイコブはたしなめるよりもむしろ同調してしまった。役割の何かを左右するような話ではない。

 自分にとっては目の保養である。色香が子供のティアとはまるで違うのだ。

「あの人たちもきれいなお姉さんたちだけどなぁ」

 ディオンが頷く。ジェイコブの言うことがまったく分からないでもないらしい。この辺りはまた、リドナーとは違う柔軟さだった。

「ちょっと俺等にゃ年が上過ぎるかなぁ」

 スタッダも首を傾げている。

「治療院はまぁ、きれいな人たち揃いだから、いいよなぁ」

 ディオンがまたのんびりと結論づける。

 あくまで双子の任務は見回りだった。生活の覗き見などはしていないはずだ。

 ジェイコブはしばし双子とともに治療院の女性陣について意見を交わし、上司と部下としての連携を高めることとするのであった。

 




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