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179 魔剣の受領1

 まるで瀬踏みのようにまずは小物が襲い来る。繰り返し同じことが起こっていた。

 どうしてもリドナーは今回も、次に強力な魔獣があらわれるのではないか、という危惧を捨て切れない。  

 第1部隊の仲間とともにレッサードラゴンの現場から山岳都市ベイルに戻る道中も警戒しどおしであった。キョロキョロと辺りを見回してしまう。

「俺等をもっと信用してほしいなぁ」

 のんびりした口調とは裏腹に鋭い眼光でディオンから睨まれてしまった。

「俺等が探って回ってもやばい魔獣の痕跡はねぇって」

 スタッダからも言われてしまう。

「まぁ、なんの警戒もしねぇ呑気なイーライよりはマシだ」

 そして口を揃えて双子からイーライが叱られるのであった。

 負けじとイーライも何かを言い返している。

(それにしても、用心してる時に限って出てこない)

 3人のじゃれ合いを尻目に思う。そんなものなのだ、とリドナーも頭では分かっている。

 結局、何も大物とは行き合わないまま、山岳都市ベイルの城壁前に戻ってくることが出来た。

「我々は部隊の詰め所に戻るよ。君はティアちゃんに会ってくればいいさ」

 イーライが笑顔で自分に告げる。

「報告があるので」

 リドナーは苦笑して返すのだった。

 一応、正規の任務で出動したのだから報告のため、ヴェクターのいる執務室へとリドナーだけは向かわなくてはならない。

(分かっているから、イーライさん、わざわざ我々は戻るって言ってるんだろうに)

 皆の前で口に出して言われるとかえって向かいづらいではないか。どうやら言っていることとやっていることとが、チグハグであるのがイーライという人らしい。

(報告なんてさ、本当はジェイコブさんがやることだけど)

 リドナーは本営の廊下を歩きつつ思う。水色の襟章を見て、すれ違う一般隊員が少し緊張した顔となっていた。

(まだ、そんな緊張される身じゃない。大きな手柄は立てていないんだから、さ。隊長なんか、あのジェイコブさんなんだぜ?)

 第1部隊の隊長としては自分の上にジェイコブがいるのである。本来なら同行して、報告もしておいてくれて、が筋なのだが。

 執務室に辿り着く。軽くノックをすると『入れ』と言われる。

「さすがだな」

 部屋に入るなり褒められた。ヴェクターではない。

 まるで参謀か何かのように、ジェイコブがヴェクターの隣に立ち、樫の杖を片手に立っている。

「あー、うん。よくやった」

 称賛を乗っ取られたヴェクターが、とても居心地の悪そうにねぎらってくれる。

 ジェイコブに対しては、リドナーであっても、或いは自分ではない誰であっても、対応には困らされている、そんな印象があった。直属の上司ということにはなるのだが。

(今回も一緒に来てほしかったような、来てなくて良かったような)

 来てくれれば間違いなく強力な魔術により戦力となってくれる反面、人間性に難がある。話していて疲れるのだ。

(まぁ、でも、来てくれていたほうが良いか)

 ゲンナリと疲労させられることも多いのだが、かといって特段、なにか酷いことをされたのかと言われれば思い返すと特に何もないのだった。

(ティアちゃんへの失礼ぐらいか)

 後は特になんの害もない。

「30匹のレッサードラゴンを倒してきました。近くに強力な魔獣はいませんでした」

 リドナーはヴェクターに向かって報告する。

「ちょうど30匹だったのか?29でも31でもなく?」

 質問が当たり前のようにジェイコブから飛んできた。

「ええ、間違いなくちゃんと数えました。30匹で間違いありません」

 リドナーは仕方なくジェイコブの方を向いて答える。

(言いたいことは分かるけど考えすぎじゃないかな)

 きっかり30匹というのも、たしかに引っかかるものの、ありえないことではないはずだ。

 ただ、気をつけようとは思う。少なくともジェイコブの方は何か予兆として受け止めたのだから。

 現在、自身の所属する討伐部門には第1部隊と第2部隊が設けられている。ともに各隊の精鋭から編成されているのだが、外向けの任務も交互に行うこととし、どちらか一方は町の警戒に当たることとされた。

(四色の虎のときの反省をよく反映した運用だと思うけど)

 レッサードラゴン討伐を第1部隊が終えた今、次に魔獣を感知しても、出動するのは第2部隊の方だ。しばらくは山岳都市ベイルに滞在できるだろう。

(ティアちゃんにも会える、あと、ドラコにも)

 純粋にただ会いたい気持ちのほか、様々な気持ちが雑多に去来する。不安で心配なのだった。

 神竜ドラコへの無茶振りも思い詰め方も。可愛らしいがゆえに集めてしまう異性からの好意にも。

(心配してもし過ぎってことはないよな、ティアちゃんには。本人が危なっかしいし可愛らしすぎるし)

 正式に交際しているとはいえ、リドナーとしては漠然とした不安にかられてしまう。

「ふむ、その件は分かった。さて、では行くぞ。ちょうどいいところに帰ってきた」

 こともなげにリドナーの願望をジェイコブが打ち砕く。

 樫の杖を握ったままヴェクターの横から動き、部屋を出て先導しようとする。

(あぁ、そうなるのかぁ)

 ジェイコブの背中を目の前にし、リドナーはがっかりしてしまうのであった。

 


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― 新着の感想 ―
ジェイコブさんが今回も偉そうにしているので笑ってしまいました。 ヴェクターさんもタジタジですね(笑) せっかく街に戻ってきたのになかなかティアちゃんと会えないリド君の不安も面白かったです。 サブタイト…
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