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168 久しぶりの治療院訪問1

 最近、どうもティアとドラコとの仲が上手くいっていないらしい。久しぶりに治療院を訪れたリドナーは待合い事務のレンファに呼び止められたのだった。

「公園のベンチでね、にらめっこしてばかりなのよ。言い合いみたいなこともしてたわね。まぁ、神竜様は『ピッ』しか言わないのだけど」

 困った笑顔でレンファが言う。

 細い指を左の頬に当てて首を傾げて見せる。

「ティアちゃんも怒ってるみたいで、神竜様も拗ねてるみたいで」

 直接、レンファも何事かを確認したわけではないらしい。

「ティアちゃんの方は夜も遅くまで勉強してるし。身体を壊さないか心配」

 レンファの言葉にリドナーも頷いた。

 生真面目で勉強熱心なティアである。わざわざ教材購入のためのデートをしたこともあるリドナーとしては、揉める原因についても思い当たるところがないでもなかった。

「今日も2人共公園ですか?」

 レンファと話してばかりいても、はっきりと断言は出来ない。

 リドナーはレンファとの対話を打ち切ることとした。前情報も十分にもらえたと思う。

「ええ、いつもと同じベンチじゃないかしら。喜ぶと思うわよ。2人共。二人っきりで揉めてばかりだったから」

 笑ってレンファが答えてくれた。

 わざわざ、いつもどおりに昼休みを狙いすまして来たのである。 しつこいながらも足の遅いジェイコブも今日は振り切ってやったのだ。

(レンファさんやネイフィさんを目の保養にするわ、ティアちゃんをけなすわ、最低だからな、あの人)

 絶対に一緒には治療院に来たくない付き添いがジェイコブなのである。前情報もジェイコブ同伴ではもらえなかっただろう。

「とても不機嫌そうな顔で、ティアちゃんが神竜様を抱っこして行ったわよ」

 レンファが笑って加えるのを背中で聞いて、リドナーはそちらへと向かう。

 外から見ると、急造で治療院として使われつつも、神殿としての建造も着実に進められていると分かる。道の向こう側では並行して、治療院の修復も進められているのが見えた。

(今は昼休みみたいだけど作業の音が道の両側から聞こえてたもんな)

 リドナーは思いつつ、緑豊かな庭園を進んでいく。以前には公園だった場所だ。いつかは神竜の棲む神殿として人々に親しまれる場所となるのだろうか。 

 そんな温かな想像を切り裂くかのようだった。

「もうっ!ドラコッ!大っきくなってって!ホーリーライトを使ってって、言ってるのに。もっとすごいの使えるんならそれならそうだ、って教えてよ!」

 いつにない剣幕でティアの怒る声が聞こえる。

(やってる、やってる、怒ってる声も可愛いなぁ)

 久しぶりのティアに、声すらも愛おしくてリドナーは阿呆なことを思うのだった。

 ティアが立ったまま両拳を腰に当てて怒っている。

「ピッ!」

 草地にお座りしたドラコがそっぽを向く。

 自分と目があった。

 リドナーは笑ってドラコに手を振ってやる。

「ピィ〜〜ッ」

 甘ったれた声を出して、ドラコがパタパタと飛んでくる。

 やはり肥った腹が引っ込まない。タプタプと波打っていた。

 さらにドラコに釣られてティアも自分の方へと目を向ける。大きな青みがかった瞳が見開かれた。

「リドッ!」

 嬉しいことにティアも駆け寄ってきてくれる。

(あはは、久しぶりに会えたけど、喜んでくれてるのかな?嬉しいな)

 リドナーはティアと手を取り合って、再会を喜ぶ。数日会えなかっただけで大袈裟なのかもしれない。きれいで柔らかい手だった。

(あぁ、女の子の手だなぁ)

 リドナーは久し振りの感触を素直に喜んでいた。10日ぶりくらいだろうか。ジェイコブとの用事や討伐部門に回されたことで忙しくしていたのであった。

「元気そうで良かった」

 ティアが自分を見上げて告げる。最初に出会った頃、付き合い出した頃の遠慮も消えているように思えた。

「ピィピィ」

 ドラコも左肩に乗っかって、頬に顔をすりすりと寄せてくる。

「なかなか会いに来れなくてごめんね。でも、ティアちゃんこそ、元気そうで良かったよ」

 1人と1匹からの歓待を受けて、リドナーは笑顔で告げる。

「ドラコも。相変わらずタプタプだなぁ、お前」

 リドナーはドラコのたてがみを撫でてやりつつ告げる。ずしりとした重みを肩に感じるようにもなった。

「寂しかったし、お話したいこともあって」

 もじもじと恥ずかしそうにしながらティアが切り出す。

 不思議そうにそんなティアをドラコが眺めているのであった。さっきまで自分を怒っていた剣幕はなんだったのか、とそんな風情である。

「ごめんね。いろいろ体制組み直したり、誰がどこまで何をするのかを決めたりしてたら、あっという間に何日も経っちゃってさ」

 頭を掻きながらリドナーは言い訳をする。

「制服変えたり、ジェイコブさんに連れ回されたり、大変だったんだ」

 討伐部門の制服は黒地で襟元に空色の線をあしらうこととなった。

「本当に大変そう」

 ジェイコブの名前を聞いて、ティアが嫌な顔をする。

「クルルルルッ」

 ドラコも身体検査のときの嫌な思い出があるからなのか。唸り声をあげた。

 三者三様にジェイコブには良い印象がないのである。思わずリドナーは苦笑いを浮かべてしまうのであった。、


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― 新着の感想 ―
リドナー君に振り切られたジェイコブさんの絵面を想像したらとても面白かったです。 体力、無くて良かった。 これでティアちゃんとドラコちゃんの行き詰まりは何とかなってくれればと思います。 KEY-ST…
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